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仮タイトル  作者: 葉山 篤人
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第1章

5月のなかば

高校に入学しゴールデンウィークも終わりクラス内でグループも形成されてきたこの時期僕は1人窓際の席で孤立していた。

孤立している理由はいじめられているからとか、人付き合いが苦手とかいう理由からではない。

幸いこのクラスは人を蔑んで快楽を得るような嫌なやつはいないようなのでいじめが起きそうな雰囲気はない。

では、なぜ僕が1人で孤立しているかというと・・・なぜだろうか?

自分で言うのもなんだが僕はコミュ力は高い方だと自負している、実際中学生の時はクラスの中心的な存在だったのだし。

きっとなんとなく自然にそして不自然に孤立していったのだろう。

強いて理由を見つけるとしたら偶然にも教室での席が窓際の一番前という孤立しやすい席になってしまったからだろうか。

ただまぁ僕はこうして孤立していることに危機感などはまったく抱いてない、それどころかこうして1人で周りに気を使わず使われずというのを心地よく感じているくらいだ。

と、こんな風にどうでもいいことを考えている間にホームルームが終わったようですでに半数以上の生徒が教室を後にしていた。

「僕も帰ろうかな」

誰に向けていうでもなく呟いてから荷物をまとめて教室を後にする。

学校で人と話すことが少ないせいか最近はよく1人言を言ってしまう、小声で言ってるし近くに人がいないときにしか言ってないから周りには聞こえてないはず、聞こえてないよね?

僕は自転車通学なので校舎から出てまっすぐ駐輪場に向かって自分の自転車を探す。

もう慣れたからいいんだけどなんで朝置いたところと違うところに自転車置かれてるんだろうね?

いろんな人が好き勝って置いてくからスペース作るために動かしてるんだろうけどもう少しなんとかならんものだろうか。

運よくすぐに自分の自転車を見つけることができたので鍵を外してそのまま自転車を押して学校を後にする。

自転車に乗らずに押して歩いているのは別にサドルが無くなっていたとかタイヤがパンクしていたとかではない。

学校帰りはまっすぐ家に帰らずのんびり歩きながら寄り道するのが高校に入学してからずっと続けているマイブームのようなものだ。

しかし寄り道とはいってもゲーセンに行ったり本屋に立ち読みしに行ったり友達の家に遊びに行ったりしているわけではない、この街は田舎なのでそういったところに行こうと思うと電車に乗っての移動になってしまうのだ(因みに友達のいないぼくには3つめの選択肢はもともとない)

ただその辺をぶらぶら歩くだけの寄り道、それが楽しいかと聞かれると意外に楽しいと答えることができる自分に驚きだ。

とはいえ高校入学以来放課後は毎日歩いたおかげで普通の道は少し新鮮味に欠けてきたところなので今日は学校から少し離れたところにある山へと足を運んでいる。

山の近くに公園があったのでそこに自転車を置いていきいざ山道へ、綺麗に整備されているわけではないけれど普段から人が出入りしているのだろう、道になっている部分には草花はほとんど生えておらず普通のスニーカーに学生服姿でも問題なく登って行ける。

少し登ると木々が生い茂っていてまだ陽は出ているというのに少しうす暗く不気味さを感じる。

頂上付近にはお墓があると聞いたことがあるけどこんな暗い場所に骨を埋められても嬉しくないんじゃないか?

なんてことを考えていると道の向こうから山を下りてくる人影が見えた。

まだ距離があったので顔は認識できなかったが服装からして僕と同じ高校の女生徒だということだと分かった。

お互いにそのまま歩を進めているので次第に相手の顔がはっきりと見えてくる。

目があったりしてしまうと気まずいのでさりげなく相手を見てみると、その人物が同じクラスの一月珠希ひとつき たまきだと分かる。

しかし、同じクラスで名前と顔を知っているからといって特別仲がいいわけでもない(彼女が僕のことを知っているかも怪しいところだしね・・・)ので、そのまま素通りしようと目を合わせないように歩く。

