91 先制パンチ
村に入り、花原集落に入ると、なにやら騒がしい。
「なんだ?」
集落の連中が道でしゃべり合っている。
今は田植えも終わり、一休みな時期だが、それぞれの家は畑に植えた野菜やら、集落ごとに木を切りにいったりもする。
女だけならまだしも男まで道に出てしゃべり合うなんて初めての光景である。
まあ、気にはなるが、これと言った知り合いはいないので、そのまま村長のところへと向かう。
「……こっちもか……」
花原集落と同様に花木集落も人が道に出てしゃべり合っていた。
花木集落にもこれと言った知り合いはいないので、そのまま進んだ。
村長んちが見えてきた頃、門の外に人馬組の若い衆が木の棒を持って、警備するかのように等間隔で立っていた。
「なにかあったのかい?」
そう人馬組の若いもんに尋ねたら、おれとわかるなり駆けていってしまった。
他の者に尋ねようとしたが、すぐに村長のところへといけと言うばかり。ほんと、なんやねん?
行商隊がきた程度でこんな厳戒態勢は強いたりはしないが、魔物が出たときのような緊張感はない。第二種警戒態勢ってところか?
門を潜ると、三賀町からきたと言う荷馬車がところ狭しと止まっていた。
「なんの大移動だよ?」
タナ爺が十五台と言ってたが、それ以上だ。行商隊が四隊くらい集まったかのようだ。
「こりゃ村長はてんてこ舞いだな」
村長には行商隊を受け入れる義務みたいなのがあり、村長のところにすべてを集約させてあるから、行商隊が二隊もこれば結婚式と葬式が一緒になったくらい忙しくなる。
おれも傭兵時代に三隊集まった経験があるが、汗を流しながら仕切る村長に同情したものだ。
「ってか、これだけ集まるのは異常事態か」
行商隊が二隊集まるなんて希であり、三隊集まれば異常が起こったってことだ。
「叔父貴!」
行商隊を眺めていたらタルヤの声が響いた。
「おう。久しぶり。元気……ではないようだな」
なんかやつれているように見えるがどうしたよ?
「なに呑気なこと言ってんだよ、早く村長のところにきてくれ!」
そんな義理もない、と言う前に腕をつかまれ、奥へと引っ張られてしまった。
村長の屋敷の前まで連れてこられると、行商隊の頭だろう男たちや、傭兵の頭たちがたむろしていた。
「不知火!?」
「不知火だ!?」
おれを知っている行商隊の頭や傭兵の頭がいるようだ。
二つ名がつくから顔が知られていわけがないとは思うが、おれが考えているより顔が知れ渡っているようだ。行商隊も傭兵も知ってるヤツは……一人いた。
「……金鳳花……」
たむろしている外に、三賀町で見た金鳳花がいた。
この中では格が低いようで、外側からこちらを見ていた。
「叔父貴!」
引っ張られて村長の屋敷へと入れられた。
村長の屋敷に入るのはこれが初めてだが、結構、しっかりと造られ、清潔に保たれていた。
まあ、千花村の屋敷よりは華はないが、威厳を保つくらいには豪勢ではあった。
「村長! 叔父貴がきました!」
タルヤが奥に向かって叫ぶと、女中頭の……なんだっけ? 顔は何度か見たことはあるが、直接関わったことがないので名前は知らなかった。
「どうぞお入りください」
まず、説明してもらいところだが、女中頭に言っても無駄なので、一礼して上がらしてもらった。
廊下を進み、奥の間へと通された。
そこにいたのは村長、白髪混じりの五十代の男、大陸の商人と西洋風の顔をした青年。六原屋のサイロさん、そして、大がつきそうな老魔術士がいた。
重要会議に説明もなく呼ばれた平社員のような気分になるが、肝が据わるような日々を生きていたお陰で挫けないでいられる。こちらを見る目を真っ正面から受け止めた。
「座れ」
と命令する村長に思わずため息が漏れてしまう。
白髪混じりの男の身なりと上座的な場所に座っていることからして役人。それも上位の役人だろう。
そんな上位の人間に言われたら従うしかないだろうが、ならばこそちゃんと説明しろと言いたい。おれの失態は自分の失態なんだぞ。
なんて言うだけ無駄か。威圧でしか村を治めることしか知らないのだから。
「まず、はっきりさせておこう」
立ったまま言う。
「おれは、花木村の村長から人物帳から外すと言われ、好きにしろと答え、それから村に一切頼らず、村の外で生きている。そうなると国の外、つまり、法の外にいると言うことだ」
そう言って座った。
「それで、おれはなぜ呼ばれたのでしょうか?」
ニッコリと笑って見せた。




