第三話 『美濃辺准教授の大自動車レース』
今日はゼミ。黒板の前で僕は、与えられた課題を説明していた。
それは、公式と数字の羅列。
白墨の乾いた音と僕の声が、昼下がりの研究室に響く。
今回の課題説明には、自分でもかなりの自信があった。僕の説明は、熱弁にも近かった。
だがそんな熱弁も、僕の担当教官、いわずと知れた美濃辺准教授の耳には届いていないようである。
黒板の前に置かれた机に両肘をつき、一枚のカードを目の前に両手で掲げている。そして、時折その角を持ってくるくる回すと満足げに、にたぁと不気味に笑っているのだ。
これみよがしに、見せびらかしている様にも見える。だが、僕は敢えてその挑発を無視をする。
そんな光景が、ゼミの開始時からずっと繰り返されていた。
「小林君、小林君!」
「なんですか、先生。どこか間違っていましたか?」
「んー、間違っていたかどうかではなく……。気付かんかね?」
僕のあからさまな無視に、我慢できなくなったようだ。
美濃辺准教授の視線が、僕のそれを誘導するように、自らの手に持ったカードに向けられる。
「はあ、何がです? それより、間違いや質問が無ければ、説明を続けますよ」
僕は両手を腰に当て首をかしげると、困ったというポーズをとった。
美濃辺准教授は口を、酸欠の金魚のようにぱくぱく開閉する。
わかってはいるけど、意地悪をしてみる。
「おっと……」
と、そこで僕の足元に、美濃辺准教授の手から、あのカードが滑り落ちてきた。わざとらしい演技だ。
「しまった、小林君、拾ってくれるかい、その、素晴らしいカードを」
棒読みである。
「……」
しぶしぶ拾い上げると、それは何のことは無い、運転免許証だった。
写真の枠一杯に、美濃辺准教授の大きな顔が写っている。フレーム一杯に、はみ出しそうだ。
普通自動車の欄に、1の印が付いている。
それは、僕が二年前に取得したものと同じ普通自動車免許だが、オートマ限定であった。
「おお、すまんすまん」
手渡した時の美濃辺准教授の笑みは、徹夜明けの朝日のように眩しかった。
それを見て、僕は諦めにも似た気持ちとなった。
「免許、取ったんですね……」
「――ああ、四年かかったんだが、昨日無事に取れたよ」
「四年とは、こりゃまた随分とかかりましたね」
「自動車学校の教官とやりあってな。ずっとハンコが貰えなかったのだ」
僕も自動車学校教官の判子は貰えず、その技能の単位を取得するのが遅れ、苦労したこともあった。あれは結構堪えるものだ。
しかし、四年もハンコが貰えないとは、何をしでかしたのであろうか。
「あのう、失礼かもしれませんが、教官と何があったんですか?」
「おお、聞いてくれるのか、小林君。切り返しだよ、切り返しによる方向転換だよ」
美濃辺准教授がハンドルを握って大きく切る動作をした。
切り返し。車を後退させ、その時ハンドルを逆に切ることにより方向を変える技能だ。バックによる駐車や、縦列駐車時に用いるものだ。
確かに、切り返しを多用すると、自動車学校教官に嫌な顔をされた。実際は、何回も切り返した方が安全なのだが、多用は下手の証拠として、恥ずかしいことらしい。
「俺のな、切り返しをなあ、教官が文句を付けたんだよ。『遅い』とか『ちゃんと、後方確認してるのお?』とか。あまりにも頭にきたもので、『オレは切り返しを面積ゼロで方向転換できるぞ』と言ってやった。そしたら……」
「そしたら」
「そしたらば、その教官は、『そんなことできるかぁ!』とぶちきれて大怒り。それっきり、ハンコをくれなかったのだよ。酷いと思わないかね」
多分というか、確信だが、美濃辺准教授の自動車教習所での、このような素行と言動に問題があったに違いない。あと、学科の授業に教え方が悪いとクレームをつけたかも。
きっとそれ以前の適正試験でも問題があったのだろうなあ。面倒くさいひとだ。
「で、先生。その、切り返し範囲ゼロってのはどうやるのですか?」
「簡単だよ。例えばこのペンを車とする。で、このペンを百八十度方向転換したいとする。どう動けば、方向転換に要する面積を最小に出来る?」
「単純に考えてみると。真ん中を支点にしてくるっと回せば、向きは反対になりますね。これだと要した面積は、ペンの長さを直径とした円の面積となります。これが最小なんじゃないですか」
「ふふふ~ん。騙されてるねえ。その円よりも、このペンの長さを高さとした正三角形の方が面積は小さいだろ。この正三角形の辺をなぞる様にペンを動かし、頂点に達したら、そこを軸に回転また辺をなぞる。そうして、ペンの先が最初の頂点に戻るとあら不思議、そのペン先は最初と反対の部分。つまり、ペンは反対向きになったという寸法さ」
「うーん、確かに計算してみると、この正三角形は円よりも面積が小さいですね……」
僕は黒板に数式を書いて計算した。
教えられたのだけれども、なんか悔しい。これも美濃辺准教授の人徳? というものであろうか。
「ぐふふふふ。小林君、だけどねえ、まさかそれが最小だと思っていないかい。ほれ、こうしてペンを動かせば、正三角形よりもっと小さい面積だ」
美濃辺教授は、正三角形の辺をなぞらず、辺の内側を抉る様に動かして、結果同じようにペンを反対向きにさせた。
ペンの動きは、痩せた正三角形のごとき図形。その面積は明らかに先程の正三角形より小さい。
「だがな、まだまだこんなもんじゃないのだよ。曲がるときの角度を小さくし、方向転換の回数を五回、七回と増やしていけば、どんどん面積は小さくなる。そしてその回数が無限に限りなく近づけば、面積も限りなくゼロに近づくのだ。この方向転換こそ、そのまま切り返しだと思わないかね」
僕の頭の中では、痩せた角が無数に突き出た図形が出来上がった。丸まったハリネズミか、はたまた棘だらけのウニを連想する。ああ、ウニ食べたい。
「でも、それって無理じゃないですか。無限回切り返すなんて!」
「そうか?」
「そうです。それに無限に角があるという事は、その図形の辺の長さも無限になり、その行動が完成するにも無限の時間がかかるということです。先生は、一生どころか、ずぅっと、切り返しをしていることが出来ますか?」
「ん、んんんん……」
美濃辺准教授は額に皺を寄せ、熟考し始めた。
そして、目をぱちりと開くと、右こぶしでもう片方の手のひらをポンと叩いた。
「それも、そーだな」非現実なことにようやく気が付いたようだ。「はっはっは」
突然、笑いを中断するように、ドンという音とともにプレハブ造りの研究室が揺れた。天井から下がった蛍光灯の傘から、積もっていた埃がパラパラと落下する。
「おっ、地震か?」
「いえ。どうも違うみたいですよ」
もう一度、更なる打撃音がした。今度はしっかり引き戸の方からであると認識できた。
「?」
僕たちは揃って引き戸に視線を向けた。
どっどっどっ
それはまるで工事現場から聞こえてくる杭打ち機のような連続音。それとともに引き戸の表面が、歪んで膨れいくつもの瘤が隆起していくのが見えた。その上部にある強化スモークガラスもビリビリ震えている。
どんっ!
