211 月島に到着
娘たちの微笑ましい光景を見ていたいが、羽妖精──プリッシュが戻って来るまでマーメイドスーツを用意しておくか。
「カナハ。ちょっと席を外れるから皆で好きに食べててくれ」
「わかった」
アイリを連れて食堂を出て、艦橋に向かった。
「どう?」
「進路よし。周囲に影はありません。順調です」
「シーカイナーズの空母ラフィーヌがこちらに進路を変えました」
「朝日型偵察艇二、戦闘機六がラフィーヌから発進しました」
数ヶ月ではあるが、慣れた感じが出ている。実戦があればもっと慣れるんだろうよ。
「ラフィーヌから通信。月島への入港許可を求めてきました」
アイリがおれを見たので了承の頷きをした。
「入港を許可する」
「こちら山梔子。ラフィーヌの入港を許可します」
「プリッシュが話を通したのか?」
「だろうな。シーカイナーズもマーメイドスーツを欲しいだろうから」
あちら側にどんな能力を持った転生者がいるかわからんが、朝日を欲しがったところからして万能変身能力に類似した能力はないってことだろう。
……まあ、アニメな兵器を出せる能力を持った転生者はいるようだがな……。
「敵対してないとは言え、こちらのものを売りすぎではないか? まあ、タカオサなら考えのあってのことだろうが」
「もちろん、考えのあってこだが、マーメイドスーツはちょっと迷っている」
「そうなのか? 海のこと知れていいのではないか?」
「まあ、それは魅力的ではあるんだが、プリッシュがマーメイドスーツを欲しがったことに引っかかってる」
淡水人魚が海に出たりするのに使用するのはわかる。が、それだけか? なにか別の使い道を考えている感じがするんだよな~。
「なんだかんだと言って売るんだろう?」
「まーな」
望月家を大きくすることは考えてないが、存続は考えている。
存続するには世界と繋がっていなくてはならず、この世界を掌握してるのはゼルフィング商会とカイナーズだ。なら、付き合いはしておかないといざって時に困る。
「それに、カイナーズホームとやらに興味がある」
「カイナーズホームとはなんなのだ? タカオサは知っているみたいだが」
「いや、知っているわけじゃないよ。予想はできるだけだ」
カイナーズホームはおそらくホームセンターだろう。まあ、ただのホームセンターではないだろうがな。空母とか平気で出すようなヤツがやっているんだからよ。
おれの万能変身能力とハルナの無限の魔力があれば大抵のものは作りだせるだろう。だが、作り出せないものはある。
「本やDVDとかあるといいんだがな」
さすがの万能さんも物語を創ったりはできなかった。
いろいろ忙しい日々だが、本を読みたいときもある。もし、本屋があるならマーメイドスーツくらい惜しくはないさ。
「戦闘機六、射程内に入りました」
「戦闘機より通信。接近の許可を得たいとのことです」
「許可する」
「山梔子より返信。許可します」
音速で飛んでるのか、すぐに戦闘機がやって来て、あっと言う間に飛び越えていった。
「F−14? 随分古い機体だな」
この世界では最新鋭どころか超兵器になるが、F−35とかの時代に生きた者としては古い機体としか思えないわ。
「スカイラプターより凄いのか?」
「いや、スカイラプターよりは劣る。ただ、ルヴィーが乗っていたバルキリアアクティーには劣るかもしれんな」
あっちは宇宙までいける兵器。こっちは大気圏内用。戦ったら負けるだろうな。
「バルキリアアクティーも買えたらいいんだが、さすがに売ってはくれんだろうな~」
あちらもスカイラプターを売ってくれとは言ってこない。それはつまり、売れないから言ってこないのだろうよ。
「ちょっと意識を外す」
言ってハルナへと意識を飛ばした。
「ハルナ。ちょっといいか?」
なにか書いていたハルナへと呼びかけた。
「うん? どうしたの?」
「マーメイドスーツを作る工場に変身するから魔力をもらうぞ」
少しなら気にもならないが、万単位だと体を吸われる感覚に陥るそうだ。だから驚かせないために声をかけたのだ。
「うん、わかった」
万能スーツの中でマーメイドスーツに変身できる腕輪をいくつか種類を変えて作る。
四十種類作った頃、山梔子が月島へと到着してしまった。
……ちょっと集中しすぎたな……。
艦橋にある自販機から缶コーヒーを出し、入港を見ながらちょっと休憩する。
「ラフィーヌ。視界に入りました」
もう来たのか。空母ってそんなに速度が出せるものだったっけ?
「山梔子、接岸します」
元の世界の艦ならタグボートを使うが、山梔子は細かな動きができるようにしてあるのだ。
「上手いものだ」
スムーズに接岸した。練習したのかな?
「ありがとうございます!」
操舵手たるミレが嬉しそうに声を上げた。
苦笑しながらアイリを見ると、アイリもしょうがないヤツだとばかりに苦笑していた。
「山梔子固定完了」
「よし。各員、下艦を許可する。明日の七時まで自由行動だ」
休みが嬉しいのか、艦橋のヤツらがやったーと歓声を上げた。
まったく、しょうがないヤツらだよと、アイリと一緒に肩を竦め合った。