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仮タイトル  作者: 葉山 篤人
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第2章

憂鬱な気分で学校に向けて自転車を漕ぐ。

山を登って一月珠希に会い、山頂の惨状を目の当たりにし、そして謎の男に遭遇したのはつい昨日のこと。

もちろん僕が憂鬱な気分なのは、その昨日の謎の男から頼まれたことが原因である。


ー以下回想ー

僕が見た山頂の状態や一月珠希について話し終わると、男は納得したようにうんうんと頷いた。

「なるほどね、大体把握できたよ。しかしこれはいったいどうするべきなのか・・・」

僕に対する言葉なのか一人語となのか判断しかねる言葉を発したのち男は思考を巡らせ始める。

僕のことをあまり気にしてない様子からしておそらくは一人語なのだろう。

声をかけるのもためらってしまうような雰囲気だったが、僕としてはなにも把握できてないし、この男が何者なのかもよく分からない。

「あの・・・」

思いきって声をかけてみたものの効きたいことが上手くまとまらず言葉が続かない。

言葉を探してあたふたとしていたら男の方から口を開いてくれた。

「あぁすまないね、君のとこを忘れていたよ。僕が把握していることはまだ説明できるほど分かってはいないから気にしないでくれ。

で、僕が何者かというと分かりやすい言い方をすると陰陽師?霊能力者?いやゴーストスイーパーかな?まぁ幽霊を相手取る人と思ってくれていいよ。実際は全然違うんだけどとりあえずそういう認識でいいよ。名前は東雲しののめ好きに呼んでくれ」


東雲さんがすらすらと説明してくれはしたが結局分からない事だらけだった。分かったことといえば東雲さんが不思議な力を持っているという事くらいだ。普通に考えたら陰陽師だの霊能者だの胡散臭いことこの上ないのだが、僕の考えていることを読んでいたり、最初みたとき浮いていたりしたことを考えると真実のように思える。

「いやいや、わっちは別に不思議な力なんて持ってないよ。考えていることはさっきも言った通り顔を見れば分かるし、浮いていたのは君の目の錯覚だよ。」

言って大して面白くもなさそうに東雲さんは笑う。

「幽霊を相手取るといってもおいらは普通の人間だよ。少し心得があるってだけさ。」

「はぁ・・・よく分かんないんですがこの状況は幽霊の仕業でそれを東雲さんが解決してくれるってことですか?」

いろいろ説明されてもいまいちよく分かってはいない僕だが、このお墓を散々破壊した幽霊?がもし人を襲うようなことがあれば大変なことになるということくらいは分かる。

「半分くらい正解かな?まずは解決すべき問題かどうかを判断しないといけないからね、その調査方法を考えている段階だよ」

東雲さんは面倒くさいという感情を隠そうともせずにそんなことを言う。僕から見ればこんな危険な幽霊がいるというなら退治するなり成仏させるなり解決させるべき問題にしか見えないのだが東雲さんにとってはどうもそうではないらしい。

「それってつまり調査の結果次第では解決せずに放置するってことですか?」

東雲さんが面倒くさくてこの件を放り出してしまいたいと思っているように見えてつい攻めるような口調になってしまう。

そんな僕の心中も東雲さんには丸わかりなのだろう。

「まぁ今回オレは仕事で来ているわけじゃないからね、この件に関わる義務は無いし面倒くさいという気持ちがあるのは事実だよ。

だからといって放置して行くつもりはないさ、こう見えてマジメだからね」

おちゃらけた感じに言うが言っていることは不思議とホントなのだろうと思えた。

「解決というという言葉を使った私が悪かったかな、こういった件はいろいろと複雑な事情が絡むことが多いんだ。後々経験していけば分かるよ」

「はぁ・・・あんまり経験したくないですけど・・・」

「はっはーそれもそうか、けれど今回の件はいろいろ協力してもらうよ」

快活に笑いながらサラっと言われた言葉に僕は驚かされる。

「え、協力?ムリですよ。僕は霊能力とか無いですし」

そんな僕の返答に東雲さんはまた笑う。

「いやいや、協力とは言っても君の思っているようなことじゃないよ、それは私のやるべきことだからね。

協力してほしいのは君のクラスメイトのことさ、たまちゃんとか言ったっけ?」

そこまで言われてようやく理解できた。一月さんにこの件について話を聞いて来いということなのだろう。大人の男が女子高生にいきなり声をかけたら怪しまれる可能性もあるだろうしそのことが変な事件になっても困る。