僕たちの方に向けて、レールを外れた引き戸が吹き飛んできた。
「うわっ」
僕はとっさに飛び退いて、その引き戸を避ける。引き戸は美濃辺准教授の顔面に見事ヒットした後、背後のガラクタの山にぶつかって止まった。その表面の歪みは、まごうことなく足跡、しかもヒールの形である。
そう、当研究所の引き戸は薄いながらも対爆使用の複合装甲製である。それが蹴り破られたのだ。
「みぃのぉべぇ!」
怒りに震える女性の声だ。
そう、舞い散る埃の中には、仁王立ちの女性が立っていた。
腕を前に組み、偉そうにふんぞり返っている。
外見は一言、美人である。
年齢は三十前後であろうか。いい意味で、良い年齢の取り方をしている。
つややかな髪を編み上げ、広い額は彼女を理知的に見せていた。
茶色がかった大きな眼と、すっきりと通った鼻梁、白磁のごとき肌は多分コーカソイドの血が入っているのであろう。
背は高い、百七十センチは超えている。
美濃辺准教授と同じように白衣を着ているが、その着こなし方の違いは何だろうか。彼女が着るだけで、一流デザイナーが仕立てたオートクチュールの一品のようだ。衣装が彼女の美しさを際立てているのではない、その彼女が衣装の美しさを引き立てているのだ。
胸も白衣の上からでも判るくらい大きい。
その女性的な魅力。すれちがう男で、振り向かない者はいないに違いない。
彼女の名を知らぬ者は、学内に存在しない。
エリカ・クレツィヒ・栗本教授。
本学の農学部、基礎生物科の教授である。
この若さで教授と言う肩書きからしても、能力と運が図抜けている事に疑う余地は無い。
業績は、数々の酵素や微生物を発見し、大学に莫大な利益をもたらしている。その功績もあり、学内での彼女の権限は絶大。
天は彼女に美と知の二物を与えた。才色兼備とは彼女のためにある言葉であろう。
「おお、『えりりん』か。君も、俺の運転免許取得を祝いに来たのか」
「みのべえ、『えりりん』なんて馴れ馴れしく言わないで。第一、なんで天才のワタシが、ど、う、し、て、あんたごとき、祝わなくちゃいけないのよ!」
「えっ、そうなのか?」
栗本教授はきっとした目で美濃辺准教授を睨みつけ、長く細い指で指差した。
「みのべえ、それよりっ!」ヒールのかかとが床に打ち付けられる。「あんた、ワタシんとこ枝肉、また盗んでいったでしょう!」
栗本教授は怒鳴り散らす。白いこめかみには、血管が青く浮き出ていた。大きな目も吊り上がっている。
ちなみに枝肉とは、解体された骨の付いたままの肉のことだ。よく、お肉屋さんの冷凍庫にぶら下がっている、あの肉の塊である。あの状態で熟成させ旨味を増やすのだ。
「枝肉? 知らないなあ」
大きく膨れた腹を擦りながら美濃辺准教授が答える。
「なあにしらばっくれてんのよ! 昨日の夕方、第二食堂の前で、みのべえが枝肉担いで全速力で走ってくの見た者が何人もいるんだから」
美濃辺准教授の態度が、栗本教授の怒りに油を注ぐ。
苛立った栗本教授は、肩をいからせ胸を揺らし、美濃辺准教授に近づく。そして、腰に手を当て見下ろした。美濃辺准教授より、頭二つ分背が高い。
「ふんっ。天才のワタシに隠し事など出来ないわよ。いい加減白状しなさい!」
美濃辺准教授は、視線をそらす。
端から見ていると、蛇に睨まれたカエルのようだ。そういえば、美濃辺准教授の顔に、大粒の汗が浮かんできている。筑波山麓、四六のガマだ。
「――見、見間違いだろう。な、なぜなら、ここの所、羊なんて食べてないからなあ。間違いじゃ、ないのかなあ。は、はははは……」
「あっ、あんた今、『羊』って言ったでしょ。ワタシは一度も肉の種類を言っていないのに。語るに落ちたとは、この事ね!」
「うっ……」
言葉に詰まる美濃辺准教授。
「ふっふ~ん」
勝ち誇る栗本教授。
そしてそんな二人を、うろたえながら見る僕。
「別に……」
美濃辺准教授がぽつりと言った。
「別に、いいじゃないか。冷凍庫の中には、あんなにいっぱい肉があるんだから。その内の一本や二本くらい、いや、三本、四本。まてよ、五本、六本、そのくらい俺にくれても損は無かろう。食べてやらねば、肉となった生き物たちも成仏できまい」
美濃辺准教授は、罪がばれて開き直る。
「みのべえ、あんた、やっぱり馬鹿だわ」
怒り一転、栗本教授は呆れ顔で言い放った。顔からみるみる険が取れる。
「なんですとおっ。誰が、馬鹿だ。誰が!」
僕は心の中で、美濃辺准教授あなたです、と大声で叫んでいた。が、心の中の声なので当然美濃辺准教授の耳には入らない。
「みのべえが食べた肉は、何の肉だかわかってるの?」
「肉って、羊肉。あの柔らかく、癖のない食感は生後一年以内の肉、ラム肉だ。ジンギスカーン」
「あの肉は、ただの羊じゃないのよ。クローン羊。ましてや関節炎や発育障害など、体に異常の見られないはじめての生体だったものよ」
確かに世界初のクローン羊ドリー誕生以来、生まれてきた多くのクローン動物の体にはどこかしらの異常があると聞いている。関節炎や急激な老化、一部臓器の異常肥大などである。
「異常を引き起こすであろう、細胞機能をコントロールするメチル基分子を操作し、正常な生体のクローンに成功したのよ。天才のワタシがねっ!」
「でも、えらく美味かったぞ」
「あたりまえでしょ、天才のワタシが創ったものよ。味だって完璧よ。だけど、食物としての安全性はまだ検査段階だったの。食べて何が起こるか、起こらないかは、まだわからないのよ」
「うげえ」その話を聞いて美濃辺准教授の顔に皺が寄った。「もうすでに、おもいっきり消化しているのだが……」
「いいわ、あとでワタシの研究室に来なさい。あんたの体で安全性を検証することで、肉泥棒の罪を相殺してあげる。採血、検尿、検便よ。天才のワタシの慈悲をありがたく想いなさい。おほほほ……」
勝ち誇った高飛車笑いを上げながら、栗本教授は帰って行った。
美濃辺准教授は悔しそうだ。
「くそっ、胸が大きいからって威張りやがって。小林君、知っているか、胸があんな形しているのは、猿の中でヒト位なものだ。メス猿が発情すると尻が大きくなるのは知っているな。ヒトは二足歩行の為、見えにくくなった尻の代わりに、胸が大きくなったという説がある。だから、あれは尻だ、尻なのだ。おまけに、胸があまりに大きすぎると、授乳時に乳児が乳房に埋もれて窒息する危険性もある」
「でも、僕はどちらかと言うと、大きいほうが……」
「こばやしくん! 君は何年、オレの下についているのかね?」
「一ヶ月ちょっとですけど……」
「一ヶ月……、だけか、ま、いい。とりあえず、最高なのは、つるぺた!」
助教授が拳を握りしめ、胸の前に力強く掲げた。
「つるぺたですか? それはまた、どーいうものなのですか?」
聞かない言葉だ。生物学の学術用語だろうか。
「それはな、胸がつるつるでぺったんこな事だ。勿論、Aカップ以下なのは言うまでもない。ちなみに我がS県は、全国に名だたるAカップの宝庫なり」
先程の恥辱を忘れ、御機嫌の美濃辺准教授は、にっかりと笑みを浮かべた。
「はあ……」
僕はため息にも似た相槌を打つのが精一杯だった。
「ところで、小林君。明日は暇かね?」
美濃辺准教授は唐突に話題を変える。
「ええ、明日の予定は先生のゼミだけですけど……」
「それは好都合だ。では、明日の朝八時に正門前に集合。課外実習だ」
「へ……、はい」
後々、この条件反射的な返事が後悔に変わるとは、この時には露とも思わなかった。
ま、大抵、いつも最後には後悔するんだけどね。それに懲りない僕も僕だなあ。学習しろよ、僕。
