219 スペースカイナーズ
しばらくして軍用車輌が何台もやって来た。
「スペースカイナーズよ」
また安直なネーミングだな。まあ、わかりやすくていいけどよ。
「宇宙軍まであるんだ」
あっても不思議ではないが、ファンタジーな世界には不向きでしかないよ。
「カイナーズは私設軍隊だけどね」
普通、私設軍隊を持ってるヤツはいないから。いや、おれが言っても説得力はないがな!
「なんかその口振りだと、本格的な宇宙軍があるようだな?」
「数ヶ国で設立した連合宇宙軍があるわよ」
ヤダ。この世界、ファンタジーじゃなくSFだったようです!
「……この世界、ううん。この星はセーサランって宇宙生物に狙われてるのよ。あなたにも覚えがあるでしょう? レニスと戦ったって聞いたわよ」
あ、あれか。確かにこの世界の生き物とは思えなかったが、まさか本当に宇宙生物だったとはな……。
「今のところこの星に来たセーサランは全滅させたけど、いつまたやって来るかわからないわ。いろんな星を滅ぼしているようだからね」
「まるで、滅ぼされた星のヤツから聞いたみいだな?」
「今のところ判明してるのは人魚と魚人は宇宙から来たことがわかってるわ」
「判明してない種族もいると?」
「ベーの話では長命種は別の星から来たんじゃないかと言ってたわ。人の中にも別世界から来た者も混ざってるかもと言ってたかな?」
まあ、転生者がいるのだから否定はできないな。
「世界はとんでもないことになっているんだな」
「そうね。でも、世界が危ないときは導き手とされる者が生まれるそうよ。三百年前にも災難が起こったとき、導き手が生まれたらしいわ」
神と会っている身としては笑い飛ばせない。それどころか納得できることが多いくらいだ。
「ただ、連合宇宙軍と言っても宇宙戦艦一隻。バルキリアアクティー十数機しかないんだけどね」
宇宙戦艦? 誰だ、そんなアホなのを願ったのは? つーか、願って素直にもらえたのか? この世界では過剰戦力だろう?
「そ、そうか。世界を救ってくれてありがとよ」
なにはともあれ、こうして転生者の働きで生かされてたのだから素直に感謝はしておこう。
「わたしは戦ってないけど、ありがたく受け取っておくわ」
戦ってはいないが、プリッシュが重要な立ち位置にいるのはわかる。この臆することない性格はもう特殊能力の域だわ。
「お待たせして申し訳ありません。スペースカイナーズ所属技術一課、ミラクモ少将です」
ドワーフと思わしき男たちがおれの前に整列して敬礼した。
「おれは望月タカオサだ。よろしく頼む」
こちらは軍人ではないので一礼して応えた。
「それで、どうすればいいんだ?」
プリッシュに尋ねる。どうもプリッシュが仕切っており、プリッシュが一番階級(?)が上っぽいからな。
「朝日、だっけ? あれって宇宙までいけるの?」
「いこうと思えばいけるようにはできるが、支援がないと迷子になるぞ」
カーナビもなしに知らない町を走るようなもの。魔力が切れたら帰ってこれなくなるぞ。
「人工衛星があります。なんとかなりませんか?」
人工衛星まで上げてんかい! 何百年技術を進めてんねん!
「それならなんとかなるかも知れんな」
戦闘機を百機近く取り込んでいる。なら、人工衛星からの電波や信号を捉えれるはずだ。
万能さん、お願いしますと朝日型宇宙機を造って変身する。
「座席に座って使い方を学んでくれ」
「便利な能力ね」
「代償は大きかったけどな」
前世の記憶が三十六年後に蘇るとか、他の転生者より酷い介入の仕方だと思う。
「大変なのね」
神から介入されたことを知っているのか、深くは追及して来なかったので、おれもそれ以上は語らなかった。
「ミラクモ少将が覚えるまでフェヴィブを試験飛行するか?」
「そうね。飛行するところも見たいでしょうしね」
「あ、うちの若い者を乗せていただけませんでしょうか?」
と、ミラクモ少将が褐色の肌をした……エルフ? の女性を前に出した。
「彼女はゼルフィング家のメイドでマドリカと言います」
「マドリカです。よろしくお願いします!」
メイド? え? どーゆーこと? と、プリッシュを見る。
「バルキリアアクティーを一番使いこなす娘で、試験飛行をお願いしたのよ」
「スペースカイナーズにはいないのか?」
「いるにはいるんだけど、今、月まで訓練航行してるのよ」
転生者の一番の罪は、ファンタジーをSFな世界にしたことだな。
「無茶苦茶してんな」
月までどれだけ離れてるかわからんが、単独で航行とか自殺行為にか思えんのだがな……。
「まあ、なんでもいいよ。マドリカ、おれの手を握ってくれ。宇宙服を作るからよ」
「わ、わかりました」
マドリカと手を繋ぎ、マドリカ用の宇宙服を作り、纏わせた。
「じゃあ、おれが前に乗るからマドリカは後ろな」
言ってフェヴィブに乗り込んだ。
「わたしはどこにいたらいいの?」
「……そうだな……」
一応、コクピット内は重力制御できるようにしたが、うろちょろされたら困るので、座席を改造してプリッシュの席を作った。
「おー凄い凄い。わたしも操縦したくなるわね」
「必要ならプリッシュの体に合わせたフェヴィブを造るぞ?」
どんな需要があるかわからんが、欲しいと言うなら造るのも吝かではない。
「本当!? お願い! 皆、喜ぶわ!」
プリッシュに、のはずが、プリッシュの仲間たちにも造る羽目になっている。
ま、まあ、必要なものを必要なだけと言ってしまった手前、嫌とは言えない。了解と了承してフェヴィブを発進させた。