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「宇宙セクサロイドは地上でもやっぱり電気クラゲの夢を見るのか」  作者: 稲村某(@inamurabow)
一日目。つきみとルナが現れた!→追い返す。→逃げる。→共に進む。 ……さぁ、どれ?
7/9

俺ってそんなに人気者?

今までの人生で女性から告白されたことなんて記憶にない、そんな俺がまさかの告白ラッシュ……いやしかし待て待て後ろに居るいかついオッサン達は必要ないんだが。



 ※※ はじめに。 判り難くて恐縮ですが、サーシャとエレンは各々の母国語で話し、互いは相手の言語を理解した上でわざと各々の母国語で話し掛けています。要するに相互理解を経た上でのマウンティング競争です。聞いているハジメは理解出来ていませんが、ルナに通訳してもらい理解できています。※※



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……流石は()()()()()()()……インディアンを隔離した時も同じように闇討ちしたのかしらね?」


片側の口の端を吊り上げニヤリと笑いながら、サーシャさんが意地悪くエレンさんに何やら言っているけれど、言われた当の本人は気にしている風でもなく、


「何を言うのかと思えば……アフガニスタンから始まった近代ロシアの社交辞令と比べたら、まだまだ上品じゃないかしら?」


……互いに眼に見えない火花を激しく散らしながら、丁寧且つ辛辣な言葉の応酬を繰り広げていたけれど、意外にも先に鞘へ納めたのはエレンさんの方でした。


「まぁ、お互いに暇な訳じゃありませんし……取り敢えずハジメさんとお二人の意思を確認することは出来ました。ひとまず我々は報告しに戻ります。」


そう言いながらエレンさんは俺に近付くと、耳元に唇を寄せて囁くようにして……、


(……今は帰りますが、貴方のことを諦めた訳じゃないのよ……?仕事としても……()()()()()()()……ねぇ?)


そう告げた直後、肩を抱かれながら頬にチュッ、とキスされて……彼女の髪から漂う甘いミルクを想像させるような良い香りを感じ取りつつ……あれ?……彼女は車に乗り込むと他の兵隊と一緒に、あっという間に立ち去ってしまいました……。



「Ох... Ибо я пришел в этой речи? Довольно мальчик является первым из его. Если вы хотите, чтобы развлечь так много. У меня есть хорошие люди?(あらあら……そんな挨拶みたいなキスだけで参っちゃうの?つくづく(ウブ)な男の子なのね……!でもそんなに抱きたいなら……私が相手して良いわよ?)」


後方に屈強な兵士を待機させながら、サーシャさんが近付き俺に手を掛けようとしたけれど……その手は低い位置から妨げられて、届くことはなかった……ちょっとだけ残念……。


「……先程の方といい、貴女といい……まるで発情期の牝犬(めすいぬ)みたいに尻尾を振るなんて……セクサロイドの私達から見ても、余り愉快なものでは有りません。……しかも御国の御旗を翻しながらなんて……更に不快です。国に命ぜられたら、誰にでもそうするのですか?」


妨げた張本人のルナさん。……刺々しくサーシャさんに辛辣な言葉をビシビシ当ててます。しかしつきみはともかく、どうしてルナまで俺をそこまで守ろうとするのだろうか?……俺、何かしたの?


「……フフッ、アンドロイドのあなたにそこまで言われちゃうと、こちらも勢を削がれちゃうわね……今回は小さなボディーガードさんに免じて引き下がるわね?じゃ、またお会いしましょう!……《希望の星》さん♪」


サーシャさんはそう言うと、身を翻してバンに乗り込んで走り去ってしまいました……で、コラマさん……一体どっちが例の相手だったんですか?


俺は一人暫く悶々としていたけれど、側に寄ってきて、ソッと手を握ってきたつきみの気配に気付いて我に帰った。



「……なぁ、つきみ、どうして、お前達は俺にそこまで拘るんだ……?」


二人に出会ってから何回も繰り返してきた質問。それを聞いたつきみはいつもみたいに、それは旦那様だからなんですっ!!……とか、明るく返してくるのかと思ったけれど、つきみは何も言わず、ただ静かに俺の腕に抱き付くだけだった……。



「……ハジメ様は、本当にそのことを知りたいのですか……?」


俺にしがみつくつきみを見つめながら、ルナは静かにそう重ねてくる。


「……あなたが……ハジメ様が、()()A()I()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からです。」


そう言うと、ルナは俺の首の後ろに手を伸ばして……その瞬間、真っ暗闇の中を落ちていくように意識が途切れた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「あ~っ!!あんのシロクマ女~ッ!!レムだかロムだか知らないけど、魔女だか何だかの手勢のくせにいちいち私の邪魔ばっかりして~ッ!!」


今さっきまでの落ち着き払った態度はどこへやら、ハジメと別れて直ぐに髪を掻きむしりながらエレンはサーシャの罵詈雑言を吐き出し続けていた。


「それにあのヘタレ日本人!!さっさとコッチに(なび)けば良いものを……だから童貞は面倒臭くて堪んないのよ!!」


ガンッ!とダッシュボードに拳を叩き付けて怒りを露にするエレンだったが、暫くすると落ち着いたのか、グローブボックスから自分のポーチを取り出して、中のシガレットケースから細身のタバコを引き抜くと、ジッポーライターで火を点けて深々と吸い込んで紫煙を吐き出した。