そして翌朝。僕が、正門前に到着したのは、約束の八時から五分ほど過ぎた時だった。
待ち合わせ場所である正門の前には、すでに美濃辺准教授がいた。その横には、一台の自動車が停めてある。
どうやら、自動車免許を取得したから、どうしてもドライブに行きたくなったにちがいない。
ただ、僕はすぐに近寄れなかった。躊躇して、少し離れた所から准教授を見る。
僕にとって問題なのは、美濃辺准教授の格好と車種であった。
原色満載のサイケデリックな柄のアロハシャツに、顔の大きさの半分はある濃いサングラス。真っ白いズボンの裾は広がっている。靴は勿論、白のラメ入りだ。
全身から、やる気が空回りしてほとばしっていた。
至って元気そうである。クローン羊の肉の影響は無かったみたいだ。まあ、美濃辺准教授の普段からの悪食振りを考えれば、少々の毒など薬同然であろう。以前、一緒に鉄板焼きを食べた時など、鉄板に塗る脂肪の塊を、軽く焼いてぺろりと平らげていた。好物だと言っていたが、見ていて胸が悪くなったものだ。その胃液の前では、あらゆる物が溶かされてしまうのかも知れぬ。
さらに美濃辺准教授の横にある車は、トラックであった。ただしデコレーショントラックの類ではない。
軽トラックである。
女性がデートの際に絶対助手席に乗りたくない車種ベスト3に入る軽トラ。
ただ背後にはカーゴボックスが取り付けられており、その上に巨大なウイングが見える。車高は普通のものよりも低い。
後部には初心者を示す若葉マークが燦然と光り輝いている。
何より、この軽トラックの車体の色が明るい黄色なのはどうかして欲しいと思った。可愛いとか、綺麗とかのレベルの代物ではない。目に痛いくらいの黄色なのだ。
美濃辺准教授の服装、軽トラックの車色とも、派手派手である。
当の美濃辺准教授は、軽トラにもたれ掛かり、腕組みをして待っている。その相手は、勿論僕だ。
その前の通り過ぎる人達は、必ず一瞥していく。ある者は苦笑し、ある者は露骨に顔をしかめる。
僕は、このままきびすを返し、帰ってしまおうかという誘惑にかられた。しかし、
「おおい、小林君、待ってたよお」
美濃辺准教授が大きく手を振り、声をかけてきた。
しまった、気付かれて、よりによって大声で名前を呼ばれてしまったのだ。
周囲の視線が僕に集まるのがわかる。ちくちく痛い。
「ちっ……」
僕は小さく舌打ちすると、手にしたバッグで顔を隠しつつ、美濃辺准教授の元に近づいていった。
「ドライブ行こう、ドライブ。富士山がいい。にっぽんいちの富士の山」
そう言って、軽トラのドアをどんどんと叩く。
「先生、これどうしたんですか」
美濃辺准教授が車を購入したという話は聞いていなかった。
車の周りを一周してみる。
フロント前方には、六つ星のマーク。スバルこと富士重工製らしい。だから富士に行こうとしてるというのは、僕の考えすぎなのだろうか。
よく見ると軽トラではあるが、フロント、リアなどの下部に別パーツが付いている。前部屋根には、空気を取り入れるための大きな口も取り付けてある。
マフラーがまた大きい。街中でよく見かけるスポーツカーのもののようだ。
背後のカーゴの扉部分には、M・Hと印刷されたステッカーが張ってあった。
車高もかなり低くなっている。外見からも、かなりスポーツライクに改造されていることがわかる。
「まあ、それは乗ってから、話そう。早く行こう」
美濃辺准教授がせわしたてる。僕も内心、とっととこの場を去りたかった。
僕は、助手席のドアに手をかけようとした。
「小林君は、こっちこっち、運転席に乗って!」
「えっ、先生が運転するんじゃないんですか?」
「何言ってるんだい、僕はまだ初心者だよ。危ないじゃあないか」
美濃辺准教授の初ドライブが目的ではなかったのか。
一応、僕も運転免許を持ってきたからいいが、なんか釈然としない理由だ。
美濃辺准教授に何を言ってもしょうがない。
僕はしぶしぶ運転席へと乗り込んだ。
ドアの内側低い部分には、床と平行に鉄パイプが設置されており、乗り込みずらかった。
さらに車内の枠に沿って、パイプは設置されていた。それが、一段と車内を狭くしていた。このパイプは、ぶつかった時のための、安全策なのだろうか?
「いっぱいメーターが付いてますね」
コンソールの内にも外にも、いくつもの小さなメーターが付属している。標準装備の時速百四十キロまで刻まれた速度計、水温計、燃料計の他に、僕が一見して判るものは、エンジン回転数を計るタコメーターと、カーナビゲーションの液晶パネルくらいであった。他の小さなメーターは何のメーターだか判らない。
違和感はそれだけでない。ハンドルが通常のものよりも小さい気がする。そして何より、シフトレバーの形が通常のオートマ車と異なり、N字の逆の形になっている。
「ああ、これはシーケンシャルクラッチといって、レバーの上下でシフトチェンジらしいよ。マニュアル車だけど、クラッチが無いから俺のオートマ限定免許でも運転できるのだよ」
と説明してはくれたが、本人もよくその辺のことは、分かっていないらしい。だからこそ、僕に運転させようとしたのだろうか。
この運転席でまともなのは座席くらいであろうか。ビニール製のシートベルトも二点式でごく普通の軽トラックのものだ。シート自体固いのはノーマルのものなのだろう。
「さささ、早く発進発進、富士山へ向かってゴーだ!」
「待ってください、いまエンジンをかけてみますから」
キーを回した。
セルモーターの回転する音。
そして、エンジンが咆哮した。
驚くほどの重低音。腹の底まで響いてくる。
何なのだろう、この車は。普通のエンジン音とは違う。
車にあまり関心のない僕でも判る。この車は、普通のものではない。
「それでは、発車しますよ。シートベルトをしてください」
クラッチが無いとはいえ、マニュアル車は久しぶりだ。車に乗ること自体久しぶりのことだ。僕の体は、操縦法を覚えているのだろうか。
緊張に、息を飲み込みつつ、アクセルを踏み込む。
ゆっくりと軽トラが動き出す。
しかし、正門の前を出ない内に、エンジンが咳き込むようにノッキング(エンジン内の異常燃焼)を起こして、停止してしまった。
「あれえ……?」
何が悪かったのだろうか? 久しぶりなので、運転の感覚が掴めなかったからか。それとも、オートマとは運転法が著しく違うのだろうか。
「おっ、すまんすまん、サポートシステムをオンにしとかなかったわい」
美濃辺准教授がコンソールパネルに並ぶスイッチの一つを押した。
すると、カーナビのモニターが点灯した。どうやらこのカーナビも普通のものではないらしい。
やがてデータの読み込みの後、モニターに美濃辺准教授のいやらしい笑い顔が映った。
「おわっ!」
びっくりした。
続いてMINOBE-DOSの文字が表示される。その名も、みのべディスクオペレーションシステム。これは美濃辺准教授が作成したOSなのだろう。OSとは、コンピューターを動かす基礎となるソフトである。これがないと、基本的にコンピューターは動かない。
次にアイコンを表示した。美濃辺准教授はその画面をかろやかにタッチし始めた。
「よし、行き先の入力も済んだ。もう大丈夫」
再びエンジンを始動させ、アクセルを踏み込んだ。
その言葉の通り、今度はノッキングせずにスムーズな発進が出来た。この車の操縦には、サポートシステムとやらが、大きな役割を担っているらしい。
大学の正門前から、その前を通る県道に出る。
朝であったが、道は比較的空いていた。
県道から国道に移り、すぐに首都高に乗る。
癖が無く、運転しやすい車であった。
