初めての源初惑星徘徊
こんばんは。書きたいから書かせて頂きます。野菜炒めにスパム入れたらしょっぱいですね。お酒には合います。おかずにもピッタリ。
「よしよし、ほーらこの服ならばルナにピッタリだぞ?そらそら、こっちはつきみに丁度いいサイズだな。」
ポンポンと二人に様々な服を投げて寄越すコラマさんと、受け取ってはウヒャヒャのキャッキャッと嬉しげに笑いつつ次々と袖を通すつきみとルナ。さっきまでのエロい下着姿にスーパーショートパンツの二人があっという間にキチンとした格好になっていく……まぁ、俺としてはそんなに嫌な光景じゃあ……ない。
「わぁ♪……私、こーやってキチンとした衣服を身に付けるの……久し振りです!」
ウフフ……♪と笑いながらパーカーとレギンスで真っ当な姿になったルナは、すっかり高校生位に……でも長めの黒髪のお陰で限り無く理知的に見えるから不思議なもんだ。
「ウッシッシ……♪ほらほら見てくださいよ~!つきみ、すっかり旦那様とお似合いのカップルですよね~!?」
意外にも、赤い色彩にこんな引き立て具合があったなんて……すっかり垢抜けたイメージに様変わりしたつきみ……赤いワンピースを着た彼女は現役女子大生と言っても完璧に通用するルックス。そりゃそうだ、元が良いんだから当たり前か……認めたくはないが。そんな格好で俺の腕にフワッとしがみつき、上機嫌で微笑む彼女を見ていると……何なんだ?胸の奥底がチリリ……と焦げ付くみたいになって……好きなタイプじゃない筈なのに……。
「ウッシッシって……お前は巨泉か?全くもって底の見えない自動人形だな。だが似合っているな。ちなみにその服は私のだが、丈をベルトでそうやって調節すれば何も問題は無いな。」
コラマさんは満足げにそう言いながら、すっかり様変わりしたつきみに向かって頷きつつ、サイズの合った靴は無いものかな……と下駄箱を探し始めた。
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「たっだいまぁ~!って何なの!?見たこと無い人がこんなに居る!!まさか税務署の査察なのッ!?」
騒がしくドアを開けて中へとやって来た女性がつきみとルナ、そして俺の姿を目の当たりにして驚愕の声をあげる。見た目は俺と大差ない年頃みたいだが、どうやら見たところコラマさんのルームメイトのようだ。
「……荒堂、ちょいとコッチに来たまえ。」
何故か無表情のコラマさんが彼女を呼び寄せて、ゴニョゴニョと内緒話をしていたのだが、次第に相手の表情が↗の方へと変化していき……いや、何だかプルプル震えながらチラチラと二人を見ているみたいだが……レズか?
「……いっやぁ~そうだったの!!いやいやそれはそれは失礼いたしました!私は荒堂・麗奈!!コラマのルームメイト兼御使い役だ!まぁ服だろうと何だろうとソコのお財布様が面倒見てくれるみたいだから、気にしなくていーよ!!まぁそんな訳でよろしく!」
俺のゲスな勘繰りが霧散していく程に明るく元気な印象の彼女。だがしかしつきみとルナに向ける視線は一種独特の熱を帯びていて……見ているこっちが不安になる位だ……いや、何に対しての不安なんだろうか?
とりあえず楽しそうなつきみとルナを引き連れて、コラマさんに礼を言おうとすると、
「ハジメ、今日のバイト先は例の店なんだろう?たまには私も顔を出すから、その時は宜しく頼むぞ?」
「あ、はい!是非いらしてください!」
そう言って見送ってくれたコラマさんに手を振りつつ、俺達三人はエレベータを利用して一階に降りて、バイト先へと歩き始めた。
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「あーもう!さっきからくっついて歩くなって言ってるだろ!歩き難いんだよ!」
「まぁまぁハジメさん、そう言わずに仲良くしましょ~よ♪」
俺の腕に絡み付きながら、嬉しそうにはしゃぐつきみ。街に出る前に「いちいちご主人様とか旦那様とか呼ぶな!ハジメでいいから名前で呼べ!」と厳命したのだけど、キチンと聞き分けてくれているみたいだ。……それにしても、どこからどう見てもこの二人、普通の人間にしか見えないぞ?実は物凄い高性能なんじゃなかろーか?
