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86 魔力売買器

 それでは開始ーーといきたいところだが、もう昼。ミルテとハルミが作ってくれた愛情弁当を食べましょうだ。


 村長代理のヨシアさんから許可を得たので、朝日(あさひ)を呼び、テーブルと椅子を出して愛情弁当をいただく。


「父ちゃん、見られてるんだけど……」


「余所者は注目を浴びるものさ」


 まあ、それだけではないが、愛情弁当をいただくのが重要である。


 握り飯に漬物、カブと菜っ葉の煮付け、鱒の塩焼きと、贅沢で幸せな昼飯である。


「いい身分だな」


 と、十八、九の男が現れた。


 身なりからして人馬組(じんばぐみ)ではないな。顔つき体つき、そして、綺麗な手からして村長の一族だろう。たまにいる、口だけ野郎だな。


「ああ。いい身分だよ」


 嫁や娘が作ってくれた昼飯が食える。そして、昼間からビールが飲める。これがいい身分でなければなにがいい身分なのだ。おれは言う。断言する。まさに至高の身分である! と。


 まあ、理解されないだろうから言わないけどな。


「クソ! こっちは赤目に食われかけてんだぞ!」


「それは、この村の自業自得だ。年寄りを捨てて赤目を引き寄せたんだからな。さらに異変を放置して赤目を肥えさせた。認めもせず、反省もせず、都合の悪いことを他人に負わせる無知蒙昧(むちもうまい)ぶり。不満があるのなら契約破棄をすればいい。まだ、金は支払われてはいないんだからな」


 証文は書いたが、まだ赤目退治は始めてない。そちらが気にくわないと言うなら、こちらは破棄しても構わんさ。


 言葉に詰まる男。どの村も次代には苦労してそうだ。


「止めぬか、シロタ」


 村長代理のヨシアが登場。シロタと口にした男を黙らせた。


「申し訳ありません。甥をキツく叱っておきますのでご勘弁を」


「なに、謝罪は結構。こう言うのはうちの村にもいましたからね。お気持ち察します」


 薬にもならない甘ったれな(ぼん)がいずれ村長になるかと思うと、もうため息しか出ない。村長代理のヨシアさんからしたら胃が痛いことだろうよ。


「そちらもご苦労があるようだ」


「なに、村に属しているわけではありませんし、完全に自給自足しております。どうぞご勝手に、です」


 村の事情に口を出す気はない。まあ、裏から手は回しているけどな。


「羨ましい限りです」


 心から出た言葉なのだろう。実感が込もっていた。


「そちらがよければ融通しますよ。もちろん、いただきものはいただきますが」


「先立つものがありませんよ」


 現実がちゃんと見えている人でなによりだ。


「先立つものはありますよ」


 そう言うと、訝しげな目を向けてきた。


「誰にでも魔力があることはご存知で?」


「え、ええ。まあ……」


 椅子から立ち上がり、万能素材ホで昔風のポスト大の魔力売買器を作り出す。


「ヨシアさん。危険なものではないので、このガラス面に手をつけてみてください」


 斜めになったパネルを指差しながら言うと、これと言った躊躇いもなく手をつけた。思いっきりがいいこと。


「ガラス面の上に数字が出たでしょう? それがヨシアさんの魔力です」


 ヨシアさんの魔力は29と高かった。


「これは魔力を買い取る魔道具です。魔力100で銅銭一枚と交換しますし、味噌や醤油、酒などの食料、または魔道具等などでも交換しますよ」


 そう説明したが、いまいちピンときてないようだ。


「一人から魔力10を集めるとして、十人で銅銭一枚。五十人で五枚。百人なら十枚となる。千花村(せんけむら)に何人いるか知りませんが、三百人近くはいるでしょう。単純計算として、一日で銅銭三十枚は稼げるわけです」


 三十枚なんて少なすぎると思うだろうが、味噌は小樽一つ買えるし、米なら一俵は買えるだろう。


「魔力の上下はありますし、村の全員が、とは無理でしょうが、普通に生きてて一日銅銭三十は稼げる。十日では三百枚。二十日で六百枚。まさに生きてるだけで丸儲け、ですな」


 なによりおれがウハウハなのが最高である。


「……こ、これを、村に……?」


「ヨシアさんの許可をいただければ、ですがね?」


 ダメなら諦めるまで。だがまあ、否とは言わんだろう。先立つものがあるんだからな。


「も、もちろんです! 村に置いてください!」


「では、設置を許可してくださった礼にこれを進呈させてもらいましょう」


 アンカーガンを一丁作り出した。


「それは?」


「簡単には言えば矢に紐をつけたようなものですね」


 なにかよい標的はないかと辺りに目を向ける。が、ないので野球ボール大の標的を作り出した。


「ハルマ。これをあっちのほうにおもいっきり投げろ」


 標的ボールをハルマに渡した。


「わかった。いくよ!」


 なかなか綺麗なホームで標的ボールを遠くに投げた。


 アンカーガンを向け、引き金を引くと、ワイヤーのついたアンカーが射ち出され、標的ボールを射ち抜いたーーところで引き金を戻すと、アンカーの反しが広がり、ワイヤーが伸びるのを止めた。


 もう一度引き金を引くとガン内のモーターがワイヤーを巻き上げ、標的ボールを引き寄せた。


「これで赤目の子は釣れるでしょう。まあ、練習は必要ですがね」


 もちろん、自己修繕機能搭載の魔力充填型にしてあります。ただ、大きい獲物には使えませんし、手から離したらなくなりますからご注意を。


「アンカーガンは、銀銭六枚でお譲りしますし、銅銭十枚で一日貸し出すこと可能です」


「ありがとうございます!」


 いえいえ。ありがとうございますはこちらのほうですよ。ククク。 

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