「そういうことでしたら多分協力できると思います」

彼女から話を聞くだけならそう難しいことでもないし僕でも出来るだろう。

「そう、助かるよ。君にお願いしたいのことは2つ、1つは君が彼女に信頼されること、もう1つは彼女を僕のところへ連れてくる。この2つだ簡単だろう?」

東雲さんの言葉が意外な物だったせいで少し固まってしまう。一月さんを東雲さんのところに連れてきてほしいということはまだ予想のうちだったのだが問題はもう1つのほう。

僕が彼女に信頼される。

人から信頼されるのなんてそう簡単に出来ることではない。友達だったり、あるいは先輩後輩だったりと言った仲の深い間柄でも信頼関係が成り立っているかと問われてイエスと自信を持って答えれる人は少ないだろう。

だというのにただ同じクラスというだけの僕が一月さんの信頼を得るなんていうのはそうとうに難しいことなんじゃないだろうか。

「あの、東雲さん、信頼されるって僕にはかなり難易度が高いことだと思うんですけど。ただ東雲さんのところに連れてくるだけじゃダメなんですか?」

「それで上手くいくのならそれでもいいんだけどね。考えてみてくれよ、普通の女子高生が大して仲良くもないクラスメイトに呼ばれて僕みたいな大人の男のところにホイホイ付いてくると思うかい。もし来たとしても本当の事を話してくれるとは限らないだろう?」

言われてみれば東雲さんの言う通りだ。一月さんがこの件に深く関係しているとしたら普通より強く警戒心を抱くだろうし、いきなり東雲さんのところに連れていくという方が難しいだろう。

「察してくれたかな?出来るだけ信頼されておいてくれたら話も聞きやすいし助かるけれど、最悪あまり警戒心を持たれない状態で僕のところに連れて来てくれればいいよ」

「そういうことなら、なんとか頑張ってきます」

「頼んだよ、これが僕の連絡先だから進展があったら連絡を入れてくれるかな?」

ジャケットの内ポケットからメモ帳を出すとさっと番号を書いて手渡す。

「分かりました」

「それほど急がなくてもいいけど、出来るだけ早くしてくれると助かるよ」


ー以上回想終了ー

ずいぶんと長い事回想をしていたおかげか気づけば校門前まで来ていた。

駐輪場に自転車を置いて教室へと向かう。まだ時間が早いおかげか校内の人数は少なくあまり人とすれ違うことなく教室前たどりつく。

扉を開けるとクラス中の生徒の視線が集まるもののすぐに外れる。みんな仲の良い人が来るのを待っているのだろう。

来たのが僕でごめんねと心の中で謝ってからクラス内を見渡しつつ自席へと向かう。

クラス内はだいたい生徒の3分の1くらいの人数がすでに登校してきているが、一月さんはまだ来ていないようだ。


朝のHRまでの時間を使って東雲さんに頼まれたことをどう実行するかを考える。

一月さんと会話をしないことにはどうしようもないのだがまず問題はファーストコンタクトをどうするかだ。

昨日は一月さんの方から話かけてきたから会話をしたが学校内で彼女の方から僕に声をかけてくることは無いと言っていい。

となると僕の方から話しかけていくしかない、ないのだが入学してからクラスメイトと会話をしたことない僕が女の子に話しかけるというのは周りの目がどうしても気になってしまう。

僕みたいな普段喋らないやつが急に一月さんに話しかけたりしているのを見たら周りはきっと面白おかしくその理由を想像するだろう。高校生とかそういう恋話とか好きだしね。

僕としては周りにどう思われようが気にならないのだが彼女もそうとは限らない。

きっと周りの友達なんかに囃したてられるのだろう。もしかしたら変な噂が広がってしまう可能性もある。それは彼女にとって気分のいいものであるはずがない。

それに、もし昨日の件に彼女が関わっているとしたら人前で深い話をするわけにもいかない。

「やっぱり彼女が一人の時に声をかけるのが一番か」

女の子が一人でいるタイミングというのはそうそうないとは思うが彼女のためを考えるとそうするべきだろう。決して僕が周りの目が気になるからというわけではない。ほ、本当ですよ?

第一方針は決まったので次にどういう風に話を広げていくかを考える。

いくつかパターンを想像したところで担任の教師が教室に入ってきた。僕が登校してきたときには3分の1程度しかいなかったクラスメイトもいつの間にか全員来ていたようだ。当然一月さんの姿もある。

今日は特に連絡事項などもなかったようで担任教師は出欠確認だけ済ませて朝のHRをあっさり終わらせていた。

1限目までの少しの時間クラスの皆はお喋りしたり、宿題を写させてもらったり、早弁したりと各々自由に過ごしている。一月さんもその例に漏れず近くの席の子と楽しそうに話していた。

「ってか早弁にしたって早すぎるでしょ、昼どうするつもりだよ」


その後も一月さんが一人になるタイミングを逃すまいと授業中や休み時間は彼女の方をさりげなく見ていたのだが、なかなか一人になるタイミングがなくもう昼休みの時間になってしまった。

今もクラスの子達と楽しそうにお弁当を食べている。

とりあえず昼までの彼女を見ている限り特段変わった様子もなく普通に過ごしているように見える。普段の一月さんがどんな感じか知らない僕だけれど、周りの彼女に対する反応からしておそらくいつもと変わらないのだろう。

昨日の件を知っていて今日普段通りに過ごしていると考えると少し恐ろしい気もするけれど彼女は何にも気にしてないのだろうか?