カーブも曲がりやすい。
ブレーキも良く効く。
これもサポートシステムのおかげなのだろうか。だが、まるで自分の運転技術が向上したと錯覚しそうである。
そして首都高から、中央自動車道へと乗る。
首都高を抜けると、さすがに飛ばす車が多くなってきた。その流れに逆らわぬように、軽トラも飛ばす。
どれだけアクセルを踏み込んでも、軽トラはそれに応えてくれた。エンジンの回転数が上がり、速度が増す。
現在の時速はゆうに百キロ超。
コンソールの上に取り付けられたデジタルメーターに、速度が表示されている。標準装備のものがあるのに変だと思っていたらば、合点がいった。この軽トラは標準メーターに刻まれた速度以上のの速度が出せるのだ。その速度、時速百四十キロ以上。
ただ僕には、そこまでの速度に達する度胸は無かった。自分に運転技術がないことは自覚していた。
走行車線を走る軽トラを、追越車線から、何台ものスポーツカーが追い越していく。
相対速度からいって、スポーツカーは時速百三十から百四十キロは軽く出しているであろう。
不思議なことに、スポーツカーの運転手たちは、抜き去る前に必ず一度軽トラの背後に付いた。そして追越車線でしばらく併走してから追い抜いていくのであった。
やはり、こんな黄色の派手派手な軽トラックは珍しく、目立ってしょうがないのだろう。それで煽ってから追い越しているのだ。
ああ、ここでも好奇の目が痛い……。
橋を越え、トンネルをくぐる。クルージングは順調だった。
東京も八王子付近まで来ると辺りは山ばかりだ。
空は晴。所々、雲が浮かんでいる。
道を囲む山々では、芽吹いた新緑の葉が照り輝いている。
気温も高い。車内の温度も、差し込む日光により高めになってきた。
ただこの軽トラには、エアコンが装備されていない。
手回しで窓ガラスを少し下げると、爽やかな風が車内に吹き込む。
風には、花の甘い香りが混じっている。車の中にまで春の息吹が感ぜられた。
道路標識に従って、大月ジャンクションで河口湖方面に道を進めた。カーナビは指示をしない。壊れているのだろうか。
やがて、河口湖出口の標識が見え始める。思っていたよりも河口湖は近かった。
巨大なジェットコースターのそびえる遊園地を左手に見ながら、河口湖インターチェンジを降りて、中央高速道路に別れを告げる。
そして、昼前には無事、目的地である川口湖へと到着した。湖畔にある土産物屋の駐車場に停車する。
サイドブレーキを引いた僕はようやく大きく伸びをした。緊張が和らぐ瞬間だ。
久しぶりの運転で最初は怖くもあったが、車のおかげか楽しい運転であった。
ちなみに、美濃辺准教授だが、学校を出た時点で大きなあくびをし、首都高に乗った時点で大いびきをかいていた。
今も僕の横の助手席で、大口を開けて寝ている。サングラスもつるの先がかろうじて右耳にかかっている状態で、外れかかってしまっている。
正直言って、寝ていてくれて助かった。もし起きていたら、運転中いろいろとうるさかったに違いない。
「美濃辺先生、起きて下さい。河口湖に着きましたよ!」
ごーー!
いびきで返事をしたのか。ちっとも起きようとしない。
とりあえず、起こすために何かないものかとコンソールボックスをまさぐると、ガムテープがあった。補修などのちょっとした車の修理に使うものであろう。
僕はガムテープを引っ張って、何枚かにちぎりとったものを用意すると、美濃辺准教授の大きな顔の上にべたべたと貼り付けた。
「そおれっ」
そして掛け声と共に一気に引っぱり剥がした。
「ったああ! がっ……」
ごんっ
言葉にもならない音と共に美濃辺准教授は飛び跳ね、そう高くない運転席の天井に頭をぶつけたのだ。
頭を抱える美濃辺准教授。むしろ心配なのは、天井の方だ。あの石頭でぶつけられて、凹んでいないだろうか。
「よくお休みになられましたか?」
僕は取って付けた様な笑顔で言った。
「おはよう、小林君。ここはどこかね?」
そのたるんだ頬には、くっきりとガムテープの赤い跡が残っている。まだ寝ぼけているようだ。
そしてガムテープの粘着面には、たくさんの白い角栓の突起がへばりついていた。気持ち悪いのでさっさと丸めてビニール袋に入れる。
「ここがどこかって、河口湖ですよ、か・わ・ぐ・ち・こ」
「かわぐちぃ、ここは埼玉なのかあ。キューポラはあるのかあ」
「それはかわぐち“市”。ここはかわぐち“湖”。みずうみです。まして、さわぐちやすこ、などではありません」
「みずうみ、みずうみ、河口湖……」
美濃辺准教授の目の焦点がようやく戻ってきた。
「うむ、そうだ思い出したぞ。目的を達せねば」
ずれていたサングラスを直し。そして拳を握り締めた美濃辺准教授は、脱兎のごとく軽トラから飛び出していった。ただし、その姿はウサギと言うより、猪突猛進のイノシシといった感じだった。
数分後、美濃辺准教授が土産物屋の中から出てきた。
腕にいっぱいの溶岩の塊を抱えてである。それでいて足取りは軽やかである。
「そ、それって、重くないのですか……?」
岩の塊であるから重いはずである。
「なに馬鹿なことを言っている。よく見てみなさい」
溶岩に見えたもの、それは岩の形をしたお菓子であった。
「溶岩飴というのだ。富士山の名物なのだよ」
にたにたと笑う。
ふむ、確かによく見ると菓子だ。岩そっくりの砂糖のかたまりに、黒や茶の食用着色料で色付けしたのだろう。
美濃辺准教授が、一欠けら割って差し出してくれた。その欠けらを口に含んでみる。
甘い。確かに砂糖だ。
もしかして、これを買うためだけの為にここまで着たのだろうか?
「やっぱり、名物を現地で食べるのは格別だねえ。ほら見るがいい」
美濃辺准教授が指し示した方向。そこには日本一の富士のお山の姿があった。なんと大きいことであろう。
関東の片田舎から見る富士山とは大きさが違う。おまけに威厳まで漂ってきている。
さすがは霊峰富士。美しい。
さらに岩石飴を食べながら見る富士は、なかなか乙なものだ。
「ここ富士山麓には、遥か古代に王朝があったという説もあるんだよ。この地に伝わる歴史書『宮下文書』には、ここ富士山麓に神話時代より王朝が存在したと記されている。秦の始皇帝の時代には、臣下の徐福を数百人の子供と共にこの地に派遣したという記述もある。どうやら不老不死の仙薬を求めての事らしい。他にも原古事記と言われる歴史書『ホツマツタエ』には、富士山麓に都が在ったと記されている」
美濃辺准教授も岩石飴を食べながら、淡々と話し始めた。
「へえ、富士山に都があったのですか。確かに地図で見ると、日本の真ん中っぽいですもんね。日本のどこに行くのも便利でしょうしね。ところで、不老不死の薬って本当にあったのですか?」
「むむ、小林君は、『竹取物語』を読んだことはあるのかい?」
「それって、『かぐや姫』のことですよね。ありますよ、当たり前じゃないですか。古典の時間にですけどね」
「うむ。物語の祖と云われる話だ。で、その話のラストはどうなる?」
「そりゃあ、かぐや姫が月から迎えが来て帰ってしまう、で終わりですよね」
「それだけではないだろ。かぐや姫が帰る時、世話になったお爺さん達や帝にお土産を置いてった。そのお土産が不死の薬だったのだよ。かぐや姫が帰った後、帝は部下に命令して、月に一番近い場所、つまりある山の頂でそれを燃やさせたんだ。その山こそが、富士山であり、不死の薬を燃やしたから『ふじの山』という名が付いたのだよ」
「不死の薬から富士山ですか」
