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言の葉ウォーズ  作者: 二ノ宮明季
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 朝というのは、なんと眩しく、なんと清々しく、なんと愚かなものだろうか。

 こんな始まりを考えてはいるが、別に俺の内心が荒れている訳ではない。ちょっと格好つけてみただけだ。

 昨晩は夕食にさらっと紛れたし、夜眠る必要のない俺は、じっくり、うっとり、モモの寝顔を見つめて一夜を明かした。今朝も朝食を食べているモモを直ぐ近くで見守り、隣を歩いて登校したのだ。なんという、モモフィーバー! 祭っちゃおうよ。町の伝統行事にしようよ、モモ祭り。ずっとモモを皆で見つめる祭り。あ、やっぱ駄目。モモは俺だけのモモだし。

「百合、おはよう」

「ん。おはよう」

 モモが自分の席に勉強道具を仕舞って、筆箱の中身をいじり始めた所で、センが近づいてきた。

「あ、セン! お・は・よー!」

 俺は出来るだけ爽やかに見えるように、王子スマイル(自称)を浮かべ、センに手を振る。

「キモいんだけど」

「ん。キモい」

「ひ・ど・い!」

 無視されない生活、超☆楽しい!

「ちょっと百合、こいつに変な事されなかった?」

「変な事……? あ、された」

 何を言うかな、モモさんや。品行方正なこの俺がいつ変な事をしたと? ……いや、本気で。いつ変なことしたっていうんだ。

 センが鋭い視線を俺に向け、「ほう」とか呟いている。おっかない。実害はないけどさ。

「センが想像するような事じゃないよ、多分。ていうか、一夜は共に過ごしたけど、俺は至近距離でモモを眺めていただけだったし、寝言に耳を傾けてちょっと悶絶した程度で! センったら、何想像したの? えっちー」

「充分変な事してるじゃない!」

 俺は、「きゃぴ♪」とか効果音が付きそうなくらいハイテンションに返してみたが、あえなく撃沈。どうやら変な事をしていたらしい。乙女的思考、わかんない。

「それは知らない。けど、ベッドにドーンって転がってた。あと、黒い親戚呼んだりとか」

「呼んでないし親戚でもないよ。昨日、侵蝕者《カキソンジ》の説明したよね、俺」

 モモがセンに向けた言葉は、俺の予想斜め上だった。下だったかもしれない。

 とにかく、斜め方向に飛び出し、俺は思わず素に戻った。

 ……とはいえ、例の侵蝕者《カキソンジ》の説明は、センの耳にも入れておいた方が良いかもしれない。モモと一緒に居る以上、何らかの事件に巻き込まれる可能性もあるのだから。

「昨日、モモの家に帰ったら、侵蝕者《カキソンジ》が入ってきたんだ。でも危害は加えられなかった。以上」

 物事は簡潔に分かりやすく。これでセンも納得してくれただろう。

「どういう事よ!」

 甘かった。チョコレートよりも遥かに甘かった。

 ちぇー、主人公気質のメインキャラ、ちょっとめんどっちー。

「なんか、自分に名前を付けてって」

 モモが、ぽけーっと何も考えていないように口を開いた。

 ぼんやりしてる姿も可愛い。例え視線の先が、手でいじっている自分の筆箱だったとしても。

「で、行っちゃった」

「全然分かんないわよ」

 だろうね。もし俺がセンでも、きっと分からなかった事だろう。

 仕方なく俺が昨日の出来事をかいつまんで話すと、彼女は訝しげに眉を顰めた。

「何で侵蝕者《カキソンジ》がそんな事を求めるのよ。百合に。あんた、何か分からないの?」

「俺はあいつとは違うから知らないよ。例えば君が強盗ににこやかに話しかけられて、また会おうとか言われて立ち去られたとする。他の人に言ってみたら、同じ人間なんだから、分からないの? と聞かれたらどう思う? あるいは、同じ哺乳類なんだからと、ジュゴンの事を理解してるだろ、って言われたらどう?」

「あー、はいはい。今のはあたしが悪かったわ」

 あ、これ絶対悪いと思ってないやつだ。

「聞き方を変えるわ。敵なの?」

「それは、どういう意味で?」

「意味も何も、敵は敵よ」

 はー。これだから……。

 ナチュラルに自分にとっての敵はモモにとっての敵だし、俺にとっての敵だと思っていやがる。めんどっちー。

「センにとっての敵なのか、って事? それは君とは接触してないんだから、分かるわけがないじゃん」

「百合にとっては?」

「そっちは今言ったばかりだよね。今は、危害を加えられなかった」

「イコールで敵ではない、とは言えないじゃない」

「ただ、イコールで敵であるとも言えないよね」

 俺とセンの視線が交わって、空中で火花を散らす。っていう比喩表現。

 実際は火花なんか出てないし、俺はそんな強い視線を彼女に向けていない。どっちかといえば、ずっとモモを見ていたいのだから、こいつに対して強い感情を持つのも、見るのも、感覚の無駄遣いだ。

「じゃあ、あんたにとっては?」

「俺にとっては敵だよ。モモといちゃいちゃする人は皆敵」

「あたしも?」

「敵ではないと言い切れない」

「……そうね。あたしにとって、あんたは敵だもの」

 お、素晴らしい。害が一致しましたね。利はないから、利害ではないっていうのが残念だけど。

「でも、二人ともわたしは敵じゃない」

 モモが筆箱をいじり終えて、俺とセンを見た。どうやら筆箱は満足したらしい。

「そうだね。俺はモモの味方だよ」

「あたしだってそうよ」

「三角関係、完成?」

「好意の矢印は一人にしか向かないけどね」

 二人の好意の矢印はモモにのみ向けられる。ハーレムじゃん。やったねモモちゃん。

「……あたし、あんたの事、許さないから」

 センはモモの頭を撫でた後で、威嚇するように睨み付けて来た。あー、怖い怖い。別に怖くないけど。こんな小娘一人の睨みが、一体何に効くと言うのか。

 モモに睨まれたのなら、肩こり腰痛欲求不満全てに効くんだけどさ。

「どうして? モモとだまし討ちみたいに契約したから?」

「それ以外なにがあるのよ!」

 センが怒鳴る。周りの生徒が、ちょっとこっちを見ているようだ。

 煩くするからだぞ、もうっ☆

「んー、囮に使った事とか」

「それも含めてのだまし討ちよ」

「そっかー、ごめんね」

 心からの謝罪じゃないけどね。センだって気付いてると思うけど。

「でも、言ってくれてうれしいよ。ありがとう、友人《シンコウヤク》さん」

「やっぱり、嫌いよ」

 センに嫌いと言って貰えた。意気投合したね! 素敵! 悪い意味で!

 思わず笑みがこぼれたが、センは不機嫌そうにそっぽを向く。

 ……ここまでなら、穏やかな朝といえただろう。

 今、唐突に足に何かが絡んでくるような感覚さえなければ。

 その感覚は気のせいではなかったようで、下を向くと、足に黒い何かが絡みついていた。

 俺だけに、ではない。俺にも、モモにも、センにも絡んで、この教室からどこかへと引きずり込もうとしているようだ。

「――モモ!」

 どういう事なのかを理解し、俺はモモの手を握る。ほんのりと汗ばんでいる手が、驚きと焦りを表していた。

「茜音!」

 モモはセンの名を呼ぶ。

「百合!」

 「ファイトー! いっぱーつ!」なCMのような掛け声はやがて、侵食された黒の世界へと飲み込まれた。

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