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56 今日がまた始まる

 挨拶を済ませた後、皆は朝の仕事へと向かった。


 ハルマは(あし)集め。カナハは水汲み。ハハルはプロラジュース詰め。ミルテとハルミ、そして、おれでコロ舎の掃除に取りかかる。


 村で藁を集めるには時間がかかりそうだし、(あし)は腐るほどあるので藁代の節約だ。


 プロラジュースは、六原屋(ろくはらや)に卸すため。昨日の受け取り時、プロラジュースを試飲してもらい、売れると言うので買い取ってもらう約束を交わしたのだ。


 コロ猪の世話は、ミルテとハルミに任せるので、コロ舎の使い方や掃除のやり方を教える。


 まあ、コロ舎は万能空調で病原菌やウイルスを駆除してくれ、餌は採取ドローンが集め、コックを捻れば出るので苦はない。水も同じだ。


 糞や寝床の(あし)は、集めて廃棄ダストへポイ。あとは勝手に肥料としてくれ、別タンクに集められる。


「結構、肉体労働なんだね」


「疲れた~」


 農作業で体を使って二人でも掃除や餌くれは別の筋肉を使うようだ。


「ご苦労さんな。もう少し落ち着いたら人を雇うから我慢してくれ」


 コロ舎はもっと大きくして、増やす方向でいる。それまでは二人に頼むしかない。


「あんちゃん、あたしらそんな苦痛じゃないよ!」


「おじちゃん、あたしも全然平気だよ!」


 なにか、二人が必死に言ってくる。


 大丈夫。もっと働く。頑張ると、まるで捨てないでと言っているようだ。え? おれ、そんなふうに受け取られるような言い方した?


「落ち着け。誰もお前らを追い出したりはしないよ」


 おれの説明が足りなかったかも知れないが、いきなり捨てられる発想にいたるお前たちもどうかと思うぞ……。


「いずれ花崎湖(はなざきこ)周辺をおれの土地にする。商会を立ち上げ、畑や畜産、小店、宿屋、傭兵団と商売を広げていく。人手はどうしても増やさなくちゃならないし、人を教育しなくちゃならない。そんとき、頼るのはお前たちだ。捨てるなんてあり得ない。どちらかと言えばおれのほうがここにいてくれと頭を下げるほうだ」


 もう一人は嫌だし、この幸せを失いたくない。こいつらをいさせてるわけじゃない。いてもらってるのだ。


「お前たち、ここにいるのは嫌か?」


「嫌じゃないよ! ずっとここにいたい!」


「あたしもここにいたい! おじちゃんといたい!」


 ちょっと、どころか、ヤバいくらい涙が出そうだ。


「……ありがとよ。お前たちに捨てられないよう頑張るよ……」


 世の父親が家族のために働く理由が理解できた。こいつらを幸せにしたい……。


 なにか、このくすぐったい空気に堪えられない。


「あ、おれは別の仕事があるから朝飯頼むな」


 二人の生暖かい眼差しから逃げ出した。


 外に出て物置と作業場を兼ねた小屋へと向かう。


 気持ちを切り替え、プロラジュースを容れた瓶を入れる箱を作るとする。


 プロラは広範囲に生るので、毎日五十リットルは貯まる。


 一千リットルの保存タンクを用意したので、まだまだ貯められるが、プロラの味を知ってもらうためにも少しずつ卸していこうと言う計画だ。


 今日の出荷分は二リットルの瓶(万歳素材製)に十六。一つ銅銭二十枚で卸す。


 少々高くはあるが、蜂蜜入りで飲みやすさ抜群。冷やして飲んだら病みつきだ。金持ちなら喜んで買うだろう。試飲したミゲルさんは、自腹で四つも買うと言ってたからな。


 丸太を一本持ち上げ、万能スーツに飲み込ませる。


 万能空間に溜め込まれ、万能処理され、右の手のひらに木箱が作られる。


「うん。これがほんとの万々歳」


 おっと。深く考えたら負けだぜ。さあ、木箱作りを続けますかね。


 で、丸太一本分で百八十箱もできてしまった。ちなみに積むのは作業ドローンに任せました。


「……置き場所、どうしよう……?」


 作っている途中で気がつけって話だが、自動でさせてたので気がつくのが遅れました。


 ま、まあ、いずれ使うんだし、万能シートで覆っておけば腐りはしまい。作業ドローン、よろしく。


 木箱を自動に任せて作っていた間に作っていた刃渡り二十センチのナイフを箱に詰める。


 剣の需要は少ないが、ナイフの需要は結構あったりする。とは知ってはいたが、大量注文を受けるほど需要があるとは知らなかった。


 注文の際、詳しくは聞かなかったが、三賀町(さんがまち)の中堅鍛冶屋が近接の村に引き抜かれたらしい。


 たぶん、田んぼを増やせと言うお上からお達しが原因だろう。開墾には斧や鍬だと鉄製の道具が消費される。鍛冶屋を持たない村は、いるところから引っ張ってくるしかないからな。


 そんな中堅鍛冶屋はナイフや鍋を主に作っているから、引き抜かれて供給が追いついてないのだろう。

 

 ならば、儲けれるときに儲けておこう。ナイフは腐るものではないし、商売を邪魔したと言いがかりをつけられることもない。この隙にタカオサ印の金属製品を知らしめておこう。ちなみに狛犬の顔がタカオサ印です。


 ナイフは全部で三十本。鞘はなし。革製品を売る店に言いがかりをつけられないために作りません。


「おじちゃん。(あし)はこのくらいでいい?」


 背負子一杯に積んだハルマがやってきた。


「そうだな。今日もコロ猪を持ってくるから、あと三回分は必要か。うん。今日は釣りはしなくていいから(あし)を集めて乾燥させてくれ」


 あ、藁を保管しておく小屋とかも必要か。まったく、素人考えは浅はかでたまらんな。


「わかった。やっておくよ」


「おう。(あし)を集めるときはナイフを意識して、スッと切れるようにしろ。ナイフはあらゆる状況で役に立つ。魔物の解体、戦闘、野戦、夜営と、使う状況はたくさんある。その歳から使っていれば大人になったときは一流の傭兵にも負けない腕になってるさ」


 ほーっと感心だか感激だが、目を大きくして抜いたナイフを見詰めていた。


「おじちゃーん! 朝御飯できたよー!」


 ハハルが家の前で大きく手を振っていた。


 わかったと、こちらも大きく手を振って答えた。


「さあ、ハルマ。朝飯だ。いっぱい食っていっぱい(あし)を集めてくれ」


「うん、いっぱい集める! ナイフの扱いも上手くなるよ!」


 頑張れとハルマの頭をわしわしして家へと向かった。

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