・・・が、なんだかものすごく視線を感じる。

耐えるんだ僕、後数メートル・・・4・3・2・1

「おぉ、君は確か同じクラスの・・・」

話しかけられてしまった、後数歩ですれ違えるという距離で話しかけられてしまった。

声を掛けてきたかと思いきやそこから続いて言葉を発することなく思案顔の彼女。

おそらく僕の名前を思い出そうとしているのだろう。

予想していたとはいえホントに名前を覚えられていないというのはショックだ、ここは彼女の記憶力に期待しようと思い彼女の次の言葉を待つ。

十秒ほど思案顔の彼女だったが名前を思い出してくれたのかこちらを直視する。

「少年はこんなところで何をしているんだい?」

思い出してくれてはいなかった、まぁクラス内で目立たない僕の名前を覚えてないのも仕方ないと納得し、それくらいの事で無視するのも申し訳ないので質問に答える。

「別に、ただの散歩だよ、そういう一月さんは?」

女の子が一人でこんな山道を歩いているというのも不思議だったのでつい聞いてしまった。

のだが、僕がいい終わるより早いか遅いかというタイミングで一月さんは手のひらを僕の顔の前に突き出してきた、つまり制止を求めるポーズをとる。

「私の事はたまちゃんと呼んでくださいな」

とのことだ。

「・・・そう、じゃあ僕はこれで」

なんだかまともな返答を貰える気がしなかったし特別彼女と話したいわけでもないので早々に別れを告げる、彼女もさほど僕と話したいわけでもない様子で

「うん、じゃあね少年」

とだけ言って歩を進め出した、それを確認して僕も彼女と反対方向、山の頂上へと歩き出した。

「あぁそうだ」

が、その出足は彼女の言葉によって止められてしまった。

「山を登るのはいいけど・・・頂上までは・・・行かない方がいいよ」

微妙な間を取りながらそんなことを言う彼女、その表情は怒っているような、悲しんでいるような、笑っているような、なんとも表現しにくい表情をしていた。

しかしそんな表情だったのも少しの間の事ですぐに普通の笑顔に戻ると僕に手を振ってから少し早足で山を下りていった。

一月珠希

彼女のことは入学してから割と早い時期から知っていた、というか一番最初に顔と名前を覚えたのは彼女だった気がする。

彼女に対する第一印象は「目立っている」だった。

いや、「目立っている」というと少しニュアンスが違う、「浮いている」と言った方が正しいかもしれない。

決して彼女が物理的に浮いていたわけではないし、突飛な服装や髪形をしていたわけでもない。(ちなみに顔は結構可愛い、髪はサラサラロングで綺麗だと思う)

その第一印象が気になって数日彼女をよく見ていたが他の人と変わらない普通の女の子だったので僕の感性というものはまったくもって的を外しているなと思ったものだ。

今になって考えてみると単に彼女の外見が僕の好みど真ん中だったのでそんな第一印象を持ったのではないかという気もしてくる。

そんな風に彼女のことを考えながら、さっき彼女とすれ違った時良い匂いがしたなぁとか思い出しながら歩いていたおかげかいつの間にか山頂付近まで来ていたようだ。

「さっき頂上までは行かない方がいいって言われたけど、どうするかな」

足を止めてそのまま登っていくかを一応は考えてみる。

もともと山頂に用があるわけでもないし山頂には何か危険があってそれに巻き込まれないようにするために彼女が僕に注意をしてくれたのかもしれない。

だとするとこのあたりで引き返すという選択肢もありだ。

ありなのだが、そんな危険があるとかそういうわけではなく、単に彼女が思いつきで言ってみただけの可能性もある。

もしそうだとしたらその言葉を真に受けて山頂まで行かないというのはなんだか癪だ。

「危険があるんだとしたらその危険を秘密にせずはっきり言うだろうし言ってみただけって可能性が高そうかな」

そう口にしてみると一つのワードが引っかかった。

「ん?秘密?」

そうか!彼女は山頂になにか秘密の隠し事をしていてそれを僕にばれないようにするためにあんな事を言ったのか!

