208 少女と妖精
「ミルテ、出かける」
ミルテに向けて通信を送った。
「はい。いってらっしゃいませ旦那様」
人を従えるようになってからミルテも口調や振舞いが変わり、武家の奥方のようになっている。
別にそこまでと思わなくはないが、たくさんの家臣を従わせるにはそれ相応の態度を示さなくてはならない、と教えられてるそうだ。
部屋を出て花崎湖に浮かせている光月へと向かった。
「カナハ。どこにいる?」
いつもなら近くにいるカナハだが、ルヴィレイトゥール──ルヴィーと仲良くなり、毎日のようにスカイラプターとバルキリアアクティーで空戦をやっているのだ。
「海!」
それはわかってるよ。陸地で空戦なんてやられたら迷惑でしかないからな。
「山梔子に向かえ。問題発生だ」
教育の重要性を思い知らせれながら光月に乗り込み発進させた。
GPSなどないが、おれから生まれた(変身能力)ものなら位置は手に取るようにわかる。山梔子がいるほうへと旋回して最大速度で向かった。
音速ではないが、一直線に飛べばあっと言う間だ。二十分もしないで山梔子に着艦した。
「すまないな」
「妻が困っていれば駆けつけるのが夫の役目だよ」
迎えてくれたアイリにキスをする。
「なっ!? 部下がいるところで止めろ!」
ハハ。調子に乗りすぎたな。
「悪い悪い。一緒に居てやれないから、ついな」
右軍の将として百人以上面倒を見ている。忙しくて屋敷にも帰って来れてないのだ。
「カナハはまだ来てないのか? なにしてるんだ?」
距離的には千キロ以上離れてはいるが、あちらは音速が出せる。数分で来れるはずだ。
「どちらも山梔子に降りられないからカイナーズの空母に降りてからこちらに来るのだろう」
と、アイリに言われて確認したらその通りだった。
……気づけよ、おれ……。
「それで、状況は?」
「捕まえた者たちは武装解除して訓練室部屋に閉じ込めている。船は月島に運ばせた」
山梔子も月島に向かっているようだ。
「種族はわかったか?」
「リビーダンとは名乗っていたが、種族名か家名かはわからない。尋問はタカオサが来てからと思ったからな」
まあ、他種族と接触交渉はアイリには不向きだな。
「わかった」
閉じ込めている訓練室へと向かった。
山梔子に牢屋はあるが、五人も入れれば満杯な広さしかない。捕まえたリビーダンは三十八人。訓練室しか閉じ込めておけないのだ。
訓練室の壁をマジックミラー化して中の様子を見る。
「……カッパっぽいな……」
頭に皿があったら確実にカッパだったが、緑色の肌に首のところにエラがあり、手は水掻きを持っていた。
まあ、口も尖ってないので、緑色の肌を持った人には見えるな。
「これはカイナーズに頼んだほうがいいか?」
言葉は変身能力で交わせるが、意志疎通できるかわからない。完全に価値観とか違う気がするよ。
「面倒なら殺してはどうだ?」
過激やな。
まあ、他種族間戦争をしていた国で生きてたら他種族は敵でしかない。殺しても一ミリグラムも罪悪感は湧いて来ないだろうよ。おれも前世の記憶が蘇えらなければ殺していたことだろうよ。
……まったく、前世の記憶があるのも良し悪しだぜ……。
「これからは、他種族でも軽々しく殺すとか言うなよ。他種族差別は泥沼になる。最悪、望月家の名を汚す」
よくカイナーズは他種族が共存できてるよな。絶対、差別が生まれるものなのによ。
「タカオサがそう言うならそうする」
「まあ、今はそれでいいよ」
おれも他種族に慣れていかないとな。カイナーズと繋がりができた以上、否応なしに他種族との交流は増えて来るはず。理解できなくとも性質は知っておかないと、どんなトラブルになるかわかったもんじゃないからな。
「カナハ。カイナーズから他種族と交渉できる者を借りられないか訊いてくれ」
「わかった。訊いてみる」
「頼む」
はぁ~。望月家としても他種族を家臣にしていたほうがいいかもしれんな。どこかに望月家に来てくれるヤツがいないもんかね……。
「父さん。貸してくれるって」
「そうか。礼を言っておいてくれ。あとでおれからも礼を言わせてもらうからよ」
通信を切り、カナハが来るまでお茶でも飲んで待つことにした。
しばらくして紅緒が山梔子に着艦した。
そして、カナハと一緒に現れたのはルヴィーと灰色の髪を持つ少女、そして、妖精だった。
「初めまして。リュタールレーゼ・ゼルフィングと申します。どうかリューとお呼びください」
「わたしは、プリッシュ。よろしくね」
また、ゼルフィングの名を持つ者が現れた!
プリッつあん登場!