212 マッスルな人魚姫
「随分と進んだな」
月島開発は報告されているが、聞くと見るとでは違う。もう完全に軍港である。
「やはり人がいると違うな」
いろんな意味で人は力だと思うぜ。
艦橋から後部甲板へと移動し、港に入って来る空母ラフィーヌを眺める。
「そう言えば、空母って細かい動きできたっけ?」
なんかタグボートで押してたような記憶があるんだが? と、見てたら甲板から四角いものがいくつも飛び立ち、空母ラフィーヌを押し始めた。
「……あんなのがあるんだ……」
元の世界にあるものじゃないだろうから、この世界のものだろう。この世界の技術、いったいどうなってるんだ?
「コーレンって言うの。小人族が使ってたものを人サイズにしたものだよ」
とは、ルヴィー談。
「この世には、小人までいるんだ」
妖精がいた今、もう小人では驚かなくなってるよ……。
「よくあれで押せるよな?」
コーレンとやらがどう動いているかわからんが、何万トン級もありそうな空母を三十くらいで動かせるものなのか?
「わたしも詳しくは知らないけど、重力を操ってるみたい」
つまり、ファンタジーってことか。凄い凄い。
「でも、あれいいな」
一人乗り用として天烏を作ったが、自由度はあちらが高そうだ。
「一台、売ってくれないかな?」
「マーメイドスーツ十着で交換してくれるんじゃないかな」
さすがゼルフィング家の娘。商売で交渉してくるか。
「それで話を通してくれるか?」
「了解」
「──お待たせ~。遅くなってごめんなさいね」
と、羽妖精が戻って来た。なんの予兆もなく現れるって、結構怖いもんだな……。
「ってか、そちらの……なんだ?」
いや、人魚なのはわかる。なんか変な浮き輪を腰にしてるが、フォルムは人魚だ。人魚なんだが、おれのなにかが拒否しているのだ。
「我はバンデラル王国第二王女、フレイアである」
事実は事実。揺るがない事実なら素直に受け入れるべきだろう。だが、しばしおれに時間をくれ。
………………。
…………。
……。
よし! マッスルなレディは人魚。第二王女。受け入れた。
……いや、まったく受け入れられてねーけどな……!
「あなたも人魚に夢見てたの?」
「いや、夢は見てないが、想像してたのとは違ってはいたな」
夢見てたらきっと立ち直れてないだろうな。
「まあ、いい筋肉を持った王女様だな。並々ならぬ努力の結晶だ」
筋肉フェチではないが、鍛えられた筋肉と言うのはわかる。
「将軍の風格だな」
体に傷はないが、その立ち振舞いは歴戦の戦士のよう。そして、兵を率いたような目をしている。
「やっぱベーに似てるわ」
「非常識なのか?」
ベーと言われて非常識と言われるって、いったいどんなヤツなんだ?
「あれと一緒にしたら失礼よ。似てるのは根本的なところよ」
「だから非常識なんだろう?」
根本的に非常識なんだ、ベーと言うヤツは……。
「ベーから非常識を取ったらこうなるような感じ?」
「仲、いいんだよな?」
ルヴィーを見て問うた。とても仲がよいヤツのセリフだとは思わないんだが……。
「仲はイイよ。仲は」
ど、どう言う意味だ、それは?
「お、おれは、望月タカオサ。よろしく頼む」
ルヴィーの言葉を察してくれと解釈し、王女へと挨拶を返した。
「フレイアにマーメイドスーツを作ってみて。フレイアが気に入れば買わしてもらうからさ」
なんだかプリッシュの流れに乗らされているような気がしないでもないが、おれにはこの状況を仕切れないのだから任せるしかない、か。
「王女──」
「──フレイアでよい。こちらもタカオサと呼ばせてもらうのでな」
武士か! と思えるような王女様だこと。まあ、アイリも似たようなタイプだからな、それほど気にはならない。どちらかと言えば好感が持てる女だな。
「わかった。フレイアと呼ばせてもらうよ」
「あなたも種族や性別で相手を見ないのね」
「女は中身が大事だからな」
おれにだって顔の好みはある。だが、中身がクズだとどんな美人でもお断りだ。
「ふふ。フレイアはいい女でしょう?」
「まあ、うちの嫁には負けるがな」
おれは嫁を大事にする男。嫁以外の女は褒めんのだ。
「アハハ! うちの陛下に聞かせてやりたいよ!」
「……あの飲んだくれが可哀想よ……」
陛下って王だよな? 王を飲んだくれと称するこの羽妖精は何者なんだ?
「よくわからんが、話を進めるとしよう。フレイア。おれの手を握ってくれ。寸法を測るんでな」
「わかった」
差し出された大きな手を握り、万能変身能力でフレイアを包み込みんだ。
うん? あ、腰の浮き輪っぽいものまで包んでしまったな。まあ、気になってたからついでに万能さんに解析してもらおう。
万能さんの優秀さを示すかのように三秒で解析。浮き輪っぽいものの性能まで追加してマーメイドスーツを作り出した。と、言っても腕輪式にしてフレイアの腕に装着させた。
「フレイア用のマーメイドスーツを作ってみた。マーメイド装着と言ってみな」
手を離すと同時に万能変身能力を解いた。
「わかった。マーメイド装着──」
躊躇いのない王女様だよ。
蒸着するより速くフレイアにマーメイドスーツ姿となる。
黒地に銀糸でデザインしてみたが、なかなか格好いいじゃないか。
「着心地は?」
「……着ているのか? まったくそんな感じはしないのだが……」
ヘルメットはしているが、しているよには感じさせない作りにしてみた。
「カナハ。フレイアに使い方を教えてやれ」
浮いているフレイアの背中を押して海へと放り投げた。
「わかった」
甲板を走り、空中へジャンプ。真っ赤なマーメイドスーツに変身して海へとダイブした。
「カナハのお父さん、わたしも欲しい! 売ってください!」
と、どこからかジュラルミンケースを出現させた。ど、どこから出した!?
「あ、わたしも」
リューに続きルヴィーまでジュラルミンケースを出現させた。
ジュラルミンケースを開けると、大量の一万円札の束がびっしり入っていた。
……いろいろ突っ込みどころが多くて、どこから突っ込んでいいかわからんな……。
「金の話はあとでいいよ」
まだ値段設定はしていないし、フレイアが気に入るかもわからない。なので、二人の手を取り、マーメイドスーツを作ってやった。
「カナハ。リューとルヴィーもいくから頼むな」
二人は視線をぶつけ合うと、にんまり笑って海へと向かって甲板を走り出した。
「まったく、しょうがない娘たちなんだから」
そうため息を吐くプリッシュの目は親の目だった。
どんどん村人転生に出したキャラが出てくる……。




