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83 教材

「……父ちゃん……」


 不安そうな声を出しておれの後ろに隠れるハルマ。子どもには厳しいか。


「大丈夫だ。心配するな」


 堂々と構え、安心できるよう優しく言ってやる。


「せっかく他の村にきたんだ、よく見ておけ。世間を知ることもまた強くなるために必要なことだからな」


 広い考えをするなら広い世界を知らなければならない。それが見たくないことだとしても、な。


「わ、わかったよ、父ちゃん」


 おうと答え、頭を撫でてやる。


「しかし、このままだと昼になりそうだな」


 二時間くらい狩りをして帰る予定だったんだが、こりゃ夕方までかかりそうな気配だ。


「父ちゃん、いったいなんだって言うの?」


 人馬組(じんばぐみ)の険しい気配になにかを感じたんだろう。子どもは感受性が高いからな。


「たぶん、魔物が出たんだろう。人馬組(じんばぐみ)が槍を持つときは大体それだからな」


 花木村でもそうだが、普段、人馬組(じんばぐみ)は木の棒しか持たない。それが刃がついた槍を構えるとなれば、見過ごせないくらい被害が出たか、人が食われたかだ。


「決断の早い村長なら、なにかあった時点で人馬組(じんばぐみ)に槍を持たせ、なにか魔物の気配を感じたら傭兵団を雇うものだが、そんな村長は滅多にいないな」


 追い込まれてから必死になり、最悪の状況で傭兵団に丸投げ。しかも安い報酬しか出さない。よくやってたと感心するぜ。


「じゃあ、父ちゃんに魔物を倒せって言うの?」


「十中八九そうだろうな。それも傭兵団を雇う金をケチって、安く済ませようとしてるんだろうな」


 そう言う教えでも伝わってんのか? と思いたくなるくらいどの村も同じことをするんだよな。


「だったら帰ったほうがいいんじゃないの?」


「そうしたいが、翡翠(ひすい)にカグナ鳥を持って帰る約束したし、ハルマの教育にちょうどいいかと思ってな」


 いきなり対処しろとは言えないが、事例として見せるには手頃だろう。魔物の正体はだいたい想像がつくし。


「ハルマはおれや村長の言動、周りのヤツらをよく見ていろ。いずれお前には戦闘集団を率いてもらい、こう言う交渉もしてもらうんだからよ」


「わ、わかった」


 任されることにプレッシャーを感じて返事は硬いが、目はやる気に満ちていた。よしよし、頑張れ。


 人馬組(じんばぐみ)を睨むように見るので、自然に、表情を殺すように見ろと教える。


 ……こいつには参謀役が必要かもな……。


 その純真さは親としては嬉しいが、戦闘集団の長としては不安でしかない。参謀役に適したヤツがいたら即行で確保しよう。


 十数分過ぎてやっと先ほどの男が戻ってきた。


「お前らだけだ!」


 今さらだが、走り番を連れてこいよと思う。


「なら、あんたらがそれを見張ってくれるんだ? なんかあったら弁償してくれるんだな?」


「なぜそんなことしなくちゃならない!」


「財産を置いていけとはそう言うことだからだ。なんの補償もなく、村の管轄外に置け? それは捨てたと思われて、拾われても文句も言えない。知っていて言ってるなら山賊と同じだし、知らないでやっているのなら短慮と言うもの。どちらにしてもこちらを下に見ている証拠だ」


 ここも傭兵など格下と見なし、いいように使ってやろうとしか考えてない。自分たちが仕事を与えているとかアホなことを思っているのだ。


「まあ、なんの権限もなく、村長が言葉を伝えるだけしかできないあんたに言っても無駄か。わかった。おれらだけでいくよ」


 ハルマの教育はこのくらいにして、さっさと話を前に進めよう。遅くなると翡翠(ひすい)がうるさいからな。


「あれには触れるなよ。まあ、命が惜しくないと言うなら好きにしろ」


 まあ、命まではとらないが、死ぬかと思ったくらいにはなるのでご注意を、だ。


「んじゃ、案内してくれ」


 顔をしかめる男を促す。こいつも典型的なヤツだぜ。


 人馬組(じんばぐみ)に必ず一人はいる、虎の威を借る狐タイプで、なぜかよそ者を毛嫌いするのだ。


「フン! ついてこい!」


 吐き捨てるように鼻を鳴らし、おれたちに背を向けた。


「ああ言うの、花木村にもいただろう?」


 男についていきながら、ハルマにこそっと囁いた。


「う、うん。いた。鼻持ちならないって大人たちが言っていた」


 ほんと、不思議だよな。人が社会を築くと、決められたかのように現れるんだからよ。


「上に媚びへつらい、下の者には傲慢不遜な態度をとる。こう言うのは薬にはならないが毒になることが多いから気をつけろ。問題をさらに大きくしたり、ここぞと言うときに足を掬うから」


 すべてがすべてではないが、村での依頼はこう言うのに注意しないといけないのだ。


「わかった」


 真剣に頷くハルマ。まあ、今はいるとわかっているばいいか。これも慣れだしな。


「そう言えば、これって田んぼ? 稲には見えないけど」


「これは蓮根畑だよ。連坊華(れんぽうげ)だけでは食っていけないからな」


 この世界の蓮根は春と秋に生り、冬越しの食材としても重宝している。こちらにもある辛子蓮根はすこぶる旨いんだぜ。


 辛子蓮根でビールを、とか考えていたら村長の屋敷に到着してしまった。


 連坊華(れんぽうげ)と蓮根の儲けを示すかのように花木村よりデカく立派だった。


 ……なるほど。こりゃ花木村の村長よりワンマンかもな……。


 門を潜ると、人馬組(じんばぐみ)精鋭、的な男たちが浅木色の上着に銛のような槍を手にしていた。


 ……やはり、アレが出たか……。


「あんたがタカオサさんかい。おれは千花村(せんけむら)の村長代理、ヨシアだ」


 と、屋敷の前に立つ白髪混じりの四十半ばくらいの男が口を開いた。


「これはどうも。カグナ鳥を狩りにきた。狩り代を払うので沼での狩りをさせて欲しい」


 単刀直入に、目的を話した。

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