「秘密かぁエロい事かな?」

秘密=エロい事という発想が残念なうえにエロい事だと思うと妄想が広がってもうそれが正解だと確信してしまう僕の脳みそはもう心配になってくるレベルだった。

しかしそんな心配は妄想でいっぱいの僕の頭からは吹っ飛んでしまう。

「そうだとすると善は急げだ!早く山頂に行って一月さんの秘密を暴かせてもらおう!」

駆け足気味で山を登っていく僕。

いや、人の秘密暴こうっていうんだから善ではなく明らかに悪なのでまわれ右してくださいって感じなんだけどね。

「なんだよ、これ」

それが僕が山頂についてまず発した言葉だった。

僕の眼に映ったのは20~30ほどの数のお墓、それはあると分かっていたので問題ない。

問題なのはその20~30あるお墓がすべて無残な姿になっていたことだ。

程度の差はあれ、どれも刃物で切られたような状態になっている。

どう見ても長い年月風雨にさらされて風化したとかそんな感じではない。

「いたずらにしては悪質すぎるだろ・・・だいたいどうやったら墓石が切れるんだよ、普通の刃物じゃはこぼれして終わりだろ?」

近くにある墓石をよく見てみると切り口はかなりきれいで少しずつ削ったとかそんな感じではない。

他のところにも目をやってみると切られているのが墓石だけではないことに気がつく。

周りに生い茂っている木々も墓石と同じような感じに刃物で切り付けられたような跡がある。

ただ木の方は墓石ほど悲惨なことにはなっておらず、細い木は切り倒されてしまっているものはあるもののほとんどは軽く切りつけられた程度とかそんな感じだ。

荒らされているのが墓石のあるところを中心に半径10メートルないくらいの範囲なので墓石を切っている拍子に木の方にも被害が出たとかいったところだろうか?

そんな風に探偵気分でいろいろ現場を分析したりしてみたのだがほどほどでやめた。

機やな予感しかしない、というか普通に怖い。

彼女の言っていたことも含めこの場、この状況の事が気にはなっていたがここは見なかった事にして立ち去るのが賢い判断だ。

山を降りようと思い来た道の方へと向き直る。


「これは君の仕業かい」

振り向いた先にいたのは見た目20代半ばくらいの男。高そうな黒いスーツを身に纏っているもののそのスーツはよれよれになっていて普通のサラリーマンという感じではない。

「まったく、派手に暴れたものだよ事情があるんだろうけどもう少しやり方があるだろうに」

言いつつ周りの状況を見ながら僕の方へと歩いてくる。

歩いてきてはいるのだが明らかにおかしな点があった。

その男は地面ではなく宙を歩いていたのだ。それほど高く浮かんでいるというわけではないが地面から5センチくらいは浮いているように見える。

なんだこいつ?浮いてるしこの場がお墓ってことも考慮すると幽霊か?

「失礼なことを考えるなぁ君は、俺はれっきとした人間だよ」

「か、勝手に僕の心を読むな!やっぱり人間じゃないなお前」

「心を読んだわけじゃないさ、顔を見れば考えていることくらいだいたい分かるよ」

たしかに僕はかなり訝しげな目でこの男のことを見ていたし、表情を隠そうともしていなかったので単純な僕の考えていたことくらい分かってしまうのかもしれない。

「そんなことよりこの状況はなんだい?どうやったかは知らないがやりすぎだろう。いったい何があったっていうんだい?」

面倒くさそうに頭をポリポリかきながら近寄って来てから僕の近くにあった墓石へと男は腰を掛ける。

「ちょっと待てこれは僕の仕業じゃない!冤罪だ!勝手に勘違いして決めつけるな、社会でも冤罪事件が問題になってるのを知らないのか」

「いや、確かに冤罪については最近ニュースなんかでもよく聞くけれど。しかし君からは確かに・・・」

この場の状況を見てもここまでほとんど表情を変えずに、どころか余裕の表情を見せていた男が初めて険しい表情になり僕をじっと見てくる。

険しい表情をしているので僕としては睨まれているようにしか感じない。

普通の高校生男子の僕としては年上の男に睨まれたら恐怖しか感じないのでやめていただきたいものだ。

僕の心境を察してくれたのか元の表情に戻ってくれた。

「はっはー、なるほどなるほど。そういうことか、すまなかったね私のちょっとした早とちりだったようだ」

何がなるほどで何がそういうことなのかまったく分からないが僕の無実は分かってもらえたようなので良しとしよう。

「しかしそれじゃあなぜ君はこんなところにいるんだい?おいらが見た限りこの場がこんな状態になってからそれほど時間はたっていないようだし、君がやったんじゃないにしても偶然ここに来たとは考えにくいんだが」

問われて僕は答える。普段からふらふら歩いていること。その延長でたまたまこの山に来たこと。そして一月珠希に会ったことと彼女の言った言葉を。



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