「まぁそれも本人に聞けば分かるかな」

お昼御飯を食べ終わって口が寂しくなってきたせいかついつい独り言が出てきてしまう。

周りの人に聞かれてないか周囲を確認してからまた視線を一月さんに戻す。

朝から見ていて気がついたのだけれど彼女はいつも話をしている相手が違う。

ほとんどの人は仲の良いグループでいつも固まっていてだいたいその輪の中でのコミュニティが出来ているのだが、彼女の場合グループの中にプラスワンとして会話に参加している感じだ。休み時間ごとに参加しているグループが違うのでこの昼休みまでの間にクラス内の女子全員と会話していると思う。

さすがに男子グループに混ざっていくことは無いが女子グループと男子グループが一緒になって話している時は自然に会話の中に入っているので男子ともほとんどの人と会話しているんじゃないだろうか。

誰とでも仲がいいと言うと聞こえはいいが裏を返すとそれは誰とも深くかかわっていないということなんじゃないだろうか?

女子はグループ内以外の人には冷たいと思っている僕としてはそんな状態で問題なく過ごしている彼女が少し異質に思える。

表面上上手くやっているだけで実際は裏でいろいろ言われている可能性は十分にあるのだけれど、なんとなくだけれどそれは無いような気がした。

そのまま観察を続けながらいろいろ考察していたらふと彼女と目が合った。

まぁ僕が彼女をずっと見ていたのだから彼女がこっちを見れば目が合うのは当然なのだけれど。当然なのだがやはり目が合ったら咄嗟に目をそらしてしまう。目をそらしたのが不自然にならないように視線を教室の時計の方に移し、時間を確認してから

「あーもうこんな時間か」

とか言って目が合ったのは偶然だとアピールするために小芝居もしてしまう。

小芝居してみたもののこれは無意味な行動だっただろう、明らかに不自然だったし余計怪しかったかもしれない。自分でやっておいて恥ずかしくなってくる。

もう一度一月さんの方を見てみるとやはり僕の小芝居は効果がなかったようで訝しげな目でこっちを見ている。かと思ったら急に立ち上がって僕の方に向かって歩き出してきた。


一月さんの急な行動に一緒にご飯を食べていたグループの子達も驚き何事かと彼女に注目するが、一月さんはそんなこと気にせずどんどん僕に近づいてくる。

「私に何か用かな?少年」

空いているイスを引き寄せてきて僕の隣に陣取りつつ気さくに話しかけてくる。

人の少ない時に話すことを想定していた僕としては完全に不意打ちを食らった形になってしまいなんと返せばいいかが浮かんでこない。

一月さんが僕に声をかけたことによって彼女と一緒にいたグループの人だけでなく近くにいた数名の人もこちらに注目し始めてしまった。

注目されること自体は別に恥ずかしくもないし気にならないのだが、ここまで注目された状態で本題に入るのは周りに聞かれそうだし得策ではないだろう。小声で話すという手もあるにはあるだろうが一月さんみたいな可愛いこと内緒話なんてしていたら周りの男子が嫉妬して優越感に浸れる・・・じゃなかった嫉妬して探りを入れてくるやつもいるかもしれない。

それが原因でこの件に他の人を巻き込んでもいけない。

となるとここは後で話せるように約束を取り付けておけばいいか。

「ここじゃ話しにくいんで、また後ででも」

「そう?じゃあ放課後にしよっか」

「うん、お願い」

「良かった、私も今日なら大丈夫だから。じゃあまた後でね少年」

言い終えると引っ張ってきたイスを戻してから元いたグループの輪の中へと戻っていった。

「一月さん急にどうしたのー?」

「なんか目が合ったから私に用かなと思って話してきただけだよ、告白とかされちゃうかと思ったけどそんなことなかったよ」

「なにそれー珠希ちゃんジイシキカジョーじゃん」

「あははー恥ずかしいことしちゃった」

なんて話声が聞こえる。まったく恥ずかしいのは皆に注目されちゃった僕も同じだよ。

「いやまぁ恥ずかしくは無いんだけどね」

予想外の形ではあったけれど放課後会う約束を取りつけられたのは大きな収穫だったのでずっと一月さんを観察していたのも無駄じゃなかっただろう。

収穫と言えば一月さんの事で分かったことが一つ、どうやら彼女のことをたまちゃんと呼ぶ人はいないらしい。

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