ためいき
あれ?って思うことはたくさんあったのに、気づけなかったのは私が鈍感だったからかな?
うっすら予感はあったけど見ようとしなかっただけかな?
1階の薄暗い倉庫のドアを開けて、目の前に広がる男女のキスシーンを見ながら私はふと考えた。
目前の2人はまだ私に気がついていないのか、まだ熱烈シーンを続けている。
倉庫は男女のたまり場にならないように見張る・・・と、どこぞの元テニス熱血プレーヤーのように言っていた上司は、いったいどこの見回りをしているんだか。
ここにバカップルがいますよー。と内線をいれようかしら。全く。
歩佳は無言でそこに立っていた。
「!!」
やっと二人が歩佳の存在に気が付くと、バッと体を引き離した。
女の子はきゃっ!と小さな声をあげ、そっと背中に手を添えて男の陰へ隠れる。
隠れたっていまさらですやん・・・。
何も言わずに二人を見ていると、あわてた男が私に向かって大股で歩いていきた。
「ちゃうねん!これはな・・・」
はいはい、関西人のお約束『ちゃうねん』でましたー・・・。
とてもあわてた風に、私に視線を合わせて一生懸命何かを言おうとするが、私は目を合わすことなく元来た道を引き返そうと回れ右をした。
男の後ろから女の子の声がする
「すみません!私が悪いんです!!私が・・・!!」
涙声で必死に何かを訴えようと声を上げる。かわいらしいねぇー・・・ザ、女の子という感じで。
「ちょっ!!ひまちゃんは話さんでえーから・・・!!!」
ははぁ、「ひまちゃん」とは受付嬢2年目の河野ひまりさんのことかぁ・・・。
その後もひまりさんは何かを言っていたようだったけど、もう私にはなにも聞こえず・・・ただ足を交互に歩ませて前に進むだけだった。
「ちょまって!まてって!・・・歩佳!!」
背後から追いかけてきた男が私の手をつかむ。しょうがないので、私は立ち止まり彼を見上げた。
彼のあからさまにほっとした表情に私は何を思えばよいのだろう・・・。
とりあえず、何か言わないと。
「何でしょうか」
おっと。
冷静に言ったつもりが、かなり強い口調になってしまった。彼がちょっとひるむのが分かる。
「あ・・・あのな、だからな・・・」
目を泳がせて一生懸命言い訳をいま考えているのだろう・・・私は大きなため息をついた。
「もうええーよ」
「へ?」
彼の間抜けな顔に、どうしてこんなやつが良かったのかを考えていた。
「どう見たって現行犯やろ?・・・だから、もうえーよ。」
あんたなんかいらん。
「手ぇ放して」
私は彼の眼を見ただけだったと思う。・・・思うのだが、どうもかなり凶悪な顔をしていたらしい・・・。
彼は小さく跳ねて手を放した。
私はそのまま前を向いて廊下を歩いていく。
背後からは女のすすり泣く声と何か言っている彼の声がする。きっとひまりさんを慰めているんだろう。
私にかわいげがあったらよかったのかな・・・。
付き合うときは「さっぱりしたお前の性格が好き」って言ってくれたのに、やっぱり女の子らしい子がすきなんやんか。
「あーあ・・・」
やっぱりそうなんや・・・・。
「あーあ・・・」
今日はため息ばかりでそうだ・・・。