「そうだ、富士の山は不死の薬と何らかの関連があるに違いない。ついでにいうと富士山の頂上は国有では無く、浅間神社の所有物なのだ。ちょっとマメ知識。ん……」
美濃辺准教授の掛けているサングラスが光った。何のことはない湖面に反射した光を映したのだ。
「どうしたんですか?」
「そういえば、浅間神社の主祭神は木花咲耶姫神。名の通り、花が咲くような繁栄をもたらす女神だ。その姉が磐長姫。こちらは石のような長寿、つまりは不死をもたらす女神。全国の浅間神社の中には、木花咲耶姫の他にもこの石長姫も奉る所もある。むむむ、怪しい、怪しいぞ。不死は本当に富士に有るのかも知れんなあ……」
肉の程好く付いた顎に手を当て、美濃辺准教授は大きく頷いた。
はっ……、もしかして、美濃辺准教授がここ富士山麓に来た理由は、話に出てきた『不死の薬』にあるのかもしれない。
あそこまで、熱く語っていたのだ。そうに違いない。いや、そうであるべきだ。
ここまで来た目的は、幻の古代王朝を発掘し、伝説の薬を発見することだ。
決して、溶岩飴が食べたいだけのために、ここに来たのではないはずだ。
これから、僕たちの前には、超古代文明の秘密や、謎の怪物の襲撃、旧日本兵との遭遇など、幾多の冒険が待ち構えているのだ。
まるで、ハリウッド映画の世界。
美濃辺准教授、格好は変だが、あんたいかしているよ! 。
「先生、僕はついていきます!」
僕は感動していた。
「そうか、じゃあ、行くか」
「え、もう。どこです、やはり樹海ですか。それとも溶岩穴ですか。装備はどうしましょう。穴に入るんじゃ、ロープとかヘルメットが無いと駄目だよなあ」
「なに世迷言を君は言ってるのだい。帰るんだよ。ここまで来る目的は無事果たした。あとは帰り道だけだ」
「えっ……」
やはり、ここに来た理由は、岩石飴の為だったのか……。
それだけの為にここまで僕を連れてくるとは……。
前言撤回。
美濃辺准教授、格好も変だが、やっぱり、あんたいかれてるよ! 。
「とほほほ……」
「何落ち込んでいるんだい。小林君、今度は君が助手席だ」
「あれ、帰り道は先生が運転なさるんで……?」
「ん、ああ、随分と学習出来たからなあ」
美濃辺准教授は岩石飴を車中に放り込むと、僕を運転席から降ろし、とっとと運転席に乗り込んだ。
座席を調節し、シートベルトをはめる。そしてバックミラーを調整した。免許を取ったばかりなので、この辺はしっかりとしている。
そしてコンソール上の例のモニターをタッチした。画面にMINOBE―OSの文字が走る。運転のサポートシステムが立ち上がる。
「さっ、出発するぞ!」
閑散とした駐車場を一周ぐるりと旋廻してから、軽トラは車道へと飛び出した。
行きに来た道を遡って行く。
僕が何より驚いたのは、美濃辺准教授の運転だ。先日免許を取ったばかりの初心者とは思えないほどスムーズな運転なのだ。
右折、車線変更、坂道発進。どれもそつなくこなしている。
伊達に四年も教習所に通っていなかった訳だ。逆に考えると、どうして四年も受からなかったのか。やはり、性格に難があったのだろう。
「そういえば、この車どこで手に入れたんですか? まだ聞いてなかったですね。いろんな所いじってあるみたいなんですけど」
行きに聞き忘れていたことを質問する。
「この車か。元工学部の昼間先生に貰ったんだよ」
「昼間先生。もしかして、あのマッハ・ヒルマンにですか?」
マッハ・ヒルマンこと、昼間元准教授は、二年前まで同じ大学の工学部機械工学科の准教授であった。齢四十半ばの若さで退官し、大学に近い自宅で車のチューニングショップを開いている。
昼間元准教授にチューニングされた日産GT-Rは、国内外のあまたのレースでぶっちぎりの優勝を勝ち取っっている。海外のマスコミはその功績を称え、マッハ・ヒルマンと彼を呼んでいるのだ。
いまやツーリングカーレース業界を代表する有名人の一人である。
この軽トラは、その彼が組んだ改造車。どうりで速いわけだ。
行きの高速道路で、走り屋達が煽ってきたのも、背後のM・Hのステッカーのせいだったのだ。合点がいった。
でも、何で軽トラなぞを改造したのだろう?
「どうせだから速いのをくれって言ったらば、この車をくれたのさ」
「この車がねえ、速いんですか……」
「そういや、誰も乗れないんで無料でやるよ、とも言ってたなあ」
「へえ、乗る人がいないんで無料だったんですか。そりゃ、得しましたね」
「ああ、昔車載コンピューターいじったりして、いろいろと手伝ったからな」
昼間元准教授のチューニングした車は、ただでさえ数も少なく値段も高い。
それを所有できるとは、美濃辺准教授、意外と顔が広い。まあ、実際の顔も大きいけれども。
途中、帰り道が行きと同じ中央高速では芸が無いと言う事で、遠回りして東名高速に乗って帰ることなった。西湖方面に向かって走り出す。
まあ、美濃辺准教授の気が、いきなり変わる事はそんなに珍しいことではない。女心と秋の空より、そして猫の目より変わりやすいであろう。
西湖を過ぎると、視界が深い緑に包まれる。窓から流れ込む風も、萌芽の息吹に溢れている。
「おうおう、これが青木ヶ原樹海か。小林君、いっちょう探索して見るかね」
「嫌ですよ。せんせいと一緒じゃ、絶対に遭難するのが目に見えてますから」
「そうかあ、案外と陸上自衛隊が樹海の中で行軍演習していると聞くぞ。イザというときには助けてもらえば」
「まったく、そういう不確定な情報に踊らされちゃ駄目ですよ」
そんな会話を交わしながらも車は進む。
普通の初心者ならば運転中、緊張の為もっと会話がぎこちなくなり気味だ。しかし、美濃辺准教授は、まるで運転をしていないように会話している。余裕たっぷりである。
これも、美濃辺准教授が奇才たる所のものか。
やがて僕達は青木ヶ原樹海から、朝霧高原を抜け、富士市に着く。
ここまでは、飛ばさず、遅すぎずの安全運転だ。
そして富士インターチェンジから、東名高速道路に乗る。
この辺は、まだ車は少ない。走行する車の車間も十分広い。
時間が結構かかってしまった。時計は午後六時を指し、西の空は赤く染まり始めている。
富士山を見る。頂の白い残雪から蒼い山麓にかけて、朱色に滲んでいる。
僕は目を閉じ、その光景を心の奥底に焼け付けた。
その姿を見ただけで、今日ここに来て良かったと思った。
日も暮れ、ライトが点けられる。夜間、しかも高速道路での運転だというのに、美濃辺准教授はやけにリラックスしている。
運転にも乱れは無い。時々、他愛も無いことを喋っては手にした岩石飴をがりがりと食べている。
高速道路が夜の闇に飲み込まれていく。特に山間部は夜が早く、暗い。
黒いアスファルトに、オレンジイエローの照明が映る。
遠く山の中には、点々と民家の明かり。星々の輝きは都会に比べまばゆい。
眺めている内に、疲れが僕の体を襲ってきた。更に単調に頭上を過ぎ行く照明が、催眠効果をもたらす。
美濃辺准教授の戯言も耳に入らなくなってきた。まぶたが引力に抗うことが出来ない。
僕がすうっと眠りに落ちようとしたそのとき、
「よいしょっと」
突然、美濃辺准教授はハンドルを放した。そして、助手席の方に身を乗り出し、グローブボックスの中の岩石飴に手をのばした。
僕は、膝の上の重さに、はっと目を覚ます。
すると目の前には、大型トラックのテールランプが迫っている。どんどん迫る。
おおおおっ!
思わず、僕は、両手を顔の前に交差させ、叫んだ。
駄目だ。このまま衝突して僕は死ぬんだ。短い人生だった。お父さんお母さん、先立つ不幸をお許しください。
息が詰まり、冷たい感覚が背から顔へ一気に通り抜けた。
これが死なのか?
