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25 花木集落

 タナ爺と世間話を、といきたいところだが、いつまでものんびりはしてられない。田舎の移動はとにかく時間がかかるのだ。


「おっと。そろそろいかんと帰りが遅くなるわ」


「そうだ。最近、黒走りをよく見るし、明るいうちに帰ったほうがいい」


「黒走り、そんなに見るのか?」


 それ、よくない前兆だぞ。


「タナガさんが道中で何度も見たと言っておった」


「やっぱりタナガの爺様来てたか」


 タナガとは中規模の行商隊を仕切る爺様で、傭兵時代からの馴染みなせいか、いろいろ融通してくれるのだ。


「ああ。お前がいないからがっかりしとったよ」


 がっかりは言い過ぎだろう。馴染みはあるが深い付き合いではない。商売上の関係だしな。


 そうかいと言い残し、村長のところへと向かった。


 この道は街道で、物流の要なのでよく整備されているが、前世の記憶が蘇ったあとでは畦道(あぜみち)にしか見えない。


「……どんだけ遅れてんだよ……」


 世界をそんなに知っているわけじゃないが、大都市や魔道具を見るだけで、ここが何百年と文化や技術が遅れているのはわかる。


 まあ、ファンタジーな世界だ、不可思議な発展の仕方をしていてもしょうがないだろうが、もうちょっと文明が発達したところに生まれたかった。前世の記憶を持ったまま、江戸時代(初期か?)っぽいところに転生とか苦行でしかねーよ。


「おじちゃん、あたし、帰るね」


 カナハが住むーーと言うか、おれの実家がある木崎(きざき)集落は、村の西側にあり、三十戸ほどの家が集まっている。


 集落の規模的には一般的だが、店屋もなければ飲み屋もない。つまらないことこの上ないところだ。ほんと、よくこんなところで生活してたもんだわ。


 まったく、知らないとは幸せなことだぜ。


「ああ。お前のことはおれが話すから、兄貴に聞かれてもわからないと言っておけ。蜂蜜もねだられたら素直に渡しておけ。下手に拒むな。しょうがないな~と言ってその場を流せよ」


 大家族の中で生きてると、感覚的に処世術を覚えるものだが、一番下は弱い存在。前世のように要領よくて育つなんて滅多にない。


 まあ、その滅多にいないタイプのカナハでも蜂蜜の欲を回避させるのは難しいだろう。なので、一応釘をさしておく。


「……そんな……」


 納得できないのはまだカナハが子どもと言うこと。まったくしょうがねーな。


「小さな欲に負けた者は長生きできないし、小さな得しか得られないぞ」


 しゅんとするカナハの鼻をつまみ、その勢いで開いた口に米から作った蜂蜜入りクッキーを放り込んでやる。


「────」


 おれの舌に合わせて作られたから旨いのは旨いのだが、もうクッキーを食いたいと思う歳でもなければ、甘さを求める体でもない。万能さんの能力を確認するために数枚作ったまでだ。


「……美味しい……」


 咀嚼して飲み込んでからの一言。やはりおれと似ているようで、恍惚とした表情を見せていた。


「そんなものが毎日食える日々が来るんだ、たまにしか食えない者に大きな心を見せてやれ」


 おれの言いたいことがわかったのか、満面の笑みを見せた。


「うん! わかったー!」


 そう元気に返事をして駆けていった。まったく、調子のいいヤツだぜ……。


 しばらく見送ってから、村長のところへ向けて歩き出した。


 南の三原(みはら)集落を抜け、二百メートルほど歩くと本集落ーー花木(はなき)集落に到着する。


 元々はこの花木集落が始まりで、何百年かけて開拓して今の大きさとなったーーわけだが、何百年もかけてこの規模なんだからつくづくファンタジーな世界は生き難くてたまらんわ。


 本集落なだけあって戸数は百近くあり、村の最終防衛線なので柵に囲まれている。


 まあ、最終防衛地点ではあるが、最終でもなければ門は開きっぱなし。門番もいないから素通りである。


 門を潜るが、道に人はなし。ってまあ、それは当然。ここは農村。農業をしてナンボのところである。日があるうちは田んぼに出ているのだ。


 のだが、なにやら村長の屋敷が賑やかだ。なんだ、いったい?


 疑問に思いながら村長んちの門を潜る。


 本来ならここが最終防衛線になるのだが、さすがに村の者を収容できる広さはない。今は権威と泥棒避けにしか役に立ってないな。


 屋敷の前は米を集めたり運んだりするため、荷馬車が回るように広くなっている。


人馬組(じんばぐみ)の連中か?」


 町役場的なこともあり、そこにいるのは不思議ではない

が、全員(にしては多いな?)が集まることはまずない。村の様子を見たり、棘木の確認をしたり、木を伐りにいったりと、やることはたくさんある。


 村長のところに来て、これだけの人馬組を見たのは初めてである。いつもは連絡要員にニ、三人いるくらいなのに。


 人馬組との付き合いもなく、見知っている者もいないので、いつも魚の薫製を買い取ってくれる建物に向かった。

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