「ところでお前らは、人間で言う食事とか自動車のオイルみたいなものは必要としないのか?」
道行くクルマに「いやぁ~んノスタルジィ~ッ♪車輪で走行なんてロマンチックぅ~!」と叫び、宣伝用のLED看板を見ては「うわぁ~レトロ~!完動品をオークションに出したら天井知らずですわよッ!?」と興奮していたが、俺の質問には直ぐ様反応し、
「……ご心配には及びません!私達宇宙セクサロイドは、狭い空間のみの航宙船への搭乗を前提としていますから、余計な荷物を増やさない為に最小限のバイオリンゲル液の消費で一ヶ月はノーメンテナンス!つまりノープロブレムです!」
「……まぁ、例えば同じグラスから恋人同士みたいに飲み物をハート型のストローで飲みたい殿方の願望を叶える為、私達は炭水化物を主原料とした食物を燃料化して発電することも出来ますが、それはあくまでやむを得ない非常事態時の為だけです。基本的に光発電と体内循環経路マイクロタービン発電だけで充分なのですが……まぁ、ハジメ様が……ランチをいっしょに食べないか?と言われたなら……ルナは従いますが。」
……二人の言葉に嘘はないだろう。けれどもそれを聞いた俺に真実を見極める能力なんて存在はしないけどね。
「さ、ここが今日のバイト先だよ。……どうしたの二人とも?」
しばらく歩いて一軒の《食事処》と看板が出ている店に到着した俺と二人だったが、店先で固まっている二人に怪訝な顔を見せてしまった。……だって、今までのキャピキャピした態度から一転、静かになってしまったから……。
「「こ、ここがハジメ様の……働いているお店なんですか……?」」
……まぁ、そうなるよな。だって、昭和レトロも裸足で逃げ出す位の門構え。見てくれはハッキリ言って大正モダン並みの感じだし。
平屋の瓦屋根、黒塗りの塀、そして磨りガラスの入り口に小さな「食事処」の看板。《春夏冬》の意味は【商い→秋無い】の洒落だし、陶磁器製の傘立てとタワシ製の脚拭きマットが敷かれた店先には何台かの自転車が駐輪中。普通のアルバイト先としてみたら、誰だってそう思うだろう「は、ハジメ様!ルナはこんな店、図鑑やライブラリでしか見たことありませんッ!!」
「いやぁ~ん♪ノスタルジー通り越してもうディステニィーがバルクホルンでジュンカッツです!!つきみ、何か色々感動して泣きそうです!!」
……うん、バカと利口が手を繋いでスキップしてたんだ、忘れてた。
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……チリリリィ……ン。
ガラリと開くサッシの上に吊るされた、来客を知らせる鈴の音。店内は元居酒屋で居抜きの店舗を改装せずにそのまま使っている為、黒光りする柱や振り子時計、民芸品の木彫りの熊やコケシもそのままの位置で俺を出迎えてくれていた。けれどこんな店なのに【料理が美味しくて種類豊富で手頃な価格、しかも従業員の女性が皆美人】な上にキチンと賄いもあるんだから……俺にとっては経済的な理由以外の意味があるバイト先なんだよね。
「おはよう!おっ、ハジメ君……と、そちらは?」
店のカウンター奥の厨房から店長の桐生さんが声を掛けてくれたけれど、後ろの二人の姿を目にして戸惑いながら聞いてきたので、
「ん……っと、親戚の姉妹なんですけど、つきみとルナって言うんですけど、この店の話をしたら働いてみたいって言い出しまして……その、そんな感じなんです。」
と、自分でも(苦しい言い訳だな……)と内心苦笑いしながら答えてみると、
「ハーイ!!私がつきみでっす!!ハジメさんとは只ならぬ親戚関係オゥフっ!?」
「……不出来の姉ですいません。私は月出・瑠奈、月出つきみ姉さんと一緒に東京で下宿生活を始めたのですが……仕送りだけではなかなか生活が苦しくて……そんな訳で……もし宜しければ……お世話になりたいのですが……いかがでしょうか……?」
最初から粉砕志向のつきみと対象的に、予め打ち合わせ通りにつらつらと【上目遣い】で不安げな表情を浮かべる確信犯。……こいつ、完全に自分の立ち位置を認識してやがります。
「う~ん……まぁ、確かに人手が多ければ助かるんだけど、そうそう売り上げが急に上がる訳でもないし……ちなみに二人とも、飲食店でアルバイトとかの経験ってあるの?」
「ハーイ!!つきみはありまオゥフッ!?」
「……姉さんと私の実家は居酒屋で昼間はランチをやってました。アルバイトの経験はありませんが、小さな頃から手伝いはしてましたから、接客業には慣れている……と思います。」
