204 工場
カイナーズから千名ほど人手を借りるのを引き換えにこちらは銅羅町にカイナーズの艦が泊められるよう手配する。
なかなかどうして厄介な取引であるが、カイナーズと仲良くできるなら断ることはできない。ましてや銅羅町の復旧には人手がいるし、外と繋がれる場所は欲しい。このチャンスは逃したらダメだろう。
三賀町の町長へと通信を繋ぐ。
「お忙しいところすみません。少しお時間をいただけませんか?」
仕事をしていたようで、書類がモニターの端に映っていた。
「ああ、わかった。それで?」
ん? あれ? 少しやつれたかな?
「町の復旧にカイナーズの力を借りたいので滞在許可と行動許可をいただけませんか?」
「……わかった。三賀町町長、曽井サダイが許可を出す。書状は必要か?」
「はい。日付をつけてハハルに渡していただけると助かります」
「あいわかった。書いたら届けよう。他にはあるか?」
「今のところはありません。あ、生き残りの大半を望月家で雇い入れました。余裕、はないかもしれませんが、町長代理を送ってくださいませんか? 三人もいればこちらで支えますので」
「急ぎでなければ二十日ほど時間をもらいたい」
拒否されないのならオッケーと承諾し、通信を切った。
「サダイ様、やつれていたな」
あ、やはり気のせいじゃなかったか。女の目は凄いな……。
「旦那様が決めたなら従うが、国がなにか言ってくるのではないか?」
「言って来る前に銅羅町を掌握するさ」
この国に町を一つ、奪還する力も数もない。仮に国から派遣されても百人も来ないだろう。それだけの数ならいつでも排除可能だ。あ、平和的に、だからね。
「……怖い旦那様だ……」
家族には優しい旦那だよ。
アイリに笑いを見せてからレガロさんに目を向けた。
「許可はいただきました。速やかに始めますか」
ニッコリ笑うと、レガロさんは張りつけたような笑顔を見せていた。
……軍人としては優秀なんだろうが、商談の席にはいてダメなタイプだな……。
横でサイレイトとオンさんの屈託のない商人の笑みがなければ気にもならんのだが、差がありすぎて無理矢理笑顔にしているのがわかった。
「さすがタカオサさんですね」
「頼もしい方がいてくれて助かります」
サイレイトさんもリュウランさんもおれの視線で察したのだろう、自分らに視線を向けさせた。
二人にしては雑なやり方だな。まあ、咄嗟のことだから無理はなかろう。さらに醜態を晒すよりは、な……。
「なに、なに事も力があってこそ。弱者に語る術はありません」
それはカイナーズの連中がよく知っていることだろう。でなければこんな空母やら戦艦を用意したりしない。趣味とかだったら「頭狂ってるだろう!」と叫ぶがな。
「至言ですね。傭兵時代に学んだのですか?」
「……兵士時代、ですかね。死を前に弱いと言うことがどれだけ罪かを知りました」
今のおれを形成してるのは今生の記憶と経験だ。まあ、前世の記憶のせいで変なふうにはなってるけど!
「ふふ。カイナーズの方々には苦笑しかない話でしょう。お聞き流しください」
「いいえ。命を懸けて戦った兵士の言葉を笑うなど同じ兵士としてできません」
とは、ラフィーヌの艦長、シゲイツさん。
艦長ではあるが命のやり取りをした感じはある。おそらく、たくさん命を抱えたことがある人だろう。
「ありがとうございます」
拳を胸に当ててシゲイツさんの言葉に応えた。
「それで、サイレイトさんとオンさんは、おれになにかご用で?」
もう兵士でも傭兵でもないが、一家の主として切り替えはできるようにしておかねばな。
「わたしどもも銅羅町に支店を作りたいと思いまして、お力添えをお願いできませんでしょうか?」
「支店、ですか?」
三賀町でなく銅羅町に、か?
「亡くなった方々には申し訳ありませんが、港を持つ町に支店を出す好機だと思いまして」
まあ、おれも似たような動機でやっているから異論はないが、ここに支店を築く利点がわからない。おれと繋ぎが欲しいなら三賀町に出すだろうに。
「こちらなら土地がありますし、朝日を積み込むのも楽ですからね」
そう言われたらそうか。屋敷から三賀町に移動させて銅羅町に、では手間でしかないわな。
「なら、新たに銅羅町に工場を建てますか? もちろん、いただくものはいただきますが」
容赦なく造ってはいるが、どうも追いついてない? いや、足りてない、か? 需要が満ちてないって感じだ。
「是非! 二つお願いします!」
さらっと抜け目ない人だ。ゼルフィング商会の名が世界に轟くわけだよ。
「あ、カイナーズでも二つお願いできますでしょうか?」
レガロさんも要求に加わった。
「わかりました。では、四つ建てましょう」
朝日が世界に広まればこの星のことがわかる。まだ宇宙に人工衛星を上げるのは時期尚早だろうからな。
「ありがとうございます。なにかご要望があればゼルフィング商会は全力で応じさせていただきます」
「カイナーズも同じく。なんなりとお申しください」
では遠慮なくと、大麦を輸入してもらうようお願いした。おれ、ビール工場を持つのが夢だったのだ。