82 千花村
おれたちが目指す場所は千花村だ。
三賀町の近隣(と言っても二十キロはあるが)村で、たくさんの沼があるのが特徴だろう。
沼が多いので田んぼは作れないが、沼に生る連坊華と言う花を採って生計を立てている。
連坊華は赤と黄色、紫とあり、染め物の原料となっており、大陸にも輸出されているとか。興味がなかったので、このくらいしか知らないのだ。
「ハルマ。千花村だ」
助手席に座り、空の世界にトリップしているハルマに教えてやる。
返事はないが、構わず着陸体勢に入り、村の門の前にある広場に着陸させた。
この広場は行商隊の待機場でもあるので、結構広く均されているのだ。
「ハルマ。降りるぞ」
頭を振ってやり、現実に連れ戻す。
「え、あ、うん」
ハッチを開けて外に出ると、千花村の門番だろう男が二人、こちらに槍を向けていた。
まあ、こんなものに乗って現れたら無理はないか。と言うか、門から出てきて槍を構える気概があることにびっくりだわ。花木村なら門の中で槍を構えるだろうよ。
「驚かせて済まない。おれはタカオサ! 傭兵だ! カグナ鳥を狩りにきた。村長に許可をもらいたい!」
花木村の者とも言えないし、身分もないので傭兵と名乗る。許可を得るのは沼が千花村の所有で、そこにあるものを盗ると縛り首になるからだ。
「そんな話聞いてないぞ!」
「これは個人の狩りだ。傭兵仕事ではない。狩り場代は払うので村長にとりつないでくれ!」
狩り場代なんてものがあるか知らないが、金を払うと言えば許可してくれるだろう。ダメなら三賀町にいくまでだ。
「待っていろ!」
と言うので待つことにする。
「ハルマ。許可が出るまで一休みするか」
朝日の収納ボックスから折り畳みのテーブルと椅子を二脚出し、カボチャパンとプロラジュース、そして、ビールを並べた。
「……いいの、父ちゃん……?」
「なにがだ?」
「あ、いや、あの人、槍向けてるけど……」
見れば男が一人、槍をこちらに向けていた。ご苦労さんなこった。
「構わんさ。別に襲いにきたわけじゃないし、ダメだと言うなら場所を変えるまで。のんびり待つとしよう」
椅子に座り、ビールをいただく。かー! うめー!
おれの態度に不承不承ながら納得し、椅子に座ってカボチャパンに手を伸ばした。
「朝はそうでもなかったけど、今食べると旨いね、これ」
「おやつに食う菓子パンは旨いからな」
よくわかってないみたいな顔をしながらもカボチャパンを咀嚼しながら頷いていた。
まあ、それをわかれと言うほうが悪いので、構わずビールを楽しむ。
ーーと言ってもビールを飲んでばかりはいられない。ドローンを放ち、周辺の情報を集めんとな。
見張りにバレないよう朝日から偵察ドローンを十機、放った。
「あ! カグナ鳥だよ、父ちゃん!」
ハルマの指差す方向にカグナ鳥が編隊を組んで飛んでいた。
こちらの渡り鳥もV字で飛ぶんだな~と、どうでもいいことに感心してしまう。
「また飛んできた」
「千花村にもくるとは知ってたが、結構くるんだな」
千花村からカグナ鳥の駆除依頼の話はなかったから、そんな大群でないんだろうとは思っていた。だが、百匹以上は飛んできている。
「被害はでないのか?」
連坊華は食わないだろうが、くると言うからには餌になるものがいるってのことだ。それとも歓迎されてるのか、千花村では?
……カルガモ農法みたいなことをやってるのかな……?
こりゃダメかなと諦めかけてきた頃、村長に連絡にいった男が戻ってきた。人馬組らしき男たちとともに……。
「村長があんたと話がしたいそうだ。きてくれるか?」
人馬組の代表者らしき男が前に出て、そんなことを口にした。
ふふん。村長がおれを、ね~。
「それはつまり、村に入ることが許された、ってことかい?」
「ああ、そうだ」
はい、言質はいただきました。
「じゃあ、それに乗って村長のところにいくよ」
おれの言葉にざわめく人馬組の連中。やはり、考えもしてなかったか。
「それはダメだ! お前だけだ!」
「おいおい、今、あんたは言ったよな。村に入ることが許されたと。なら、おれの財産を持って入るのは当たり前だろうが。違うと言うのなら、この村は行商隊にも同じことするのか? 人と馬車は違いますと村に入れないのか? それとも盗まれたら千花村が補償してくれんのかい? どうなんだ?」
と言って答えられるヤツはいないだろう。交渉の権限も与えられず、ただ村長の命令に従うしかないのだからな。
「ちょ、ちょっと待っていろ!」
人馬組の男は、そう言うと走っていってしまった。仲間になんの指示も出さず、こちらの気も遣わずに。
「……どの村も同じか……」
そうなるのはしょうがないし、求めるほうが間違っている。わかってはいるが、前世の記憶があるだけにやるせないぜ。