まさかの喉元への諸手突きを繰り出して、つきみの全力投球なボケをシャットアウトしながら経歴詐称するルナ。……一切の容赦って物を感じさせない姿は清々しさすらあった。
「ちょっとルナ!!私の天使の美声が潰えたら人類全体の損失だよ!?小突くならもぅちょっと優しくしてほし~んだけど!?」
つきみの嘆願は小さな溜め息で一蹴され、ルナは押しが弱かったと思ったのか、店長の方へと進みながら交渉を再開していく。ひとまず俺はルーティン通りの準備の為に、悪いと思いながら店の奥へと先に進んでいった。
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「あら!ハジメさんおはよう!今日はシフト入ってたの?」
この店の看板娘、ルイーザさんが挨拶してくれる。彼女の本名は知らないけれど、それでも彼女の存在だけでここの売り上げが三割上下するとかしないとか……。
「えぇ、今日は昼前からだったんですが、親戚の女の子が二人してここで働きたいって言い出して……そんな訳で保護者代わりになっちゃったんですよ……」
俺は頭をかきながらそう言いつつ、手狭な裏のスペース(居酒屋時代の倉庫兼休憩室)で着替えながらルイーザさんと雑談。……しかし、ルイーザさんって何処のヒトなんだろ……もっのすごく美人でスタイルいいんだけど……どーしても日本人としか思えないんだよね……不思議な女性だよ、ホント。
「あら、それは大変だったわね!……まぁ、ここは《趣味の色がハッキリ出てる》お店だからねぇ……そうそう、その二人のエプロン探しておかないとね?だって、今日から働く予定なんでしょ?」
ルイーザさんが俺に近付いた瞬間、ふわり、と花の香りみたいなイイ匂いがする……それにしても、ルイーザさんってここの開店時から働いているけれど、店長とどんな関係なんなんだろ……綺麗で可愛らしい知佳さんみたいな奥さんが居るから、不倫関係とかじゃないんだろうけど……うむむ。
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【お食事処・青葉】の民芸風の店内に響く、つきみの明るい声。
「いらっしゃいませ~!つきみの初勤務を祝って乾杯しますかぁ?しない?あらそぅ?ま~ゆっくりしていって下さいな♪」
店内と入り口、そして厨房との境目の提供口をヒラヒラと往復しながら、テーブル一つ一つを巡って注文取りと提供、時には泣き止まぬ赤ちゃん相手に様々な顔芸を見せて泣き止ませ、と縦横無尽に駆け回るつきみ、そしてどっしりと構えてレジ前から離れず、ひたすらに代金の受け渡しに専念するルナ。
「A定食とカキフライ定食、それにカジキのケチャップ煮定食と自家製ジャンボメンチカツ定食……しめて四千三百円です。……はい、確かに。ありがとうございました……(小声)」
(つきみはともかく、ルナはわざとやってるな……何を狙ってるんだろうか……)俺は二人のお試し勤務を眺めながら、店長と一緒になって雪崩れ込むオーダーを必死になってこなしていった……。
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俺とつきみとルナが、店に到着した開店前の時間から暫くの間は、特に何もなく静かに始まったのだが、暫くして突然来客数が増え始め、正午前には満席そして店の外に行列が出来始めた。……例えば二人に招き猫効果があったのだとしても、客引きの出来ない飲食業だから行列が出来る筈もないんだけど……ただ、妙に若い男性、しかもやたらスマホを触りながらのお客さまばかりの気が……(当然ながら店内での写真は許可制を掲示してはいる)。
「忙しいねぇ~嬉しいけど……何があったんだろうねぇ?ケイリンとか、じゃ無いよね……お米足りるかな……?」
嬉しい悲鳴をあげながら在庫の心配をする店長と共に、一定の数で落ち着いてきたオーダーに応じながら店内を眺めて居ると、あることに気がついた。
「ねぇ店長……なんであの二人、お客さんと握手とかしてるんだろう……?」
「ん?……あ、ホントだ。……お、ルナさんもはにかみながら握手してる……一体何なんだろうかね……?」
何一つ思い当たる節もなく二人して首を傾げていたけれど、来店時そして会計時につきみとルナが接客対応の度に笑みを浮かべながら握手していることに気付き、一つの仮説を思い付いた。……まさか?いやいや……しかし……、
「ねぇ店長、コラマさんっていつも何してるヒトなんですか?」
「ん?ふむ……あの人はウチの在宅警備員兼ネット取り引き女王……かな?」
ニートなの?と疑問点がずれそうになりながらも、後半の評価に気になる単語が……ネット取り引き女王?
