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88 帰宅

 カグナ鳥の狩りは大猟だった。


 赤目退治で逃げなかったんかい? とか疑問に思う方々もいるだろうが、カグナ鳥も水の上なら安全と知っているので、遠ざかるくらいしかしない。


 そこを遠距離射撃で狩るおれら。いや、ハルマは三匹しか仕留められなかったから、ほぼおれが狩ったようなものか。


「悔しい!」


 とハルマは憤慨していたが、初めてで三匹も狩れれば立派なものだ。標的ボールを投げたときも思ったが、こいつは身体能力が高い。


「練習あるのみさ」


 才能はあるだけでは宝の持ち腐れ。使って伸ばして工夫してこそ輝くのだ。


「さて。今日はこのくらいにして帰るか」


 狩りも狩って四十三羽。ちょっと狩り過ぎたかな?


 まあ、翡翠(ひすい)なら一食で三羽は食べそうだし、羽毛はいくらあっても構わない。余れば万能倉庫で保存すればいいか。


 狩ったカグナ鳥は、回収ドローンで朝日(あさひ)に運んでいるので、おれたちは村まで手ぶらだ。


 途中、人馬組(じんばぐみ)が駆け回っているのが見えたが、まだ確認作業をしてるのか?


 そんなに時間がかかるものか? と思いながら道なき道を進んでいると、見た目、なめこのようなキノコが生えているのに気がついた。


「コハか」


 水場近くになるキノコで、味噌汁や鍋に入れるといい味を出してくれるキノコであった。


「よくよく見れば、結構生ってるな」


 万能アイで見れば、だがな。


「他にもベフにサンラ、ロシュロも生ってるのか……」


 不思議なことに、この島になるキノコには毒がないものが多い。なのに、田舎ではそう食卓に上がったりはしない。町では当たり前のように食うのに、だ。


「……巳治呂村(みちろむら)で食ったコハの味噌汁、旨かったなぁ……」


 あれは旨かった。長雨に打たれたあとだったから特に旨かったっけ。


 できることなら採りたいところだが、ここは村の所有地。雑草だろうが村の財産なのだ。勝手に採ることは御法度である。


 村長の屋敷につくと、この人そこに生えてんの? と言いたいくらいヨシアさんの立ち位置が動いてなかった。


「タカオサさん!」


 門に現れたおれたちを見つけるなり、こちらへと駆けてきた。


「どうかしましたか?」


「どうかしましたではありません! 赤目は生きてるんですか!?」


「ええ。生きてますよ。動けないくらいに魔力を吸い出しましたから」


「なぜですか!? 危険ではありませんか!」


「殺したのがお望みなら首でも斬りましょうか? ただ、そのときは大量の血が流れますよ。それで起こる問題は千花村(せんけむら)で対処してくださいね」


 赤目の血に毒などないが、血は沼に流れ水を汚すかもしれないし、血の臭いで狼や鬼猿を呼ぶ場合もある。村の中や周辺での狩りには気をつけなければならない。


「あ、いえ、申し訳ありません。信じられないことばかり起こるので……」


「構いませんよ。ヨシアさんはまだ理性的なほうです。酷いとわめき散らして魔物が出たのはこちらのせいだと言う村長もいますからね」


 そう言う村は二度と依頼を受けないし、傭兵網で要注意と伝わり、やがて滅びる。諸行無常である。


「先ほども言いましたが、赤目は明日取りにきます。安全のため、近づいたりしないでください。蛇はしぶといので、動いて巻き込まれたらケガしますよ」


 一応、注意はしておく。バカはどこにでもいるからな。


「あの網は大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ。斧を叩き込んでも切れませんから」


 遠慮なく、飽きるまで試してください。竜にだって破れない強度にしてますんで。


「報酬は明日、あの乗り物に詰め込んだら依頼達成としてください」


「あ、え、はい、わかりました」


「それと、つかぬことを訊きますが、この村ではキノコを食わないのですか?」


「キノコですか? いえ、食べますよ。ここは、雑穀も生りませんからな」


 それでいて余るほど生っているってことか。ここは、そう言う環境なのかな?


「キノコがどうかしましたか?」


「いや、村で消費し切れないのなら売ってもらおうかと思いまして。おれのところはキノコが生りませんのでね」


 生ることは生るが、探すくらいなら買ったほうがいいくらいしか生ってないのだ。


「はぁ。欲しいのならお譲りしますよ」


 よくわかってないような返事をするヨシアさん。まあ、商売に意識を向けられるほど世間は知らないか。主産業は連坊華(れんぽうげ)や蓮根なのだから。


「それはよかった。採ってきたら採ってきただけ買い取らせていただきますよ。そうですね。同じ種類を背負い籠一杯集めたら銅銭五枚でどうですか?」


「銅銭五枚ですか!?」


 ヨシアさんにしたら考えられない値段だろう。そこら辺の草を集めたら買うと言っているようなものだからな。


「本気ですか?」


「本気ですよ。ただ、なくなるまで採られると、次が買えないので程々にしてください。来年も再来年も食べたいので」


 売れるとわかると根絶やしにするまで採る時代だからな。


「別に隠す気もありませんし、独占しようとは思いませんので言いますが、キノコは町で人気がある食材です。ただ、遠い町へ運ぶとなると、日持ちができるよう加工しなければいけませんがね」


 加工するにも技術がいるから、すぐにはできないだろうし、過剰供給したら値下がりする。ましてや商売を知らない者が町で売れるようにするには苦労しかないだろうよ。


「売らないのもよし。欲をかくのもよし。村でどうこうできるならどうぞどうぞ。すべてはヨシアさんの判断です」


 ニッコリ笑ってみせた。


「……怖い方だ……」


「商人はもっと怖いですよ。安く仕入れ高く売りますからね」


 当たり前は当たり前だが、録な利益が出ない村からしたら詐欺だと言いたくなるだろうさ。


「キノコはいいですよね。一年中、なにかが生っている。小屋を建ててキノコを増やすとか、夢が広がります」


 おれも万能ハウスを作って増やすけど、手間隙を考えたら買うほうが主となるだろうがな。


「まあ、何事も先立つものが必要ですがね」


 今度はニヤリと笑ってみせる。


「……タカオサさんとは、これからも仲良くしたいものです……」


「それはこちらの台詞でしよ。では、また明日きますね」


「はい。お待ちしております」


 と、深々と頭を下げるヨシアさん。こう言うことをできる人とは長く付き合いたいものだ。


 朝日(あさひ)に乗り、我が家へと向かった。

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