215 望月家は陰日向に
忙しいハハルと腹心の部下と言う二人を連れて戻って来た。
「へ~。本当に違う姿なんだ」
閉鎖された村で暮らしていたのに、他種族を見ても大した驚きを見せないハハル。こいつはきっと歴史に名を残す女だろう……。
「あまり不躾な目を向けるなよ」
「そのくらいわかってるよ。これでも望月家の商いを担ってるんだからさ」
本当に頼もしい娘である。こいつがいなければ家を維持できなかっただろうな。
「世の中には山梔子より大きい船があるのね」
「そうだな。これから商売する相手は、あんな船を百も二百も持った相手だ。下手な国より強大だろうな」
「父さんでは相手にならないの?」
「仲良くするなら相手できるよ」
戦うなら勝てる気がしないな。チートな能力を持った転生者が複数人集まった相手なんだからよ。
こちらはおれとハルナだけ。万能変身能力と無限の魔力だけでは数の力には勝てんよ。
「まあ、父さんなら上手くやれるでしょう。そんな相手が父さんを警戒してるんだからね」
「わかるか」
「わかるよ。こうして力を見せつけてるんだから」
おれよりこいつの才能のほうがチートだな。娘でいてくれておれは幸せだよ。
「カナハはなにしてるの?」
「マーメイドスーツの売り込みだな。おそらく大量注文を受けるかもしれん」
人魚がどれだけいるかわからんが、カイナーズなら千単位で注文されると見てたほうがいいだろうよ。
「代価はどうするの? マーメイドスーツの性能を考えたら金銭百枚でも安いくらいだよ」
「カイナーズから材料を買って価格を押さえて金銭三十枚くらいにする」
「それで凄いよね。使い道はどうするの?」
万能変身能力と無限の魔力があれば金など価値はない。溜め込んでいても場所を取るだけだ。
それを理解しておれがなにをするのかに考えが至ったのだろう。
「望月家がこの国を影から支える」
この国が住みやすい国にするために望月家が陰日向に支えていきましょう、だ。
「……父さんのそう言うところが警戒されるんだよ……」
「相手が相手だからな、弱気な姿は見せられんよ」
転生者だとバレ、ハルナのことも勘づいている気配もある。同等、とまではいかなくても油断ならぬ相手だと思わせる必要あるのだ。
「まあ、支配するんじゃなければわたしはいいよ」
「お姫様になりたいって言うんなら目指してみる」
娘の頼みなら父として張り切るぞ。
「わたしがお姫様? 笑い話にもならないわ」
ふふ。そうだな。ハハルは蝶よ花よより旅をさせたはうがお似合いの女だな。
「カイナーズにはおれらの後ろ盾になってもらうさ」
この国でもカイナーズの名は知られている。そんなのが後ろにいたら国も簡単には手を出せんだろうよ。
「父さんがそう決めたのならわたしは従うよ。こうしていい暮らしさせてもらってるんだからね」
「ハハルのそう言う現金なところ、とっても頼もしいよ」
計算ができて損得勘定もできる。一人はそう言う者がいないと海千山千の商人を相手することはできんからな。
「それで、カイナーズホームとやらにはいついくの?」
「案内人がちょうどスカイラプターに乗ったところだか……」
ハハルの説得に時間がかかると思ったからスカイラプターに乗ることを勧めたが、思いの外、ハハルはカイナーズホームにいくことを承諾し、連れもすぐに選んでしまったのだ。
「別の者に頼むか」
アイリに連絡し、シーカイナーズに話を通してもらった。
しばらくしてアイリが軍服姿の一団を連れて来た。
「すまない。手を煩わせてしまって」
おれの段取りミスなので謝罪しておく。
「いえ、お構いなく。用意が整っていればこのまま向かいますが?」
「頼みます」
連れていくメンバーは揃っているので了承した。
「では、わたしの側に集まってください。離れすぎていると溢れてしまいますので」
表現するには問題がある羽根を出した。
……ゲームのアイテムを出せることを願ったヤツがいるのか……?
「では、参ります。カイナーズホームへ──」
視界がブレ、数秒の浮遊感ののち、なにかヘリポートのような場所に現れた。
「凄いもんだ」
大陸間を一瞬にして移動できるアイテムなのに、物語の中盤にもなれば使わなくなるんだから不遇なアイテムだよな。
「シュンパネでカイナーズホームに来ると、ここに現れます。帰るときもここを使用してください」
「わかりました」
そう言えば、室内では使えないアイテムだったっけな。
「入口はあちらです」
先に全面ガラスの自動ドアがあった。
……カイナってヤツはきっと、元の世界に自重を置いて来たんだろうな……。
自動ドアに向かっていくと、黄色いエプロンをした……なんの種族だ? 頭に角が生えてコウモリのような羽根が生えているが……。
「いらっしゃいませ~。カイナーズホーム店長のカレサラと申します。皆様のご来店を歓迎致しま~す」
なんか軽いヤツだな。店長よりバーのママと言われたほうが納得できるぞ。
「店長。あとはよろしくお願いします」
「はいはぁ~い。プリッシュ様からもお伺いしてますのでお任せを」
……本当に大丈夫か、この店長……?
「では、タカオサ様。我々はこちらで待機しております。カイナーズホームをお楽しみください」
「ありがとうございます」
礼を言い、店長に導かれてカイナーズホームへと入った。
店長の名前を探し出すのに苦労したよ……。