「まぁかいつまんで言うと、先物取り引きから何から……その話は長くなるから飛ばすけど、一日の大半は家の中で強烈なスペックのPCを駆使して色々やってるヒトだよ。もっとも……最近は金稼ぎしなくても、勝手にお金が増える状態みたいだから、立派なひきこもりだよねぇ……。」
店長の評を聞いて、そこに足りない単語があるような……もしかして、それが答えか……?
「……ちなみに、ここに来る前にコラマさんに店の様子を見に来るって言われたんですが……まさか、それで?」
「ほぼ確定だね、それは……ははは、はぁ……。」
力無く笑いながら、店の前に出来た行列が更に増えていく様子を見て溜め息をついた。
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「いやぁ~働いた働いた!!これでヤれば出来る子がルナちんだけじゃないって証明出来ましたよね!?ハジメさん?」
カチューシャで纏めた髪を掻き挙げながら、俺に向かってつきみは得意気に訊ねてくる。
「そ、そんなこと言ったら私だって!……私だって、頑張った方だと……思います……」
対してルナはこちらの様子を窺うように、レジの前で売り上げのレシートを出しながら言いながら控え目な態度そのままに店長に、そっと差し出した。
「いやいや二人ともよく働いてくれてたし……って、何だこりゃ!……打ち間違えはなさそうだから……こんな売り上げなんて、連休中でも出したことないからなぁ~」
そう言いながら賄いご飯の麻婆春雨丼を俺に差し出して、「二人は辛いのは平気なの?」と傍らに用意してある丼にご飯をよそってくれる。
「ハイ!つきみは何でも食べますよ?好き嫌いしてたら夜の御勤めもオゥフ!?」
「……私も姉様も、平気ですからご心配なく……」
その様子を見ていたルイーザさんは、口元に手を当てながら楽しそうに笑い、「仲良しなんですねぇ♪羨ましいわぁ!」と言ってつきみにお碗を手渡す。
「……だからぁ……ルナちん……諸手突き禁止ぃ……って、ありがとうございます!……ん?これは何ですか?美味しそうな香りですね!」
見事に一瞬で肋三枚へ手刀を突き込むルナ、悶絶しながらもお碗を受け取ってルイーザさんに訊ねるつきみ……って、それ……
「つきみさん……お味噌汁、そんなに珍しいの?」
怪訝な顔で質問を返すルイーザさん。そりゃそーだよ、どう見たって日本人然としたつきみがお味噌汁を知らないなんて……フォローのしようもないっての……あれ?……何で俺はフォローしようとしてるんだ?
