ワンルームで宇宙セクサロイド付き駅近の優良物件だが何か?
はい、プロローグで「何だこりゃ?」と思ったあなた、時既に遅し。ほらほらもう続き来ちゃったぞ?
1DKの間取りに憧れて契約したその部屋は、要するにワンルームだった訳で、ロフトの無い空間で寝るには敷き布団を床に敷くか、マットレスを用意するか、部屋を狭くすることを覚悟してベットを置くかの選択を迫られる訳だが。
こんにちは、初めまして一・一です。……言っておくがザクのモノアイとかじゃねーからな。名前だから。一・一と読むぞ。……父親は一・一夫、母親は一・二三。おやじの名前が怒ってるバレッタ付けた娘さんに見えたら……君も今日から立派な妄想族だ。
さて、それはともかく今日は俺の身に起きた不可思議なことについて伝えたいんだが、まぁ聞いてくれ。
……よく、近所の住所に似通った番地があって、そこに届く筈の荷物が間違って届いて困る、なんて有ったりするよな?俺の場合は階を間違えて届いた荷物を開封しちまった、そんな訳だ。もしそれがヴィンテージワインとかで高価な物だったりしてそれを飲んでしまったりしたとしても……保険が掛かっていれば、まぁ、何とかなる。たぶん。
けれどそれが個人認証付きの特殊な物品だったりすることなんて、良くある話……な訳はない。はっきり言って隕石に当たって死ぬ位に有り得ないぞ。
でだ、俺の部屋に運び込まれたその二箱は、小型の冷蔵庫並の大きさ、そして重さは更にあって……【フィギュア】の品名とアメリカから送られてきた、と言う全くもって訳の分からん荷物だった。
「……あの、明らかにこれ……俺宛なんですよね?」
「いや、私達も何回も調べたんですが……住所は二階になってますし、このフロアにはお客様の部屋しかなくて……なぁ?」
「えぇ、先方にも問い合わせたら、その階に男性が住んでいる部屋は一ヶ所しかないって……」
俺と宅配業者さんは暫くの間、ムムム……と睨み合っていたけれど、
「ま、このマンション、沢山住人が居る訳じゃないから……大家さんに聞いておきますよ?」
結局俺が折れた。家賃払いに行かなきゃならなかったし、預かるだけなら……問題ないでしょー。
ポンポンと判子を押して、宅配業者さん達に帰って貰った直後……カタ、と荷物から音がした。カタ、ガタガタ……って何だよ何だよ!?俺、そう言うの怖いから……!?
俺は……もしかして生き物か何かが閉じ込められているんじゃないか、ってそう思ったんだよ、その時は……。【フィギュア】って、動物のことか?……んなことある訳ないんだよ、普通なら。
俺は悪いと思いながら、段ボールのテープを剥がして中を確認しようと……段ボールの中に更に箱が……これ、ジェラルミンケースじゃん。何だよ……カメラとか精密機械運ぶみたいな……そんな箱だよな?
当然開けるには横にあるバックルをバキッバキッと外して、蓋を持ち上げ……おおぉっ!?
中には人形……いや、人間!?明るい髪の毛の女の子……いや、二十歳位の見た目……だ……と思ったその時、
バヂッ!!っと何かが弾けるような音がして、ス、スイッチが入る独特のブゥン……ッみたいな響きが響いて……これ、やっぱり人間な筈ないよな……だって、この箱って密閉式で穴空いてないから呼吸出来ないぞ。と、言うかこれ……値段、幾らするんだろ?
ケースは人の形にくり貫いてあり、そこに彼女はすっぽりと嵌まってる。寝返り出来ないじゃん、あとお尻痒くなったら掻きにくい。そもそも人形が喋ってるなんて、珍しくはないけれど……それにしてもカワイイ見た目だな、それは間違いない。顔は……う~ん、凄いとしか言いようがない。人形作家とかのフランス系なのと全然違うのに、和風でも洋風でもないし……うん、見た目は完全に何かに似ちゃいない。敢えていえば、アニメのキャラ的な感じだな。
「…………The language system is changed to Japanese from English. Would that be OK? It was ceremonious. I'll speak by the intimacy it's easy to be fond of which.(……喋り方を英語から日本語にいたします。あ、堅苦しいの苦手?じゃ~軽~くフンワリした感じにするねー。)」
「し、喋ってる!?……え、英語……かな?」
一時流行った白色基調のタイトなボディースーツ、ガーターベルトにストッキング。まるで下着モデルみたいな格好してるけど、全体的にふわん、いやポニョンと丸っこい肉付きボディ、それに毛先がカーブした丸っこい髪型。人形……だよな?これ……。何となく見た目の分析をしていると、その小さくてぷるんとした形のいいピンク色の唇から英語が聞こえて、俺が少しだけ身を引くとスーッと上半身が起き上がり、改めて電源が入ったことを確認して……
「ハ~イ♪おっはよ~ございま~す!!今日も元気に○○○○してますか~ッ?」
……あ、アメリカンジョーク……か?挨拶の後半は明らかに四文字英単語だよな?それも卑猥な奴……。
俺は目が点になっていたんだろう、自分のセクハラ挨拶に無反応なことも気にせず彼女(ロボもそう言うのか?)は俺の方へとゆっくりと向き直り、両目をパチパチと瞬きしている。……なんだ?何だか目尻か下がって……トロンと蕩けたみたいになってんぞ……あとやや血色が良くなってる。……高血圧か?