と、思っていたのだが、なかなか衝撃が襲ってこない。
静かに目を開けてみる。
気が付くと、前方にいたトラックはすでに左後方を走っていた。
軽トラが無事に追い越していったらしい。それも運転手の操作無しで。
「???」
視線を運転席に向ける。そこでは美濃辺准教授が岩石飴を美味そうに食べている。ハンドルから手を放したままでではあるが。
「先生、運転は?」
「なぬ、うんてん?」
美濃辺准教授は、きょとんとした表情で、今自分が握っていなくてはならないハンドルと、今握っていてはいけない岩石飴とを見比べた。
「ばれたかっ」
「ばれたかっって、うわわわ、ハンドル、ハンドルをちゃんと握ってください。危ないでしょうが」
僕は慌てて、ハンドルに手を伸ばそうとした。
「だいじょうぶ、だいじょうブイ」
二本指立ててVサイン。
既に世間で風化済みどころか化石化しているCMの真似だ。
「ぜんぜん大丈夫じゃないですって」
「ちゃんと自動運転装置が付いてるから、大丈夫なのよ、コレ」
「自動運転装置?」
自動車の自動運転システム。話には聞いたことがある。古くは道路に電気を流した誘導ケーブルなどを設置し、その上を車が走行するモデルがあった。最近は、GPSを駆使しつつ、車載カメラからの前方映像を解析し車を制御するモデルも出てきた。しかし、インフラ整備にしても、まだまだ実用化には程遠いはずだ。
「これだよ、これ」
美濃辺准教授が、ダッシュボードの上の液晶モニターを指差す。
MINOBE―OSの載っているカーナビ。だが行きにカーナビらしい案内もせず、ただずっと地図画面を移すだけだったあれだ。
「正確に言うと、これとな、後ろのカーゴの中に積まれているものだ。この車全体には前方後方画像、ジャイロセンサ、タイヤ変形計など合わせて七十二のセンサーが取り付けられている。それらのセンサー情報を測定し、計算後、適度なギアやアクセル、ブレーキの操作などを制御するためのコンピューターが後に積まれている」
「でもその程度の自動運転装置だったら、今まででも実現可能でしたでしょう」
「いやいや、この車には更なるビックリドッキリシステムが搭載されているのだよ」
「なんすか、それ?」
「小林君、この前の『くだん』は美味かったかね?」
「ええ、まあ……」
食べた後、なぜか殴り合いになって痛かった思い出が強いけど……。
「あのな『くだん』の脳みそは、実は脳死に至っていなかったのだよ」
「え……、はあ」
昔のアニメの屁理屈みたいな真実だ。
でも、それほど驚かない。相手が美濃辺准教授だからだ。
「その脳みそをな、培養液に入れて観察していたんだ。暇だったんでな。で、ある日、脳みそにぶっ刺しておいた電極に異常な電流が走ったんだ。びっくりして立ち上がった時、手元のスイッチに手が誤って触れ、切れてしまったのだよ。そのスイッチは、培養液の濾過装置のものでね。脳みそはすぐさま瀕死の状態。あれは危なかったあ」
「――その失敗談が自動運転の装置と、どう関わりがあるのですか?」
「小林君、焦りなさるなよ。それより、なんで脳みそに異常電流が流れたか、考えてみたまえ」
「え……、そりゃ……」
僕は、電流発生の可能性を思考し始めた。しかし、あまりにも情報が少ない。くだんといえば、未来予言であるが、それと関係しているのかな。
「あー、じれったい。脳みそはな、自分の未来の危機を予知して、脳に異常電流を流したのだよ」
予知、予知かあ。その予知をしたおかげで、美濃辺准教授が驚いて、脳みそ自身の身に危機が訪れた。
と言う事はだ。もし脳みそが予知をせずに異常電流を発しなければ、美濃辺准教授も驚かず、脳みそ自身にも危機が及ばなかった、筈である。
う~ん、難しい。「卵が先か、鶏が先か」の議論みたいである。ちなみに卵が……の議論は、実際には「鶏の」卵の方が鶏より先であるという。
「それから、火を近づけたり、無作為に濾過装置のスイッチが切れるようにしたりして実験を重ねてみたのだよ。で、わかった事はだ。脳みそは、危機が訪れるきっかり三秒前に異常電流を発すると言う事だ。面白いだろ。そして、なんとその脳みそは、この車の制御コンピュータに繋がれて、カーゴの中にあるのだよ。コンピューターと脳みそが連絡を取り合い、オーバースピードなど、この車にとって危険すぎる制御をさせないのだ。だから、この車は絶対安心。人が運転するより安全なのだ。これが美濃辺式自動運転装置だ。どうだ、ビックリドッキリしたか?」
「へえ」
僕は一言発した。このくらいの事で驚いてもいられない。
「なんだ、それだけか。もっと驚いてもいいぞ。許可する」
「もしかして、僕を行きに運転させたのも、この自動運転装置のためですか?」
「ああそうさ。このコンピューターは、プログラムに依存しない非ノイマン型学習式のものだから、どうしても走行モデルが必要だったんだ。それで、小林君に運転してもらったのだよ」
つまりは、知らぬ内に僕がこの軽トラの運転教官となっていたわけなのだ。
「まあ、わざわざ富士山まで来た目的が、岩石飴のためじゃなくて、新発明の実験だったんで安心しました」
「何言ってるんだい、実験なんて近所でも出来るだろ。岩石飴を買いにきたんだよ」
ああ、やっぱり……。
こっちの方が驚きだ。
がっくり肩を落とした僕であった。
それから順調に軽トラは走った。
昼間元准教授のチューニングがされているとはいえ、法定制限速度を守った安全運転だ。
そして多分というか、確実にこの車は、美濃辺准教授より運転技術は上であろう。もしかしたら、既に僕よりも巧くなっているかもしれない。
助手席に乗っているだけでも、軽トラの上達ぶりがひしひしと感じられる。車線変更で道を譲られたときなど、ハザードを点滅させて感謝の意を表す余裕っぷりだ。
若葉マークも、もういらないのではないだろうか。
だが、そんな軽トラに突如、背後から煽る車が現れた。
ライトをパッシングさせたり、バンパー同士が擦れる程極端に近づいたり離れたりを繰り返す。
軽トラが安全の為、何度も走行レーンを変えても、その度に後ろに付いてきて、露骨に煽る。
「後ろのばか車、しつこい。とっとと抜いていけばいいのに」
美濃辺准教授が、イライラして口を尖らせた。
「先生、走り屋ってやつですよ。車を改造して、無茶苦茶なスピードでかっ飛ばしていく奴らですよ。行きにも煽られたけど、ここまで酷くなかったなあ」
煽ってくる車は、白い小型のスポーツカー。僕も読んでる某峠の走り屋漫画で有名になった車種で、十数年前の型である。小型で古いといっても改造されていて、この軽トラよりも排気量、馬力共に二倍くらい上であろう。
一般的に言って、向こうの方が速い。かなり速い。
しかし、若葉マークの車を煽るとは、非常識もはなはだしいものだ。余程、若葉ごときがマッハ・ヒルマンのステッカーを貼っているのが気に障ると見える。
「先生、バトルしようと言ってるんですよ。どっちが速いか競走したいんですよ」
「むむ、このオレに挑んでくるとは身の程知らずめ。よし、松平一号、後ろの敵を振りはらってしまえっ!」
美濃辺准教授が命令すると、液晶モニタにその命令が反復し表示する。どうやら、音声認識装置も付いているらしい。
そして、画面に大きく『了解』の文字。
途端に、急激な加速が始まった。
頭がヘッドレストに押さえつけられる。
サイドミラーで確認すると、煽っていた車の大きさがどんどん小さくなっていくのがわかる。あっけに取られているのか、単に付いてこられないのか判らない。
軽トラは、前方を走行する車の列を、すり抜けながらも加速を続ける。
それは自動運転装置の威力なのか、他の車を追い抜かす時の車幅は数センチの広さであった。
横からかかるGで、シートベルトを付けた僕の体は揺さぶられる。
揺れるごとに足元、座席下で、重いものを転がす音がした。何か気になったが、覗いて調べるどころではない。自分の体を支えるだけでも大変である。
やがて、軽トラは走行車の一団から抜けた。前方に走行車はいない。
それでも、軽トラは加速をやめようとしなかった。
通常のスピードメータでは、針がMAX百四十キロに届こうとしている。
「おいおい、そろそろやめやめ。速度落とせ、落とすんだ!」
ようやく美濃辺准教授が、異常な加速に根を上げた。あまりの加速に声が出なかったのかもしれない。
軽トラは走行車線に収まり、法定速度に戻る。
背後に、あの煽っていた車の姿はもう見えない。
「ううう、あと三日はジェットコースターに乗りたくないぞ」
