プロローグ
ついにこの日が来たか…
「歓迎しよう、勇者よ。よくぞ我が配下たちを破りここまでたどり着いた。だが、所詮あやつらは雑魚の集まり。我輩の力とは比べものにならぬ。それでも、我輩に挑む勇気が貴様にはあるのか?」
やっと、解放される。
「はーはっは!あるのか?と聞かれれば否、あると答えよう!我が蓄えた力は魔王。お前の遥か上をゆくだろう。だがしかし!油断は禁物と散々言われてきたのでな。本気でいかせてもらう!」
思えばここまでくるのにどれくらいの時が流れたのだろう。
「よかろう。その自信の源が果たして真実であるか…見極めてやろう。我輩の名はリューセルク・ド・バタルヘイム。勇者よ、貴様の名は?」
だが、この役目も今日限りで終わりだ。
「あいにく、我には魔物などに名乗る名前などもっていない。」
…嫌な奴だな。
「そうか…では、つまらない会話はここまでにして、最後の戦いをはじめよう。さあ、かかってこい!勇者よ!」
言われなくてもそうするつもりだ、的なこと言いそうだなこいつ。
「ふん!言われずともいかせてもらう。
さあ、我が力に応えよ、聖剣シューベルク。彼の者を打ち滅ぼさんがため、その力を奮いたまえ!」
…予想、当たっちゃったか。
そんなくだらないことを考えているうちに戦いの火蓋は切られた。
「…強いな、勇者よ。」
……戦いはあっという間だった。
勇者の圧倒的な力を前にして私は何もできなかった。
いや、何もしなかったという方が正しいか。
「ふん!口ほどにもなかったな。魔王よ。いや、リュ……すまんな、我としたことが名前を忘れてしまった。興味がなかったものでな。」
…失礼な奴だな。まあ、こいつのおかげで魔王という役割を終えることができるのだ。文句は言うまい。
「さあ、これで終焉だ。我が剣で倒されることを光栄に思いながら、地獄に落ちよ。」
刃が振り下ろされる時、俺は思った。
次の人生というものがもしあるならば、
人として生きたい、と。
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…
「…ん、どこだ、ここは?」
不思議な空間にいた。表現をするならそう、暗闇だ。ただただ真っ暗な暗闇…あ、そうか、地獄かここ。納得だ。
「パンパカパーン」
「!
な、なんだ?!」
「あなたは、神様たちの厳重な審査の上勇者様に選ばれました〜」
え?
「え?」
心の声を口に出してしまった。
「ですので あなた様には魔王に侵略されようとしている世界を救ってもらうため転生してもらいま〜す。」
「ちょ」
「さあ、魔王から世界を救わんがため、立つのだ勇…」
「ちょっとまてーい!」
ビシッ
思わず引っ叩いてしまった。
「いった〜い、ちょっとなんなんですか〜?」
「なんなんですかはこっちのセリフだよ!
え、勇者?意味わかんないんだけど、俺魔王だよ?魔王に勇者になれっていってんの?」
「?
そうですけど何か?ああ!見た目を心配しているのですか?大丈夫です。見た目は私がちゃんと男前な人間に変えておきますから♪」
「俺が問題視してるのはそんな些細なことじゃないんだよ!…些細なことでもないか。
いや、そうじゃなくて!
え、さっきも言ってたけど俺魔王だよ?重要なことだからもう一回言うけど、俺魔王だよ?言わば勇者とは正反対の立ち位置にいる存在だよ?
そんな俺にいきなり勇者になれって………
いやいやいや、意味がわかりませんよ?」
「え、勇者になるのいやなんですか?」
「いやとかそういう問題じゃないだろ!?