「あぁ……私、ずーっとご主人様を探してました……名前はつきみと言います!漢字で書くと【月美】です!!貴方に……また、私の……ご主人様に成って頂けます……か?」
「お!こっちはゴスロリ調衣裳なんだ~いやしかしこっちの娘さんは少しロリータぽいか?」
「はぅん!!いやん聞いてなかったんですかッ!?」
俺は面倒くさそうなフラグ臭がしたので軽くスルーして、もう片方の開梱を始めてた。……俺、太め好きじゃないし。
もう片方は対照的にレザースティール風味、黒基調に赤いワンポイントが随所に点在する衣裳。もちろんガーターベルトでストッキング。二人とも丈の短いショートパンツを穿いてます。黒い娘さんの方はロングヘアー。体型的にはさっきの子よりも背は低くて少し細身。
さっきのつきみ嬢と同じように起動音と共に起き上がり、こっちを見る。観る。視る……いや見過ぎだって!!
「……おはようございます、ご主人様。見たところご主人様が欲情してつきみ姉様を押し倒して居ない所を見ると、卑猥単語で欲情作戦は失敗した、と判断します。そんな訳で私はルナ、漢字で書くと【瑠奈】です。ご存知でしょうが私達は、高性能高機能の無重力対応型セクサロイドです。」
そう言いながら自己紹介をする彼女。……無重力……?……セクサロイド……何それ?俺はスマホを取り出して検索してみる……セクサロイド、お、有った有った……。
……はぁ?何だこりゃ……ふむ、つまり……エロ担当の機械人形って訳か。
「つまり、二人はどっかの誰かに性的サービスを提供する為のロボ……っ!?」
最後の単語を言い終わらぬうちに、一瞬で突き出されたルナの腕が俺の胸ぐらを掴み、片腕でギュンと彼女の方へと引き寄せられる……ぐぇ。
「……ハッキリ言っておきますが、まず私達はロボットではありません。ロボットとは単純化された単調な作業を繰り返す機械の呼称であり、私達のような複雑且つ多様な行動を並列化しながら出来るガイノイド、そしてセクシャルな活動を主としたセクサロイドに対しての呼称としては余りにも……不適切です。」
ルナは意外にも眼に涙を溜めながら、抑揚を抑えた低い声でそう言いながら、ぐし、と手の甲で涙を拭い俺を手放した……力強いのな、結構……。
「ルナ、そんな風に腕力振るっちゃダメでしょ!?ご主人様がビビるじゃん!!」
脇に立ちながらしっかりとした勢いでつきみはそう言いながら、しかしすぐにルナの頭を優しくナデナデしてる。……ルナはつきみのことを姉様、と言ってたな。そーゆー仕様なんだろうか。
「……ご主人様は、私達をお忘れになっているんですね……姉様のことも……私のことも……」
どことなく寂しげな雰囲気でルナはそう言うと、自分達の入っていた箱を段ボールから取り出して片付けを始める。……忘れて?俺が?
「ルナ、たぶん色々あって記憶が曖昧になってるんだよ、きっと……」
そう言うとつきみは俺の方へ近付いて、両手で俺の右手をそっと掴み、
「……ご主人様が、私に指輪を下さった日のことは、私の記憶回路が完全消去されるその日まで……絶対に忘れないですから。ほら……これ!」
そう言いながら左薬指の指輪を外すと、内側に刻まれた刻印を俺に見せた。どれどれ……?
【HAJIME to TUKIMI 6182 05.05】
「はああああああぁ~ッ!?なんじゃこりゃ~ッ!!」
ハッキリくっきりと刻まれたその文字は、誰がみてもハジメ、と読めるローマ字表記の刻印……ただ、この6182っての、年号……か?
「……その指輪は……姉様とあなた、ハジメさんが火星で婚礼なされた際に贈られた誓いの指輪です。私も立ち会いましたから、相違は御座いません。」
ルナはそうハッキリと宣言するけれど、二十一才の現役大学生にそんな記憶はないぞ?……火星?……まだ有人探査すら到達してないし。俺は突飛な情報の洪水に痛む頭を休める為、二人を部屋に残して扉の外へと出て、廊下に置いた灰皿を手すりの上に置きながらタバコに火を点けた。
主人公の名前はイチ・ハジメ。果たして漢字表記でこの名前に勝てる主人公は存在するのか?