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227 ビールと家族団欒

 黒走りとも出会うこともなく夕方まで散歩し、屋敷へと帰った。


「ただいま~」


 散歩で満足した仔たちは、屋敷に入るなり玄関脇にある水飲み場へ一目散。顔を濡らしながら勢いよく水を飲んでいた。


「舌で掬いながら飲むんじゃないんだ」


 あ、翡翠も吸うように飲んでたな。狛犬の特性だろうか?


「お帰りなさいませ、旦那様」


 女中たちが現れ、帰りを迎えてくれた。


「ただいま。仔たちを頼むよ」


 おれもビールを飲みたいので女中たちに任せて先に屋敷へと上がった。


 居間へと向かうと、カナハとルヴィーがいた。


「帰ってたのか」


 なんだか姉妹のようになっている二人。親離れが早くて悲しいです……。


「うん。フレイが帰ったから」


 フレイ? あ、フレイアね。そう言えば人魚のお姫さまを放置したままだったわ。


「マーメイドスーツは気に入ってもらえたか?」


「追加で一万着お願いされた」


「一万着って、人魚、そんなにいるんだ」


 まあ、国家を創るくらいなんだから一万着も納得か。それどころかもっと追加されるかもしれんな。


「ルヴィーは帰らなくていいのか? あっちは宇宙進出で忙しくしてるが」

 

 ゼルフィング家での立ち位置はわからんが、ルヴィーはかなり高い位置にいる。それに、カイナーズの連中もルヴィーを上位に見ている。重要なことには関わっていても不思議ではない。


「う~ん。わたし、重要なこと任せてもらえないんだ。自由気ままにしてるから」


 完全に母親似だな。あいつも自由気まま──自由奔放だったから。


「そうか。なら、自由気ままにしてたらいいさ」


 ゼルフィング家もカイナーズもルヴィーの性格を理解して自由気ままにさせているのだろう。こいつはそれが魅力なんだからな。


「これと言った予定がないならカナハにも世界を見せてやってくれ。カナハはまだ小さな世界しか知らんからな」


 オレも世界を知らんが、これから嫌でも知らされる気がする。まあ、前世の記憶があるから他者へとのコミュニケーションもできる。だが、カナハは小さな村で育ち、同年代との関係はまったくなかった。歳が近く気心が知れたルヴィーなら楽しみながら学んでくれるだろうよ。


「じゃあ、ここに住んでいい?」


 と、ルヴィー。


「住むって、うちに帰らなくていいのか? 親が心配しないか?」


 まず間違いなくあいつが母親をやっているとは思えない。誰か違うヤツが親代わりになってるはずだ。


「うちは自分のケツは自分で拭けるなら好き勝手に生きてよし、だから」


 どんな放任主義だよ。いや、育ててないおれが言えた義理じゃないけど。


「なら好きにしたらいいさ。部屋は好きなところを使え。あと、これを渡しておく」


 万能腕輪を作り出してルヴィーに渡した。


「これは?」


「腕につけてみな」


 促して腕輪をつけさせた。


「……す、凄い……」


 万能さんが腕輪の使い方を教えてくれ、その性能にびっくりするルヴィー。それがわかるだけの知識と能力があるってことか。育ての親は化け物か?


「あ、ビールを頼む。ジョッキで」


 女中が料理を運んできたのでビールを頼んだ。


 運ばれてきたビールを受け取り、いっきに飲み干した。カァー旨い! もう一杯!


「旦那様。夕食前ですよ」


 ミルテから嗜められるが、ビールはオレのエネルギー源。飲みたいときに飲まないと栄養にならないのです。


「あ、わたしも飲みたい!」


 シュタッ! とルヴィーが手を挙げた。


「酒、飲めるのか?」


「大好き! おじいちゃんみたく酒豪じゃないけど」


 おじいちゃん? どっちのだ?


「ルヴィーにビールを頼む」


 年齢的にはオッケー。飲みたいのなら飲めだ。


 おれの分も運ばれてきて、乾杯して二杯目をいただいた。


「なにこれ? 美味しい!」


「だろうだろう。もっと飲むがいい」


 ミルテも付き合ってくれるがそんなに飲まない。やはり、酒飲みとしては同じくらい飲んでくれる者がいると楽しいものだ。


「まったく、飲みすぎないでくださいよ」


 大丈夫。アルコールは生命維持機能が分解して栄養としてくれるから。


「あまりビールは飲まなかったけど、このビールなら毎日飲みたいよ」


「そんなに旨くないのか?」


 カイナーズホームで仕入れているはず。なら、元の世界の品質だ。不味いわけがないと思うんだがな?


「美味しいのは美味しいんだけど、このビールが特別すぎるんだよ。なんでこんなに美味しいの?」


 万能さんのお陰? としか言いようがないな。魔力を惜しみなく消費し、おれの舌にあったものを作っているからな。


「缶ビールにもしてあるから飲みたいなら好きなだけ持っていくといい」


 居間にある冷蔵庫を指差した。自動補給だから尽きることはないぜ。


「うん。ありがとう! おじいちゃんたちにも持ってってあげよう!」


 飲めるヤツがたくさんいそうで羨ましいことだ。早くハルマも大きく育て、一緒に飲み明かしたいものだ。


「はい、ビールはそこまで。ご飯にしますよ」


 ミルテにビールを取り上げられてしまった。


「じゃあ、いただきますか」


 ビールもいいが、やはりこうして家族で囲んで食べる夕食で心を満たすのもいいものだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「はい、ビールはそこまで。ご飯にしますよ」 こんな風に言ってもらえる内が華だね。
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