「あ、姉様は幼児期は高血圧だったから、お味噌汁はあまり飲ませてもらってなくて!その、最近になって頂くようになりました!ねぇ!姉様ハジメさん!?」
「ん……そうそう!つきみは昔っから味噌汁は……なぁ!つきみ!!」
「え?……んと、そうですっ!!つきみはミソシルが憧れでした!やっぱりこれがミソシルでっす!!」
俺とルナの必死のリカバリーを、全力のフルスイングで強引に引き戻すつきみ。無理有り過ぎて逆に普通と思えるのがスゴいね。
「そうなんですか……まぁ、冷める前に頂きましょう!」
ルイーザさんと店長に促されながら、俺達は遅いお昼ご飯を食べ始めた。しかし、まだその時は、更にカオスな状況へと足を踏み入れることになるなんて思いもよらなかったんだけど……。
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三人が賄いご飯を手に取った頃、街の外れにある河川敷の駐車場に一台の白色のバンがエンジンを掛けたまま駐車していた。そのクルマの中には七人の屈強な男達が乗り合わせていて、無言のまま座席に着いて待機していた。
【……狐から熊……状況は?】
【……目標は依然として動かず……そちらの方の鷹の巣の様子はどうだ?】
一人の男がスマホで通話しながら外の様子を窺うと、車両の脇を犬の散歩で通りかかった老人が車内を離れた場所から眺めていた。しかし、不穏な気配を察したのか、そそくさと離れていった。
【……鷹の巣の雛鳥は寝ている。親鷹も巣の傍には居ないわ。】
【それは良かった……それにしても上手いもんだな。】
熊と名乗ったバンの男は、老人が離れたのを見送りつつ相手の女性の声を聞きつつ軽い口調で賛辞を贈った。
【……北のハッキングと思わせる為、ヨーロッパ経由でサイバーアタックを仕掛けて目眩ましを掛けただけ……けれど霧が晴れる前には成果に関わらず、必ず撤退して……判った?ミーシャ。】
【ああ……了解した。しかし本当に目標には……その……我々が関与するだけの価値があるのか、未だに判らないのだが……】
男の方はそう言ってルームミラーで後方を見ると、六人の男達がグラブラバ(眼出し頭巾)を被り、更にゴーグルを装着して顔面を完全に隠していた。そしてゴルフバックの中から艶消し塗装されたアサルトライフルを取り出し、弾装を確認して装着させていた。
【……これは同志レムの意向を基にして立案された作戦よ?……貴方達と議論をするつもりは私には無いし、貴方達もそれを望んでいる訳ではないでしょ?】
【……それはそうだが……しかし、相手は……その、ロボットだか何だかなんだろう?】
男は困惑したように返答したが、それでも器用に肩で耳にスマホを当てながら、助手席に置いたゴルフバックから分隊支援火器の重機関銃を取り出して、レバーを引いて弾丸をチャンバー内へ装填させる。
【目標と接触すれば貴方もきっと納得するわよ?……鷹だって今でも未練がましく付きまとっているんだから……それだけの価値はあるし、それに……きっとそれがアンドロイドだと聞いても納得出来ない位に精巧だから……】
【……ま、そうだな……とりあえず誘導したら、連絡してくれ。】
そう告げると彼は通話を終了し、後ろの男達に待機を続けるように促した。
(……それにしても、《狐》とは何者なんだろうか……同志レムとも昵懇の間柄のようだが……)
彼は心の中で呟きながら、懐からタバコを出して火を点けた。
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「……あら珍しい、コラマさんじゃないですか!」
チリリリン、と鈴の音が鳴り、ルイーザさんが声をかけた相手は宣言通り現れたコラマさんだった。
「ルイーザも元気そうだな?それにキリューも随分と機嫌が良さそうだな。私のささやかな贈り物は気に入ってくれたかな?」
言いながらカウンターの席に着き、メニューを見ないでビールとチキン南蛮を注文して、つきみとルナを見ながら満足そうに微笑んでジョッキを上げて、
「二人ともエプロン姿が似合っているぞ?それに私の見立てた衣服、ピッタリだったろう?」
「ハイ!コラマさん!つきみは大活躍でしたし、ルナもハジメさんに沢山誉めてもらえて嬉しそうでした~♪」
「ね、姉様!……止めてください、もう……。」
そんな二人を眺めながらビールに口を付けたコラマさん。俺はその様子を見ながら山のように積み上げられた洗い物を片付けていたが、スマホを取り出した彼女が聞き慣れない言葉で手短に話すのを聞いて、妙な不安を感じていた……ってかミーシャって誰だ?
さて、作者はそろそろ穢れが溜まってきたので……そうなっていきます。