177 フルスロットル
「……二億か……」
うん、二億だ。きっかり二億だ。狙ったように二億だわ。
え、なにが二億? と言う問いに答えれば、このスカイラプターを作るのに費やした魔力が二億なんだよ。
二億“円”で戦闘機を作ったと言われたら乗る気は失せるが、二億で作った戦闘機も怖くて乗る気が失せてくるわ。
まあ、もう乗っているから今さらなんだが、なにも二億もかける必要があったのか? 輸送機は二千で作れたんだぞ。
「どうかな? カッコイイでしょう」
いやまあ、形だけ言うならカッコイイとは思うよ。おれの趣味にも収まってるし、コックピット内も男心をくすぐるものだ。でも、ちょっとアニメチックではないか、これ?
「……ああ。カッコイイな。プラモデルにしたら売れそうだ……」
と言う感じの褒め言葉しか出せないダメな夫で申し訳ない。もっといいセリフを吐けるよう頑張るから今はこれで許しておくれ。
「へへ。気に入ってもらえて嬉しいよ」
嫁が喜んでいることが夫の幸せ。うん。おれは今、猛烈に幸せだぜっ!
「でも、見た目倒しじゃないよ。性能も飛び抜けてるんだから」
だろうな。二億もかけてるんだから。ってか、世界を七日間で滅ぼせるような性能とかは止めてくださいね。
万能さんをスカイラプターに繋いで情報を取り込む。
うん。二億を費やすだけあって膨大な情報である。これを通常に覚えようとしたら軽く十年は費やだろうな。
「……確かに性能は飛び抜けてるが、これだとおれしか操れなくならないか?」
専用のパイロットスーツを作っても操れるまでに半年はかかるんじゃないか? 戦闘なんてしようと思ったら二年以上はかかるぞ。
「あーそうか。ちょっと高性能にしすぎたかぁ~」
うん。高性能どころか超性能だね。重力圏を抜けて月までいけちゃうよ。しかも往復できちゃうくらいにな!
「じゃあ、大気圏内用にして性能を半分以下。あと、腕は取っちゃうか」
「作ったものはそのままにして、何機か無人偵察機にしてくれ。島の地図を作りたいからよ」
「わかった。なら、作ったものは屋敷に移すね。そこに置いても邪魔だろうし」
「そうだな。あ、何機かシミュレーターとして屋敷の地下に設置してくれ。カナハやハルマにやらせるから」
「了ー解。じゃあ、試しに一機作ってみるね」
「ああ、頼む」
スカイラプターから降りると、もうできていた。
「白なんだ」
超性能なスカイラプターは灰色で、まったく洒落っけはなかったが。
「うん。ちょっと地味っぽかったから色をつけてみたけど、白ってだけでは味気ないね。黒のラインでも入れてみるか」
と、スカイラプターの機体に黒のラインが走っていく。
「こんなもんでどうかな? わたし的にはもっとカラフルにしたいんだけどね」
「いいんじゃないか、これで。味はあるぞ」
どんな味かはわからんが、まあ、派手にされるよりはマシだろう。つーか、戦闘機が目立っちゃダメだろう!
「ってか、スカイラプターは単座なんだな」
いや、単座の戦闘機があることは知ってはいるが、一人の作業が多くなって大変じゃないか? 位置を確認したり周りを見たりとかさ。
「複座がいいなら複座にするけど?」
そう言うところは便利だよな、万能変身能力って。
「そうだな。複座にして役割分担させるほうがいいだろう。シミュレーションで知識や技術はついても経験値は貯まらないからな」
経験値ってのは結構バカにできないものだ。まあ、経験も良し悪しではあるが、やはりここぞと言うときに頼りになるのは積み重ねた経験だ。経験は勘を育て、刹那的になにが最適かを取捨選択をするからな。
「わかった。ちょっと待ってね」
うにょうにょとスカイラプターがあり得ない動きをして、単座から複座へと変化した。なんか不気味だな……。
「ん~こんなもんかな?」
なんか不安にさせるセリフだな。大丈夫なのか?
「戦闘機としての機能はつけたけど、このファンタジーな空に適してるかはわからないから飛んでみて、だね」
「まあ、その辺はこちらでやるよ。カナハ。後部座席に座れ」
静かに控えていたカナハをスカイラプターに乗せ、簡単な説明をする。
「…………」
なにか難しい顔をするカナハ。理解できないって感じだな。
「なに、無理に覚える必要はないぞ。しばらくは偵察に使用するし、これで戦闘する機会があるわけじゃないんだからよ」
つーか、この時代ならプロペラ機でも充分だろう。ジェットに勝てる敵なんていないんだからよ。
……なんてセリフがフラグでありませんように……。
「そもそもお前は魔法士、いや、もう魔法戦士か」
戦士の度合いが多いけど!
「兵器を扱うことより自分自身を操れるようになれ。お前はまだまだ未熟なんだからよ」
まずは身体能力向上、技術力向上、そして経験値向上だ。戦艦やら戦闘機やらの扱いは先の先だわ。いや、やらしているおれのセリフではないけど!
「…………」
納得できない、って感じで俯くカナハ。若さとは困ったもんだぜ。
「カナハ。すべてを求めるな。人はそんなに器用にはできてない。なんでもできるわけもない。それでも、と求めるなら一つ一つ手に入れていけ。あれもこれもではなに一つ手には入らんぞ」
万能変身能力を持っているおれが言っても説得力はないが、前世の記憶が蘇るまでは万能ではなかった。あるものを活かし、ないものはないと見切りをつけ、別の方法を模索して乗り越えて来た。
「おれの剣であるなら鈍るな。盾であるなら揺らぐな。常に不動であれ! 望月カナハ!」
今はまだナマクラなれど、お前はいずれ最強となる。付け焼き刃となるな。
「うん! 最強の剣と盾になる!」
それでこそおれの娘だ。
「なら、お前に恥じぬ最強の父とならんとな」
操縦席へと乗り込み、スカイラプターを起動させる。
いろいろな計器を確認。すべてオールオーケー。
防風窓を閉め、垂直上昇モードへ切り換え。噴射レバーをゆっくりと上昇させ、操縦桿で機体制御を行う。
「発進!」
フルスロットル。スカイラプターが大空へと飛び立った。
雰囲気で感じて。




