59 開拓
プリンの効果か、シミュレーションの結果か、ハハルの操る優月はスムーズに飛び上がり、ぶれることなく三賀町へと飛行していた。
その後をおれの輸送機ーー朝日が続く。
「倍のサイズなだけあって魔力消費が多いな」
優月で三賀町に向かったとき、片道の飛行で魔力1000は消費した。
数十分で着けることを考えたらお得な消費だろう。花木村から三賀町まで徒歩で街道をいけば二日はかかる。早馬なら半日でいけるだろうが、荷物を積んで行商隊なら三日はかかるだろう。魔物でも出たら死ぬことだってあるんだからな。
「いずれは行商隊も組織しなくちゃならんか」
なんでもかんでも万能さん任せでは、おれの休まる暇がないし、カナハたちの代で苦労する。任せるところは今の技術に任せ、どうしようもないときは万能さんにお願いする。
まあ、おれの匙加減で気分次第かもしれんが、基本、その方向でいこう。
百メートル先を飛ぶ優月の速度が緩まり、朝日の横につく。
「おじちゃん、下の川って三白川?」
優月から通信が入る。
「ああ。そうだよ」
「舟はいないんだね」
「米を運ぶとき以外、舟は使わないからな」
前世でもあったが、この世界でめ米を舟に載せて運んだりする。だが、魔物がいる世界では河川工事なんてできるわけもなく、下流に流れた舟は街道を使って運んでくる。
国で行う事業だから村に負担はないが、それ以外のことに使おうとしないお役所仕事には呆れるばかりだ。
「優月サイズなら下れるかな?」
舟が下れるなら優月でもなんとかなると思う。そうなれば水上輸送とかもできそうだな。
「おじちゃん、海だよ」
昨日見たのに嬉しそうな声をあげるハハル。あ、空から見るのは初めてか。いきも帰りも荷台にいたから……。
「ハハル。先におれが降りる。その軌道を辿って降りてこいな」
「わかった」
昨日のように一旦海まで出て、緩やかに旋回させて港に降り、昨日と同じ桟橋に接岸させた。
「魔力2800を消費か。やっぱ消費量が多いな」
万能さん製造だから燃費はいいのだが、毎日6000近く消費すると考えると胃が痛くなるぜ。
朝日から出ると、優月は着水体勢に入り、なかなかいい感じに着水する。
今回は緊急処置としてやっとが、次回からはシミュレーターを作って学ばさせるか。あんまり脳をいじるのは危険だしな。
桟橋の向こう側に優月が着き、ハッチをハハルの開けて出てきた。
「お見事。おれより上手かったぞ」
まあ、おれの場合は万能さんに補助してもらって飛んでるがな。
「あれだけやらされたら嫌でも上手くなるよ。それより、この服、なんとかならないの? 恥ずかしいよ」
プロポーションがはっきりでるパイロットスーツ。着物のような文化では恥ずかしいか。
「右の手首辺りに三角の絵があるだろう。それに触れて着たい服を思い浮かべてみろ。それでパイロットスーツが変化するから」
「わ、わかった」
シミュレーションである程度の知識も覚えさせている。疑問に思うことなく三角マークを触り、瞼を閉じた。
三角マークからハハルの思い浮かべた薄桃色の着物へと変化していく。
「おー! 変わってるぅ~!」
「よくそんなデザイン知ってたな」
「シミュレーションの中で見たの」
万能さん、実は意思とか持ってたりして。いや、ないか。考え過ぎだな。
「ーーやはりお前らか!」
と、管理所のナルマさんかやってきた。
「ああ。今日もよろしく」
笑顔を見せると、なぜか渋い顔された。なんでよ?
「お前らの船は目立つのだ、興味を持つ者が押しかけててんてこ舞いなんだよ」
まあ、確かに目立つし、興味を持たれて当然か。
「そいつはご苦労様。規定を守って対応してくれ」
個人情報など安売りされる時代だが、信用信頼は大事にされる時代。管理費を払ってなんかあれば管理所の落ち度だ。下手なことは言えないし、下手なこともできまいて。
「言われなくてもわかっている」
ある意味では信じられる管理員だな。
「もし、毎日利用するなら管理組合の組合員になれ。もちろん、金はかかるが、組合員にはいろいろ融通が利く。身分証明にもなる」
ほ~ん。そう言うのがあるのか。入っておいたほうがお得かな?
「船場的な場所はあるかい? こっちのデカいのが泊められそうなところは」
朝日を指差す。
「その大きさになるとさすがに米問屋が押さえてある。借りるのは無理だろう」
そりゃそうか。米で成り立っている港だしな。
「町の外、なら勝手に泊めたらいい。町の管轄ではないし、開拓をすれば開拓権が得られる。もちろん、国には登録して税を払わなくちゃならんがな」
「町の中央役所でも登録できるのかい?」
「もう何十年と開拓する者は現れてないから、まだ部所があるかは知らんがな」
そう言うと去っていってしまった。
開拓、か。三賀町に拠点は作ろうとは考えていたが、外のほうが好き勝手できそうだな。
よし。ナルマさんの助言を採用しよう。