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09 森王鹿(もりおうじか)

 まるで足に翼が生えたように軽やかに山の中を駆けていた。


 まあ、ほとんど万能さん任せで、中身はなにもしてないんですけどね。


 ……あんまり万能変身能力に頼るのも問題だな……。


 せっかくレベルアップする体なのだから上げれるなら上げておきたい。風呂に入るときやアレなときは裸にならんとならんのだからな。ダルダルの体は恥ずかしいですもの。


 数分で山一つ越え、三十分もしないで去年、森王鹿を見た山に到達した。


 森王鹿と言うのはこの辺に生息する巨大鹿で、結構攻撃的な性格をしている。


 単独なら万能スーツを纏わなくてもなんとか倒せるが、二匹いたら逃げるのが大吉。ベテランの狩人でも逃げ出すことだろう。


 ……あいつら、持久力がバケモノだからな……。


 デカいくせに敏捷で、垂直の崖は登るわ、木は蹴り倒すわで、欲に眩んだバカ者が毎年のように殺されている。おれも若い頃に狩ろうとして死ぬ思いをしました。レベルアップする能力さま、本当にありがとうございました!


「てか、いねーな」


 今の時期ならいると思ったんだが、餌場代えたか?


 生命探知レーダーを一キロに広めてみたが、コロ猪や走り鶏と言った小動物しかいなかった。


「コロ猪は旨いけど、狛犬の腹は満たされないしな」


 ウサギくらいのサイズで狩りやすい生き物だが、狩りやすい故に狩人しか狩ってはいけない決まりがある。この時代、国の法より村の法。破ると村八分になるからご注意だ。


「ん? 鬼猿の群れがいるな」


 大陸ではゴブリンと呼ばれるらしいが、この島(広さは知らないが、前世の日本みたく島なんだってよ)のゴブリン──鬼猿は敏捷で力が強く、六級の傭兵がやっと倒せるレベルだ。


 大陸にいるゴブリンは毛が生えておらず、鈍足で非力。子どもでも倒せるそうだ。ただ、繁殖力は鬼猿の比ではないそうで、よく大繁殖して町をいくつも壊滅させてるそうだ。怖いね~。


「狩るのはいずれとして、森王鹿を探さんとな」


 餌場を求めて移動する獣だからいないのもしょうがないのだが、探すとなると手間だ。あ、ドローンに探させるか。


「それに地図も作りたいしな」


 簡素な地図はあるものの、前世の記憶がある者からしたら落書きレベル。そのせいで死にそうなこともあった。死への地図なんていらんわ!


 万能スーツからピンポン玉くらいのドローンを十機作り出して放った。


「小さいとは言え、性能を高めると魔力の消費が激しいな」


 オンリーワンのものだからなんとも言えんが、この万能スーツ、ちょっと燃費が悪くね? もう三分の一を切ったぞ。


 自分が生み出す魔力ではドローン一機どころかナイフ一本作るのが精一杯な感じだ。


 ……三十六年分の魔力が貯まってなかったら詰んでたな……。


「こんなことなら魔力もレベルアップできるようにするんだったぜ」


 万能変身能力を見込んでたから肉体だけのレベルアップしない。まったく、神さまはよく見てるぜ。

 

 嘆いてもしょうがないとは言え、人間だもの、そんな簡単には割り切れないよ。くすん。


「ふざけんじゃねー!」


 こんにゃろーとばかりに近くの木を吹き飛ばしてやった。


 余りの威力に殴ったところが粉砕し、残った上の部分がこちらに倒れて来た。


 ゴン! と頭に当たるが痛くはない。いや、心は痛いです。マヌケにもほどがあるわ……。


 倒れた木を椅子にしてドローンから送られてくる情報を眺める。


 万能さんがよく働いてくれるので、景色だけ見てるのだが、木ばっかりだな。


 人類は平地。魔物は山って言うざっくりした棲み分けがあるから山に人はいない。まあ、この辺は村の狩人の活動域なのでいる場合もあるが、今日はいないようだ。


「薬草とかあるかな?」


 医者なんて大きな町にしかいないので、田舎は薬草に詳しいばあ様かじい様が数人いるくらい。なのに、八十まで生きる老人がたくさんいるこのファンタジー。謎だわ。


 ドローンの一つが白名草と言う腹痛に効く薬草を映し出した。


 他のドローンも薬草を映し出す。やはり、村の狩人が来るだけあって薬草は多いんだな。


 おれも何度か護衛として駆り出されたが、山歩きは素人。ここまで来るのに丸一日かかったもんだ。


「……魔力が貯まったら採取ドローンを作って集めるのもいいかもな……」


 万能スーツがあれば薬なんていらないが、あれは秘密にしておかなければ厄介事が流星は如く降り注いで来る。だからって万能さんを封印してては望んだ意味がない。


 ほどよく使ってほどよく儲けよう。ほどよく贅沢したいし。


「お。やっと森王鹿を発見したか」


 距離はあるが、万能さんの前ではご近所みたいなもの。ちゃっちゃと狩って帰りますか。


 森王鹿がいるほうへと駆け出した。


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