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50 女の傭兵団

 コロ猪が小さいとは言え、さすがに二十匹もとなると凄いことになる。万能素材で檻を作り、二段にしてもリヤカー一杯になってしまった。


 ……まだ買うのが残ってるのに……。


「これで優月(ゆうづき)の半分が埋まるな」


 こんなことならもっと大きく作ればよかったぜ。


「今日はこれで終わりにするか」


 三納屋(みのうや)の分がどのくらいになるかわからんし、必要最低限の食材は集められたはず。慌てることもあるまい。帰ってコロ猪を飼う場所も作らんとならんし。


「ハハル。確か村で豆を作ってたよな?」


 村で味噌を作ると聞いたことがある。なら、その元たる豆を作っているってことだ。


「うん。木白(きしろ)で作ってるよ」


 木白(きしろ)とは東にある集落だが、知り合いもいないのであまり馴染みがないのだ。


「じゃあ、豆は村で手に入るか」


「豆なんてどうするの?」


「コロ猪の餌にするんだよ。コロ猪はなんでも食うが、いろいろ食わせると肉が不味くなるんだよ」


 まあ、豆だけでもダメだから野菜や果物もやる必要があるがな。


「飼うのも大変なんだね」


「旨い肉を食うには手間暇かける必要があるからな」


 前世の記憶だけでなく味覚まで蘇ったせいか、不味いものを食うと悲しくなるのだ。


「一旦港にいってコロ猪を積むぞ」


 輸送機は空調もしっかりしてるからコロ猪を積んでも死にはしないだろう。


 傭兵所(ようへいどころ)の裏から出ると、十二、三の娘の集団が通り過ぎていった。


「……おじちゃん、あれは……?」


 なにか異様なものを感じたハハルが尋ねてきた。


「売られてきた娘たちだよ。様は口減らしだな」


 時期的にはズレているが、まあ、大きい町じゃ珍しくもない光景だ。


「冬前なら税が払えず娘を売るってことだろうが、今の時期となると、たぶん、村が魔物に襲われて復興する金を得るために売られたんだろうよ」


「……売られる……」


 ここ数十年、花木村ではなかったからハハルには衝撃なことだろうよ。


「どこに売られるの?」


「見た目と器量がいいのなら花屋。運がよければ商家。運が悪ければ伽場(とぎば)だな」


 伽場(とぎば)に落ちることは滅多になかろうし、飯が食えるくらいは稼げるから村よりはましだろうよ。


「……あたしは、運がいいんだね……」


 花屋も伽場(とぎば)も知らないだろうに、今の自分がどれほど恵まれていることを理解したようだ。


「まあ、運不運は回るもの。運がいいときに備えて、不運を乗り切れだ」


 身に染みてわかる。備えは大切だってな。


「そう難しく考えるな。今は自分のことだけ考えろ。明日も腹一杯食えるように今日を働けばいいんだよ」


 田舎の娘にできることはその日を生き抜くことだけ。まずは自分を救え、だ。


「そう言えば、女の傭兵団があったな」


 前世の記憶が蘇る前は、女の傭兵団は当たり前だったが、蘇ってから考えると、結構異常なことだよな。


 傭兵は荒くれた商売。大の男でも勤まらない過酷なものだ。そんな勤まる男なんて盛りのついた猿のようなもの。いやまあ、それは言い過ぎだが、傭兵の八割は男だ。そんな世界で女がやるには男以上に過酷なものだ。


 ……あ、いや、そうでもないか? 二つ名の女傭兵もいるし……。


 思い返せば、女とか関係なしに化け物みたいのがいたし、女だからと油断して痛い目に合ったバカは結構いる。あれ? そうなると異常なことではないか? 当たり前か? 


 前世の常識と今生の常識に悩んでいると、前から武装した女たちがやって来るのが見えた。


 どこかに遠征してたのか、どいつもくたびれ、汚れていた。だが、港のほうから来るとは珍しい。船で帰って来たのか?


 まあ、港町なだけあって船で移動するときもあると、気にせず道を譲り通り過ぎようとしたら、その中の誰かが「不知火(しらぬい)」と口にした。


 知ってるヤツか? と目を向けるが、まったく記憶にない、二十歳過ぎくらいの女だった。


 まあ、共同で仕事をした女の傭兵団はいくつかあるし、十五、六から傭兵をする者もいる。知っていても不思議ではないか。


 不知火(しらぬい)と口にしただけで、それ以上のことは口にせず、そのままいってしまった。


 おれもそれ以上、意識することなく港へと向かった。


 港に来ると、商船らしき船が二隻、桟橋に繋がれていた。


「……大陸の船か……」


 この国は主に米を輸出してるが、二十年前くらいから味噌や醤油、清酒なども輸出している。


 なんでも大陸のまた海を越えた大陸で味噌や醤油が流行り、こいして直接買いに来る大陸の商人がいると聞いたことがある。


 

「だったらエールでも持って来てくれたらいいのによ」


 そうしたら少ない魔力でビールに変えられるのに。なんて思ったらビールが飲みたくなってきた。


「ハハル。あのじいさんから魚でも買ってこい」


 さっきのじいさんがまだいて、なんか大漁な感じだった。釣れないとか言ってたような気がするが……。


 清酒を渡し、初めての交渉と買い物を経験させることにした。


「あ、うん。わかった」


 さて、どうなることやらと、ビールを作り、飲みながら見学する。


 なにやら自然と話しかけ、なにか和気藹々。これと言った交渉もなく、大量の魚と清酒を交換してしまった。


 ……こいつ、もしかしてとんでもない才能持ちか……!?


 あまりのことに飲みかけのビールを落としてしまった。

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