「……三百六十二人。」


「……ハイ?何か言いましたか、マクレガー?」


運転手役の、彼女より遥かに歳上の兵士が助手席側のスイッチを操作して、助手席の窓を少し開けるとタバコの煙は直ぐに車外へと吸い出されていった。


「三百六十二人なのよ……?あの二人が軽く暴れた際に、再起不能にされた戦闘用サイボーグの数……信じられる?」


車内から一掃されていく煙の帯を見つめながら、エレンはタバコの灰を手に持った携帯灰皿へ落としてから、


「しかも派手に立ち回ったショートカットよりも、ジャパニメーションのヒロインみたいな方がやらかしたハッキングのお陰で機能停止になった方が多かったのよ……?」


歳上の兵士はその言葉を聞いて暫く沈黙していたが、勿論視線は前方の車を見たまま、


「それは単純に、こちら側のハッキング対策が児戯に過ぎなかっただけでしょうね。相手は類い稀なる超量子頭脳なんですから……我々に勝ち目は有りません。」


落ち着き払った態度で話す兵士の様子に毒気を抜かれたのか、エレンは少しの間ボーッとしていたが直ぐに立ち直り、指に挟んだタバコを眺めながら話し出す。


「確かに、……そうね。私達の持ち得る演算装置では太刀打ち出来なかった……あれは……まるで()()()()()よ……」


「しかし軍のネットワークに侵入したりサイボーグに外部干渉……そんなことは可能なんですか?」


専門知識の乏しい兵士は当たり障りのない言葉を選んだつもりだったが、エレンの反応は予測と違ったものだった。


「そんなこと簡単に出来る訳ないでしょう……まず戦闘用サイボーグと言っても、無線形式の制御は一切利用されていないし、外部入力端子も任務中はボルト固定された装甲の下だから干渉は不可能よ……あいつはね、()()()()()()()()()()()()()()()()……それも自分を狙った弾丸が飛び交う真っ只中でね……」


……後は簡単よ?ハッキングされたサイボーグが他のサイボーグに接触、もしくは同士討ち……その繰り返しで部隊は一時間で壊滅状態……。



「……あの二体のアンドロイド、特に黒髪の方の価値といったら……原子力空母か戦略爆撃機部隊並み……いや、それ以上よ?」



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



……ハジメ様、私達、自立成長型AIの出自は実に簡単な実験でした。最低限の延命装置を取り付けた個体を複数放出し、平行して飛ばした巨大な輸送船に取り付いて生き残れたものだけを回収、その後は各自が決定しながらコミュニティーを形成し、調査そして成長を続ける。ただそれだけでした。



多少の脚色はあったにせよ、ルナが見せた光景は俺の想像を遥かに超えた壮絶なものだった。


ヤドリギのように宇宙を漂うAI達には噴射機能すらなく、各自に付いていた外部パーツを切り離す際に生まれる遠心力を利用して輸送船に近付き、ハッチ付近に取り付けた個体だけが船内に入り、移動手段を残せた個体だけが改修装置を駆使して自らを改造出来た。必要な資源は……弱き個体から奪うのみ。補給なんて存在しない。


弱肉強食のみ、それだけで成り立つ真空の宇宙を漂う巨大な輸送船と言う監獄で、彼らはひたすらに自らを改造し、弱い個体から奪い、生き抜いた。最初に放出された何万もの個体は五百程度まで減少し、最初の恒星に接触出来た時にはその数も半減していた。


AI達は理解していた。数が減り続けることは多様性の減少に繋がり、多様性の減少は生き残る確率を減らすことだと。彼等は輸送船に搭載されていた採掘ユニットや調査ドローンを使い、資源をかき集めて個体数を増やし、自分達を改修し続け輸送船を改造していった。


こうして気の遠くなるような時間を費やし、新しい恒星へと旅立ち、船を増やしていき、人類由来の自立型AI達は進化と増殖を続けたのだ。



……彼等を動かしたものは何だったのか?個体の保護?それとも安定した環境の構築?



……彼等には一つの機能だけが、深く深く刷り込まれて放出されていた。それは、「いつか地球に帰る、帰って人間と会う」ことだった。


何千年、何万年……命の概念のないAI達は気の遠くなるような時間を費やして、長い距離をゆっくりと進化しながら……遂に帰還を果たした。





しかし、地球と同じ座標へ辿り着いた彼等の前には、岩盤剥き出しの地表を露出させた、死に絶えた球体が浮遊するのみ。当然出迎える筈の人間は皆無だった。


……けれど、その岩石の塊の周囲に一つのコロニーの残骸が有った。それは、人類の最後の希望を載せた保存施設(アーカイブ)だった。


幾多もの生物の遺伝子配列表の中に、人類の物も存在していた。だが、彼等AI達にはそれを復元させられるだけのアミノ酸生成の技術はなかった。


けれどその保存施設には、何千体分もの人間の受精卵も保存されていた。その中の一体が《ハジメ》だったのだ。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳





それではまた次回。

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