213 誠意
場所を食堂に移した。
「レガロたちも呼んでいいかしら? シーカイナーズにも人魚はいるからさ」
「構わんよ。アイリ、頼む」
「了解した。カヌカ、レガロ司令官たちを案内してくれ」
伝令兵……はいないので、山梔子の艦長たるカヌカに頼んだ。
「すまないな。他種族との交流がなくてなにを口にできるかわからない。あそこで好きに選んでくれるか? 一応、体に悪い材料は使ってないから」
添加物など一切使ってない。科学物質がこの世界の生き物にどう影響するかわからんからな。
「やっぱり売店はあるのね」
……やっぱり……?
あ、元の世界のヤツなら売店を備え付けるのは当たり前だから、こちらの者には不思議に思えるのだろう。
「まーな。娘たちは旨そうに食ってたから問題はないはずだ」
いや、妖精に安全かはわからんけどさ。
「じゃあ、遠慮なく」
売店へと飛んでいき、一回りすると四合酒を持って来た。
アイリが飲むように置いたが、まさかそれを持って来るとは思わなかった。つーか、妖精って酒が飲めるんだ……。
「あ、コップを──」
「あ、大丈夫よ。持ってるから」
どこからかお猪口を出し、器用に四合瓶を傾けて注いだ。慣れてるな……。
「──なにこれ!? 美味しいんだけど!」
酒の味がわかる妖精のほうがなにこれだと思うけどな。
「この国の米で作った酒だよ。長寿って名前だ」
妻の名前をつけようとしたが、なぜか三人に反対されて、紆余曲折を経て長寿って名前にしたのだ。
「東大陸のも美味しかったけど、この国のはそれ以上だわ」
「正確に言うなら、それはうちで作ったものだから、この国の、ではないな」
花崎湖の水と米を酒製造機で作ったものだ。
「そうなんだ。酒の精霊が作るものより美味しいって凄いわ」
酒の精霊? そんな精霊までいるのか、この世界は……。
「気に入ったら土産にやるよ。うちではアイリしか飲まないから余分にあるんでな」
おれも付き合って飲むが、四合瓶一本しか飲まない。消費してくれるなら助かるよ。倉庫一つ分は一生かかっても消費し切れないからな。
「それは嬉しいわ。酒飲み友達も喜ぶよ」
「そうか。喜んでもらえるならこちらも嬉しいよ」
妖精の酒飲み友達ってどんなだ? と思ったが、軽く流しておいた。なんか情報量が多そうだからな……。
「あとでラフィーヌに届けておくから」
「じゃあ、お返しにこれを受け取ってよ」
と、鞄を出した。鞄?
「それは収納鞄。あなたにはアイテムボックスと言ったほうが理解できるかしら?」
ア、アイテムボックス? この世界はゲームの世界だったのか?
「まあ、輸送車くらいしか入らないけど、その中なら食べ物は腐らないから便利よ」
おそらく、転生者の能力だろう。なら、万能スーツに取り込むことは可能なはずだ。
と思ってやったら……できた。
……魔力じゃない。万能変身能力と似た力だな、これ……。
「……いいものをもらった。違う酒も贈らせてもらうよ」
万能スーツに収納機能がついた。これは革命的成長だぜ。
アイテムボックス的なものはつけていたが、置き場から転送するようなものだった。この収納機能があれば作り置きしてすぐに出すことができる。
万能さんも高度なものを作るには時間がかかる。収納機能を搭載すればミサイルが撃ち放題になるぜ。
「失礼します。レガロさんたちをご案内しました」
カヌカがレガロ司令官と副官、あと、白の制服を着た青鬼と黒の制服を着た……ドワーフ? みたいなのが入って来た。
「ご苦労。どうぞ席に。カヌカも座りなさい」
向かい合う形で席についた。
「レガロたちにはコーヒーでも出してあげてよ」
と言うので食堂のおばちゃん──ではなく、料理官に出してもらった。
「白のがカイナーズの情報長官で、黒のが技術長官よ」
「カイナーズ情報長官のタエモンです」
「カイナーズ技術長官のマイロじゃ」
なんと言うか、自分のいる世界がわからなくなるな……。
「おれは、望月タカオサ。隣は妻のアイリ。そして、山梔子艦長のカヌカだ」
こちらは軍人ではないので敬礼に一礼で返した。
「さっそくではありますが、マーメイドスーツをカイナーズに卸していただけますでしょうか?」
「売ってくれと言うなら売るのはやぶさかではないが、今、ルヴィーとリューが試している。その結果を待たなくてもよいのか?」
「お嬢様が興味を持ったのなら使えると言うこと。それで充分です」
ん? お嬢様? って誰だ?
「あ、ルヴィーはカイナのひ孫でね、古い人はお嬢様って呼んでるのよ」
ルヴィーが、孫? では、レニスの父、と言うことか?
「プリッシュ。お前は、どこまで知っているんだ?」
思えば出会った頃からおれを知っていた感じがあった。もしかして、レニスからなにか聞いているのか?
「大体のことは知っているわ。まあ、あなたが生きていたってことは最近知ったんだけどね」
最近知って接触して来るのがカイナーズやゼルフィングの恐ろしいところだろうな。
「ルヴィーは?」
「もちろん、知ってるわ。ただ、父親を見てみたかっただけ。それ以上は求めてはいないわ。ルヴィーの父親はカイナーズの皆でゼルフィング家の皆だからね」
「……そうか……」
ルヴィーが愛されているのならレニスも幸せだったと言うこと。それが知れればなにも言うことはないな。
「望むものを望むだけ用意しよう」
父親としてなにもできなかったのなら、父親の代わりをしてくれた者たちに返すとしよう。それがおれの誠意だ。