58 期待してるよ
なんて、こっぱ恥ずかしい話はこれまで。膨れた腹も落ち着いたので午前の仕事を頑張りましょう、だ。
「ハルマは葦集めの続き。ハルミは葦を柔らかくしろ。ミルテは料理の勉強。遠慮なく食材を使えよ。カナハは魔力操作の訓練だ。給水タンクを満杯にしろ」
それぞれがわかったと頷く。
「おじちゃん、あたしは?」
「お前は、いろいろだよ」
優しく笑ってみせる。
「……なんか、あたしだけ皆と扱いが違うんじゃないかな……?」
「そりゃ違うのは当然たろう。お前に一番期待してるんだからさ~」
いまいる中でハハルは間違いなくエースだ。扱いが違うのは当然。期待もするのも当然。いろいろやってもらうのも当然じゃないか。なに言ってんだろうね、ハハルちゃんは。
アハハ。
「いいな、ねーちゃん。おじちゃんに特別扱いされて」
「だったら目を見て言いなさいよ! 代わってあげるわよ! ちょっ、待ちなさいよ!」
「ほんと、姉を思うカナハは優しいな」
「絶対、面倒なことをあたしに押しつけたよね! おじちゃんは面倒なことやらせるつもりだよね!」
「ハハルのそう言う真実を見抜く目、神がかってて頼もしいな~」
「そこは否定してよ! 煽ててよ! あたし、いったいなにされるの!?」
暴れるハハルを外に連れ出し、優月の運転席に乗せ、逃げたせーーではなく、安全のためにベルトで固定する。
「今日からこの優月はハハルのものだ。自分色に染めていいからな」
万能素材でハハルの頭にぴったりのパイロットスーツとヘルメットを作ってやり、収納されているバイザーを下ろす。
「……なんか、嫌な予感がするんだけど……」
「大丈夫大丈夫。嫌なことなんてないよ。ただ、ちょっと、ほんのちょっと頭が痛くなるだけ。体に害はないから心配するな。そうだ。頑張るご褒美に綺麗な服を買ってやろう。なんなら髪飾りもつけちゃうぞ。お前の欲しいものはなんだって買ってやるさ」
頑張る子には最大はご褒美を。それがおれのモットーだ。
「……程々でいいので、程々にしてください……」
「ハハルは欲がないな。もっと欲張っていいんだぞ」
「……あたしは、程々の人生で満足です。堅実に生きたいです……」
涙を流しながらしおらしいことを言うじゃないか。可愛い姪っ子だ。
「そうか。なら、程々で堅実な人生を送るために頑張らないとな。田舎の娘がそこまで辿り着けるのは百人に一人だしよ」
勝手な確率だが、そう間違ってはいないと思う。田舎のほとんどは今日生きるのに必死で、そんなこと考える余裕すらないのがほとんどだからな。
「さあ、優月の扱い方をしっかり学べよ」
万能さんによる万能空間でのシミュレーション。なに、三十分で一年は経験したくらいには覚えるだろう。ガンバレ。
「では、スタート」
ピクンとハハルの体が跳ね、全身の力が抜けて万能空間へとダイブした。
さて。プラロジュースとナイフを積みますか。
まずはハハルがプラロジュースと試作のプロラ酒を入れ、優月に積む。
木箱は六本入りで三ケース。プロラ酒一ケース。ナイフは一箱なので五分もかからないで終了。タバコでも吸おうかと思ったが、皆が働いているところでのんびりするのも気が引ける。
なので、輸送機をもう一機作ることにした。
最初は試行錯誤しながら作ったので一時間くらいかかったが、万能データに入っているので作るのは五分もかからない。
が、これは三賀町での拠点にするので優月の二倍以上大きくして、コンテナを着脱できるようにする。今回は買う量が多いからコンテナをもう二つ作っておくか。何回か往復するかもしれんしな。あ、そうなるとリヤカーが必要か。少し大き目のを作っておこう。
置場所も作っていると三十分が経つ。あとは三賀町にいってからと、作業を中断してハハルを見にいく。
万能空間から出たようで、バイザーが自動的に上がっており、なにか虚ろな目をしていた。
「生きてるか?」
主に精神面が。
「……おじちゃんのバカ……」
両手を顔に当ててさめざめと泣くハハル。どうやら精神は正常のようだ。
「頑張ったハハルには美味しい美味しいお菓子をあげよう。皆には内緒だぞ」
万能素材でハハルの舌にジャストミートするプリンを作ってやる。
「……なにこれ……?」
「卵を使ったお菓子だ。世界のどこを探してもこれ以上のプリンはないだろうな」
まあ、世界を知っているわけじゃないし、誰かが作ってるかも知れないが、このプリンはハハル専用。これを食べたら他のプリンは食べられないだろうよ。
容器の蓋を外してやり、スプーンを渡す。
「……甘い香りがする……」
プリンの容器をつかみ、渡したスプーンでプリンを掬う。
しばし見詰めた後、掬ったプリンを口の中に。無表情だった顔がプルプルと揺れ、口角が上がり、徐々に表情が崩れていった。
百年の恋も覚めるような表情になってしまったが、見てるのは叔父たるおれ。愛情はあっても恋はないので、その幸せを邪魔しないでいた。
「……美味しいよぉ~……」
感極まって泣き出してしまった。
ハハルの舌にジャストミートさせたとは言え、ここまでなるとは元々甘いめのが好きな舌だったのだろう。なにか目覚めさせてしまった感があるが、ハハルが気持ちよく働いてくれるなら安いもの。いい餌ができたと喜ぼう。
「……おじちゃん……」
「うん?」
「あたし、一生おじちゃんについていく」
なんかカナハも同じこと言ってたな。やっておいてなんだが、安い女にしないよう気をつけよう……。
「そうか。なら、一日三つ、優月の冷蔵庫に作り出せるようにしてやる。働きによっては違うお菓子も出してやる。カナハたちには内緒だぞ」
「うん! 内緒にする! あたし、いっぱい働くよ!」
その欲望やよし。いっぱい働いて自分の欲望を満たせ。ただし、体重の増減は自己責任な。




