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93 包囲

 ーーゼルフィング商会。


 この国では、魔道具販売の商会で名を知られているが、知り合った大陸の商人の話では、いろいろ黒い噂がつきまとっているらしい。


 いわく、国を裏から操っている。いわく、秘密結社である。いわく、魔王の配下である。いわく、世界征服を企んでいる等々。


 だが、噂があるだけでゼルフィング商会はまっとうに商売をし、オン商会と言った大手からは絶大の信頼を得ているらしいのだ。


 そんなゼルフィング商会で働き、大陸一つを任されるサイレイトと言う青年が只者ではないだろう。


 ……気を引き締めんとならんな……。


「あ、わたしもゼルフィング商会に雇われている身で、ゼルフィング家の者ではありませんよ」


 オン商会のヤツもそうだが、サイレイトさんも大手にありがちな威厳をまるで見せない。もちろん、礼儀を蔑ろにはせず、相手を威圧しないようにしている。


「こちらは、その名だけで萎縮しますよ」


「わたしどもも同じですよ。失礼な言い方にはなりますが、辺境に近いこの国でゼルフィングの名を出したら大変な歓迎を受けるのですからね」


 おどけたように語るサイレイトさん。


 たぶん、わかって言っているのだろう。ゼルフィング商会の魔道具は、この国のあり方を変え、豊かにしている。


 まあ、まだ村や都から遠い地までは伝わってないが、都は魔道具により快適になっている。花屋ですら冷蔵庫があったくらいだからな。


 オン商会は、米を買い取ってくれることにより、戦争で破綻しそうな財政を立て直したとか話を聞いた。この国が国としてやっていけてるのは、オン商会とゼルフィング商会がいるからだろう。


「わたしどももゼルフィング商会の名には助けられてますよ。ゼルフィング家の方々の伝は、こんなところまで!? と驚くくらいいりくんでますからな」


 リュウランさんが会話に入ってきた。


「いやいや、オン商会の伝も侮れませんよ。オン商会とは長年取引させてもらってましたが、まさか地方の町にまで手を広げているんですから」


 その話からして、伝が伝を呼び、ここに集まったってことだろう。でこその大商会なのだから。


 和やかに会話しているが、どちらも大商会の者だけあって隙を見せない。つばせり合っているかのようだ。


「リュウラン様。サイレイト様。そろそろ話の本題に」


 と、大商会の者にも負けないセイロさんが二人の会話に押し入った。


「おっと。これは失礼致しました」


「いやはや申し訳ありません」


 二人揃って頭を下げる。なんの躊躇いもなく、自然のままに。


 腰が低いと言うよりは、素でやっている感じだ。


 威張るわけでもなく、威圧するわけでもない。これがうちのスタイルだとばかりに自然体だった。


 ……それが一層手強く見えるから参る……。


 これが傲慢不遜ならやりようはあるし、遠慮することもないのだが、こうも相手を立ててくると警戒警報が大音響で鳴り響くぜ……。


 相手の要求をすべて飲む。一見、いいように見えるが、好条件と言うブロックを積み重ねられ、下りられない状況に追いやられてしまうってことだ。


 美しい薔薇には刺がある。ではないが、優しいだけで商売はできないし、大きくもなれない。万が一、優しさだけで成り上がったのなら下手な悪魔よりたちが悪いわ。


 不純な善意や悪意は怖くはないが、純真な善意や悪意は対抗するのも困難。見たら即逃げろ、だ。


 ……まさに今の状況がそうだが、脱出の機を逃したのなら前に活路を見出だすしかないか……。

 

「では、まずはわたしから」


 事前に話し合っていたのか、まずリュウランさんが口を開いた。


「タカオサ様。あの空飛ぶ乗り物をお譲り、またはお貸しください」


 売るために輸送機を見せ、買う者は絶対出てくると読んでいた。が、まさか大陸の商人から言われるとは想像できなかったわ。


「オン商会は、飛空船を所持しているのでは?」


 ましてや長年取引しているゼルフィング商会は、飛空船を扱っており、大陸で使っている飛空船はすべてゼルフィング製だと聞いている。


「はい。所持していたのですが、三賀町(さんがまち)で海竜の群れに襲われ沈んでしまいました」


 あのときのかと思い出しながらサイレイトさんを見る。ゼルフィング商会ならあるだろうと。


「さすがに我が商会でも飛空船は貴重です。移動は馬車になりますよ」


 そりゃそうか。飛空船も魔力で飛ぶもの。気軽には飛ばせないわな。


「ゼルフィング商会の支部がある灯火町(とうかまち)ならあるそうなのですが、そこまで馬車を使っても一月以上はかかる上に、最華町(さいかまち)へ続く街道が通れなくなり、隊を組むのもままなりません」


「船を使えばよろしいのでは?」


 飛空船はなくても魔道船ならあるだろう。こんなファンタジーな海を渡るにはファンタジーに適した船じゃないと渡れないからな。


三賀町(さんがまち)沖合いに海竜が住み着いたせいで、どの港からもこれないのだ」


 と、副事官殿。


「つまり、三賀町(さんがまち)は孤立したも同然と言うことですか」


 最華町(さいかまち)から物は流れてこず、港は完全閉鎖。唯一無事な隣町である朱穂町(あかほまち)もこのことを知れば守りに入り、食料や物資を溜め込むだろうよ。流通が断たれたのだから。


「タカオサ様が持つ乗り物を譲ってくださるか、お貸しくださるのならオン商会は三賀町(さんがまち)に援助させていただきます。もちろん、タカオサ様にはそれ相応のお礼はさせていただきます」


「タカオサ殿。わたしからもお願いする。オン商会を助けて欲しい」


 副事官殿も頭を下げ、セイロさんも頭を下げた。


 なるほど。包囲は完璧ってわけか。こりゃ参ったわ……。

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