表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/233

53 霊樹(れいじゅ)

 翡翠(ひすい)に押し切られる感じで天宝(てんぽう)を採りにいくことになった。


 なったのだが、生憎と翡翠(ひすい)の説明では、その場所がわからなかった。


 あっちに真っ直ぐ向かって、岩が見えたらそっちだ。とかでわかるか! 野生の感覚で言ってんじゃねーよ!


 と怒鳴ったら、なぜか背に乗せられて、一匹と一人でいくことになったのです。はぁ~。


 狛犬の背に乗ると言う異常であり貴重な体験をしているのに、まったくなんの感慨も湧いてこない。逆に売られていく子牛のよう気分になるのを堪えるのに必死だわ……。


 暗闇の山の中を疾走する翡翠(ひすい)。こう言うところは野生なのに、なんで性格はニートのように残念なんだろうな。不思議な生き物だよ。


「まだ、かかるのか?」


 体感時間で三十分。感覚では翡翠(ひすい)の速度は約七十キロ。山を越えて谷を越えて、たぶん、四十キロは来たはず。


 魔物が犇めく世界では、基本、山は人跡未踏。余程重要なことがなければ入らないし、開拓もしない。人ではどうしようもない未知の生き物が生息しているからだ。


「もうすぐだ」


 狛犬のすぐがどんだけか知らねーよ。と思ったすぐ、山の頂上付近で停止。身を屈めた。


 おれが降りやすいように、ってわけじゃない。翡翠(ひすい)の気配から、なにを警戒するために身を屈めたのがわかった。


 おれも万能スーツを全身に纏わせ、気配、臭い、熱などを遮断する。


「これ以上はデクどもに察知される」


 翡翠(ひすい)もいつも以上に気配を殺して、ゆっくりと、警戒しながら先に進む。


 デクがなんなのかわからないが、狛犬が警戒するなら余程のものだろうと、ネイルガンを作り、いつでも射てるように腰にホルスターを作って収めた。


 頂上に辿り着き、翡翠(ひすい)が目を向ける先を追った。


 万能さんにより、日の下で見えるように視界はクリアだが、これと言った生き物は見て取れない。


 だが、不可思議な樹は見えた。なんだあれ?


 見た目はもみの木と言うかツリーと言うか、三角形の樹が生えているのだが、なにか蔓のような物に覆われているのだ。


「あれが天宝だ」


 たぶん、三角形の樹のことを言っているのだろう。バイザーモニターを拡大してみると、金色の桃が実っているのがわかった。


 不可思議な樹ではあるが、別に危険は感じないし、その近くに生き物は見えない。って言うか、周りは拓けてるな? まるで人為的に草木がはえないようにしている感じだ。


「やはり、デクが増えたな」


 お前の目にはなにが映ってんのよ?


「魔力を見ろ」


 魔力? と言うので、魔力感知センサーを働かすーーと、三角形の樹の周り、拓けた場所に数万もの魔力反応があった。


「蟲か?」


「それではない。もっと視野を広げろ」


 え? 違う? 視野を広げろ? どう言うことだよ?


「手前の木々だ。天宝(てんぽう)を囲むようにデクがおる」


 だからデクってなんだよ? わかるように説明しやがれ。


 睨むが説明する気はなさそうなので、ため息一つ吐いて視野を広げてみる。


「ん?」


 木々の中に魔力の反応がある。だが、熱反応はないし、動体反応もない。視界にも映らなかった。


「なんで木から魔力の反応が?」


 誤差動か? と近くの木を見れば魔力反応はない。って言うか、万能さんが誤差動とかあり得ないだろう。したら神様が介入してるか、あそこに神様がいるかだ。


「それがデクだ」


 木がデク? 魔力がある木? ん? もしかして、それって霊樹(れいじゅ)のことか?


 ーー霊樹(れいじゅ)。簡単に言えば木の魔物だ。


 山にいるので、人の生息域では滅多に見ることはないが、たまにバカな金目ちが観賞用として栽培(?)して、なにかの拍子に凶暴化。そして傭兵に狩られる。なんて話を聞いたことがある。


「……結構な数がいないか……?」


 魔力の強弱はあるが、二百近い反応がある。もう壁と言ってもいいくらいだ。


「あのデクは動きはしないが、枝を伸ばして襲ってくるのだ。しかも、魔力を吸い取る。忌々しいデクよ」


「よく、食いにいこうと思うよな」


 好物とか言ってるからには食ってるってこと。アホだろう、お前。


「少々魔力は吸われるが、力業でいける」


 こいつ、意外と脳筋!?


「じゃあ、力業でいってこいよ。おれを連れてくんなよ」


 おれを巻き込む必要ないよな!? 食いたきゃ食ってこいよ! ついでにお土産に採ってきて。


「楽に食いたいから(ぬし)を連れてきたのだろうが。なんとかしろ」


 こ、この駄犬がぁっ!


「それに、魔力が欲しいのなら好都合だろう。デクは魔力を吸い、溜め込むからのぉ」


 確かに霊樹(れいじゅ)ーーデクの魔力は500から800と、なかなか美味しい量を持っている。それが二百近くある。単純計算でも十万はあるってことだ。見なかったことにはできない。


 が、翡翠(ひすい)が力業と言うところに引っ掛かりを覚えるんだよな。


「あのデクは、枝を伸ばして襲ってくるだけか? なんか他にもあるんじゃないか?」


「うむ。毒を吐くヤツや眠らせるヤツ、幻を見せたりするのもいるな。あと、溶かす水を吐くのもいたな」


 それを平然と口にする狛犬が凄いのか、デクがえげつないのか、ただまあ、厄介なのは十二分に理解できた。


 はぁ~。さて、どうしたもんかね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