気持ち悪そうに舌べろを出しながら美濃辺准教授が言った。
僕は三日どころか一生乗りたくない。一生分のスリルを味わった気がする。
「ふう、すごかったですね。ところで松平一号って、この軽トラの名前なんですか?」
「そうだ、いかす名前だろ。後の所にサンバって書いてあっただろ。サンバといえば、かの有名な松平健のマツケンサンバ。元々は松平健の舞台公演でしか披露されない幻のサンバだったんだぞ。その一号だから松平一号なのだ」
「……」
この軽トラの車種は、サンバーであってサンバではない。確か、サンバーは英語で鹿の意味だったと思う。
まあいい、そんなわけのわからん理由で変な名前を付けられたこの車に同情を禁じえなかった。
僕は、先ほどの気になった音を確かめるために、座席下を覗き込んだ。
そこには、大根くらいの大きさのボンベが一本、ガムテープで括り付けられていた。。黒く塗られた表面には、N2Oの化学式が印字されている。
「N2O?」
「亜酸化窒素。ナイトロオキシゲン。硝酸アンモニウムを熱分解して得られる物質だ。融点はおよそマイナス九十一度。沸点はマイナス八十八度。よって通常では気体状態にある。人体に対し毒性は無く、主な用途としては、医療目的、ロケット燃料の助燃剤として用いられる」
美濃辺准教授が、ボンベの中身に付いて機械的に淡々と語った。
「そんなものが、何で車内に転がってるんですかあ?」
「何でって、走行に使うからに決まってるじゃないか。この亜酸化窒素はだな、約五百度で酸素と窒素に分解する性質があるのだよ。このガスを高温のエンジン内に送り込むと、内部で分解され、通常の二倍もの酸素を発生させて、ガソリンの爆発を助けるのだよ。そのためエンジンの馬力は、通常の二から三割増しとなる。さっきこの松平一号の見せた爆発的な加速は、この亜酸化窒素を使ったものだよ。座席下のタンクは、カーゴの中のシステムの補助タンクさ。実は後に入りきらなかったんで、そこに放り込んどいたんだ」
まさか、この車にそんな隠し玉が積まれているとは。マッハ・ヒルマンのチューニング、侮りがたし、である。
それから松平一号は、途中サービスエリアに寄り、休みを取った。
僕がトイレの後、ペットボトルのお茶を買って松平一号に戻ってみると、その周りに人垣が出来ていた。
ざわざわと騒がしい。
「これって、本物かよ」
「まさかあ、このステッカー、フェイクだろ。いくらなんでも軽トラだぜ」
「いや、このマフラー見てみろ。この曲げの癖は、ヒルマンのものだ。一度ショップで見たことがある。俺には判る」
「でもなあ、この大口開けて寝ているドライバー見てみろよ」
「不細工だなあ……。こんなのがヒルマンオーナーなのかよ」
どうやら走り屋たちは、松平一号の背後のマッハ・ヒルマンのステッカーを見付け、連絡を取り合って集まってきたみたいである。それぞれが勝手なことを言い合っている。しかし美濃辺准教授の顔への評価には大変同意する。
「すいません、入りますんでどいてください……」
僕は申し訳無さそうにその人垣の間を縫って、助手席に入り込んだ。走り屋たちに訝しげな目で見られていることを感じた。
「せんせい、急いで出発しますよ」
ドアを閉めると、運転席で寝ている美濃辺准教授に声を掛ける。
「おお、待っている間に寝てしまったようだ」美濃辺准教授はまだ眠そうに目をこする。「しかし周りを囲むこいつらは何だね?」
「この人たちが、さっき僕たちを煽っていた走り屋さんたちの仲間ですよ」
「へえ、こいつらがさっきのねえ。身の程知らずか」
エンジンを掛けると、走り屋たちが感嘆の声を上げた。エンジン音が普通のチューニングではないと悟ったのであろう。
一発のエンジン音だけで、走り屋たちは「松平一号」の素性を知ったのだ。
クラクションを鳴らすと、正面の人垣が割れた。走り屋たちは一様に驚愕と戸惑いの表情を浮かべている。松平一号はゆっくりと動き出した。
しかし、発進するまで、走り屋たちにずっと見られていて恥ずかしかった。彼らは、僕には興味がないと思うが、それでも恥ずかしかった。
「あらら、ガソリンが少ないよ。どうしよう、小林君」
燃料計の針は、かなり空に近くなっていた。
「それじゃ給油していかないと、サービスエリアの端にガソリンスタンドがあるでしょう。あそこに入ってください」
無事に給油をして、再び高速道路に戻って走り始めた。軽自動車にしては、燃費はいい方ではないようだ。エンジンが高性能であるから仕方がないのだろう。
あれから走り屋たちは隣を走っても、煽ってこなくなった。
しばらく順調なクルージングが続く。
「あっ!」
突然、美濃辺准教授が叫んだ。眉間に皺を寄せかなり深刻そうだ。
「またまたぁ、せんせえ、どうしたんですか?」
「しまった、忘れていたよ……」
つらそうしてに、手にした岩石飴を一欠け齧った。
「それはとても、重要なことなのですか?」
「うむ。肝心の、マリモを、買い忘れてしまった」
「マリモ……ですか」
マリモというと、あの丸い藻類のマリモであろう。天然記念物ゆえ、人工養殖されたものが、どこかのおばちゃんの手で丸められ、お土産として出荷されている、というのをテレビで見たことがある。
「松平一号、戻ってくれまいか」
「なに世迷言を言ってるんですか。もうすぐ首都高ですよ。松平一号、そんな命令なんかきかなくていいぞ」
そう、もう東京都に入っているのだ。
やがて用賀を過ぎ、首都高速に入る。目に見えて交通量が増えてきた。
谷町ジャンクションから入ったのは、都心環状線内回り。通称C1内回りと呼ばれる、一回り十五キロあまりにも及ぶ、都心を丸く囲んだ道路だ。
全面開通したのは、昭和四十二年。基本設計はもう古い。トンネル、高架などで構成される道路は、合流地点が多数有り、道を知らない初心者には走りにくい。
C1は環状線であり、一度料金を支払えば、何周でも通行可能である。そのおかげで、多くの走り屋が集まってくる。
また内回りは、外回りに比べて細かいコーナーが多い、高速で走るにはテクニックが必要な道だ。
まあ、これらは僕が、巷に溢れる走り屋漫画から得た知識である。そんなに間違ってはいないと思う。
高架の上を走って行くと、やがて前方左手にライトアップされた東京タワーが見え始める。芝公園だ。
光の美しさに見とれていたその時、再び松平一号が煽られる。
背後から、激しくパッシング。
バックミラーで確認すると、フロントには三菱のマークの付いている赤いスポーツカー。ランサー・エボリューション、通称ランエボだ。三菱の誇る最速のラリーカーである。
そして、今僕たちの乗っている軽トラの製造会社スバルとは、昔からのライバルである。第二次世界大戦中には、軍用機の採用を巡ってのライバルであった。日本海軍飛行機の多くを主に三菱が、陸軍のものを主に中島飛行機(現富士重工業・スバル)が製作していた。ちなみに、かの『零戦』は三菱製、『隼』は中島製である。
戦後、車作りにおいてもライバル関係が続いていた。世界ラリー選手権がその舞台であった。両会社、何度も上位で順位争いを繰り広げていたのである。年々互いに切磋琢磨しあい、技術を向上させていたのだ。
言わば、煽ってくるランエボは、会社同士の代理戦争を仕掛けてきているのかもしれない。
しかし、三菱の世界ラリー選手権へのフラッグシップモデルとして、ランサー・エボリューションは開発された。対抗するスバルのそれにあたる車は、インプレッサ。軽自動車のトラック、サンバーなどでは勿論無いのだ。
いくら、ライバル会社の車とはいえ、挑戦されることはお門違いなのだ。
ランエボが突如松平一号を追い抜いて、後部を見せつける。大きなリアスポイラーだ。そして、その上、リアウインドウに一枚のステッカー。まがう事なきそれは、
「M・H。マッハ・ヒルマンチューニングのステッカーですよ。先生、いくらなんでも分が悪すぎます。逃げましょう」
ただでさえ、基本性能の差が大き過ぎる。それにも増して、同じマッハ・ヒルマンのチューニングだ。どう転んでも勝ち目が無い。
ここは逃げるが勝ちだろう。というか、逃げてもぜんぜん恥ずかしくないと思う。
「そうだな、あんな加速感はもうこりごりだし、逃げるぞ。松平一号、とりあえず手近な出口で首都高を降りるんだ」
美濃辺准教授の命令に、自動運転装置は反応しなかった。
それどころか、前方のランエボに対しパッシングしているではないか。これは、バトル受けてたつのサインだろう。
松平一号は、やる気だ!