はぁ、はぁ、はぁ。」
勇者戦よりも疲れるってどういうことだよ、まったく。
「なんでそんなに必死なんですか?笑」
…ぷちん
「笑ってんじゃねぇーーーー!」
この時、俺は今までで一番大きな声を出した。
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「…よし。やっと落ち着いてきた。こんなに感情が高まったのは生まれて初めて…ってもう死んでるか。…ていうか、俺は死んだんだよな?」
「は〜い。確実にあなた様はあちらの世界では、お亡くなりになっておりま〜す。」
「…じゃあ、素朴な疑問なんだが、ここは一体どこなんだ?」
そう、はじめから不思議だった。
俺が死んだとするならばここはどこなんだ?と。
「は〜い。ここは…そうですね。生と死の狭間、と言ったかんじのところで〜す。」
「曖昧だな!」
「だって〜、ここ作ったの私じゃないですも〜ん。私は〜、ただ〜使いとして〜、ここにいるだけで〜す。」
使い、ねぇ。それよりも気になるのが、
「その間延びするかんじの喋り方やめろ!
腹立つから。」
「いやで〜す♪」
…即答だったな。
「というか〜、あなたはいいんですか〜?」
ん?
「なにがだ?」
「勇者と戦ってる時と〜、喋り方が〜、変わってますよ〜?」
…
「何を言っているのだお前は。我輩は我輩だ。何が変わっているというのだ。はっはっはー。」
「いやいやいや〜。さすがにもう手遅れですよ〜?それに〜、あの喋り方は〜、キャラ作りだったって〜知ってましたよ〜?」
…そうか、バレていたか。まあ、どうせ死んだんだし傲慢な魔王を演じる必要もない、か。
…ん?知ってましたよ、だと?
「それと〜」
まだなんかあるのか。
「勇者と戦ってるとき〜
手加減してたってことも〜知ってますよ〜?」
…
「何を言って…」
「神様には〜なんでもお見通しなんですよ〜?」
…
「ちなみに〜、手加減してた理由も〜、知ってたりして〜?
魔王なのに〜、人間を殺したくないとか〜、正直〜初めて聞いたときは〜自分の耳を疑いましたけどね〜。」
…なるほど。神様には隠し事ができないようだ。
「…そうか。さすが神様というべきか…」
「えへへ〜、そうでしょ〜?」
別にお前を褒めてるわけじゃないんだが…
「神様は〜、そういうところも〜、加味して〜、あなたを〜勇者として〜選んだんですよ〜?」
…なるほど、な。
「…でも、なんで俺なんだ?他にもふさわしい奴はたくさんいただろ?なんで、そんな中で俺が選ばれたんだ?」
. .
そう、選ばれるにしても不自然だ。なぜ他の人間から選ばずに、魔王の俺を選んだのか…
「それは〜………
私にも分かりませ〜ん。」
…おい。
「まあ〜、私も〜不思議には〜思ったんですけど〜神様の〜言うことは〜絶対なので〜」
続けて自称神の使いは言った。
「それで〜、どうします〜?」
「なにがだ?…なんて聞くまでもないな。転生するかどうかだろ?」
そう、このタイミングで聞くことなんて大体わかる。
「はい〜」
案の定、自称神の使いは肯定の意を示した。
「…俺は、元魔王だぞ?」
「はい〜」
「そんな俺でもいいのか?」
「神様が決めたことですから〜」
それに〜、と続けて自称神の使いは初めて真剣な口調で言った。
「私も、あなたで…いや、あなたがいいと思います。実際に見るまでは分かりませんでしたが、あなたは良い心をもっておられる。そんなあなたにならば勇者を任せられると、私は思います。」
なーんてね〜、と続けて言った。
「…そうか。
…俺は、魔王として人間の世界を知っていくうちに、人間の儚さ、美しさ、汚さ、懸命さ、色んなことがわかった。そしていつの間にか、俺も人間が好きになってた。」
そして、続けて言った。
「…こんな俺でよければ、
勇者として。
そして人間としての人生を、新たに歩ませてください。」
にっこり笑いながら自称神の使いは言った。
「りょーかいです〜。
勇者として、魔物と戦いながら、人間として良き人生を歩んでくださいね。元魔王さん♪」
そうやって俺の新たな人生は始まった。魔王ではなく、人として…