「おいどうした、松平一号!」
美濃辺准教授は、なんとか松平一号のコントロールを、自動運転装置から取り戻そうとするがうまくいかない。音声認識はおろかタッチパネルにも全く反応が無いのである。
「せんせいっ!」
「うーむ。どうやら安全装置が働いているのかも知れないな」
「安全装置ですって。この状況のどこが安全なんですか? 安全どころか、おもいっきり危険ですよ」
「この安全装置はな、人が誤った操作をした、または、するであろう場合に作動するものなのだ。崖に向かって突き進んでいる車があるとする。運転手は、先に道が無いなんて気付いてない。安全装置は、くだんの脳みそで未来の危険を察知し、危険を回避する行動、ブレーキをかけるとか、Uターンするとか、その場に合った最も適当な行動を取るのだ。その時、人の操作を除外するようになっている。どういう訳か、松平一号は今、その除外モードになってるんだよね」
「なってるんだよね、ってその除外モードとやら、取り消せないんですか?」
「え、無理無理。だって、その取り消す操作もまた、人の操作だろ。それをさせないようになってるんだから……」
「それなら、安全になれば、安全装置は自動で切れるはずでしょう。なのに、何故ずっと動いてるんですか?」
「コンピューターが、その辺のプログラムを勝手に書き換えてしまったみたいだ。学習型コンピューターだからなあ。考えもつかぬ事をやりおるわい」
「要は、車任せで、僕たちにはどうしようもないという事ですね」
「そーゆーこと。わっはっは」
笑い事ではない。
美濃辺准教授が作るものは、非凡であり素晴らしいの一言に尽きる。だが、その創造物のどこかしらに何やらの欠陥を抱えている。この自動運転装置もそうだ。機械が人の手を離れて勝手に動くなんて、これじゃあ、昔から懸念されている『電子頭脳の反乱』ではないか。
ランエボがハザードランプを点灯させる。バトルの準備が整ったようだ。
車の群れが途切れ、前方直線のスペースが広く空いている。ランエボは、わざわざ車線を変更し、右隣に並ぶ。意外と義理堅い。
そして申し合わせたかのように、一気に加速。
だが、松平一号は、徐々に引き離されていく。いくら亜酸化窒素を積んでいるとはいえ、元の馬力が違い過ぎる。ランエボは、改造しない状態でも二百八十馬力を誇るスポーツカーだ。
ランエボが松平一号より、車長三台分ほど先行したときである。左曲がりの急なカーブに差し掛かった。
曲がるために速度を落とすランエボ。しかし僕達の松平一号は速度そのまま、それどころか加速しつつカーブに突っ込んでいく。
タイヤの軋む音が聞こえてくる。スリップ限界なのだろう。
遠心力で僕の体が、いやおうなく運転席の美濃辺准教授に触れる。
カーブを抜ける頃、松平一号とランエボとの位置関係は逆転していた。コーナリング性能は、松平一号のほうが一枚上なのだ。これも危険限界いっぱいまで挑戦できるくだんの脳みその力だろう。
C1内回りはタイトなコーナーが多かった。直線で引き離され、コーナーで追いつく繰り返しだった。いつの間にか勝負は一進一退。泥沼に陥っていた。
「ううっ、小林くん……」
美濃辺准教授が懇願するような目でこちらを見てきた。サングラスは、ずれて落ちかかっている。冷や汗を流していて、その顔色が土気色だった。
「どうしたんですか、気持ち悪いんですか?」
僕も車内のバーを掴んで、必死に体を支えながら聞く。
「いや、気持ち悪いことは気持ち悪いんだが……。したいんだよ」
「したいって、吐きたいんですか?」
「いや、下の方」
「下の方ってまさか、おしっ……」
「小林く~ん。さっきまでペットボトルのお茶飲んでたよね。その空いたペットボトルあるかな?」
「ありますけど、五百ミリのですよ」
「ああそれでいい。なんとか、五百ミリで抑えるよう、努力するから」
量ばかりは努力できるものではないと思う。
「じゃあ、これ。お願いだから、向こう向いてやって下さいよ」
激しい振動の中、僕は空のボトルをいやいやながら手渡した。
「ありがとう、小林君」
珍しい美濃辺准教授のお礼の言葉だが、こんなことで言われても少しも嬉しくなかった。
チャックを下ろす音がした。
「ふううう……」
美濃辺准教授は、下半身をもぞもぞさせる。と、みるみる爽やかな表情に変わっていった。例えるなら、天にも昇るような、または地獄に仏って感じだ。
「あっ……」
「どうしたんですか?」
僕の問いに、美濃辺准教授は後頭部を掻く。そして、珍しく気まずそうに答えた。
「ちょっと、溢れちゃった。ごめんね」
「うわっ、汚い!」
その時、急激なブレーキ。
前方二車線に、二台のトラックが並んで走っていたのだ。
僕たちは前のめりになる。シートベルトが肩に食い込んだ。
「うわ、こぼれるっ」
「早く、ふたしてください。お願いですっ!」
それは、僕の心から懇願の叫びだった。
またも座席下でゴロンと音がした。だが、今はそれ所ではない。
前方二台のトラックの間がわずかに開いた。その隙間に潜り込むように、松平一号は突入する。
すぐ横から二つのトラックのエンジン音が聞こえる。
両方のウインドウガラス越しに、トラックの側面が見えた。まるでそそり立つ岸壁のようだ。両側から押し潰される錯覚に陥った。
通り抜けると再び加速。いつの間にか、コンソール内のメーターの針は、いっぱい百四十キロを振り切ったままになっていた。慣れとは恐ろしい。後付のデジタル速度計は、百七十キロを表示している。狂気のスピードだ。
このスピードだと、軽トラが走っているというよりも、前方の一般車両がこちらに向かって飛んでくるように見える。それらを避けながら走っている感覚である。相対速度は百キロ超。バッティングセンターでのボールスピードとほぼ同じだ。果たして、ピッチングマシンから矢継ぎばやに放たれる同速度のボールを認識し、かつ避けることが出来るだろうか。
サイドミラーに目を向けると、ぴったりと背後にくっ付いてくるあのランエボが映っている。
それから緩やかな低速コーナーが続く。低速といってもそれを百キロを超えるスピードで曲がっていくのだ。
松平一号の挙動が変化してきたのは、何度目のカーブを曲がった時からだろうか。進行方向と松平一号の短い鼻先の向きが、明らかに異なり始めてきた。
体にかかる遠心力が、斜め前のあらぬ方向より生じる。それにより、僕の内臓は揺さぶられ。冷や汗は吹き出る。
松平一号は、ドリフトしていた。
ドリフトとは、タイヤを空転させながらも車の向きを変える技術である。速度は多少落ちてしまうが、エンジンの回転数を落とすことなく曲がることが出来る。エンジンに力が無く、回転の高さにより速度を補っている松平一号にとって大切な技術である。
そうしている内に、背後のランエボとの距離が少しずつ離れてきた。
「おおおおおお……!」
ドリフトの度、僕と美濃辺准教授の叫び声が、そしてタイヤの軋む甲高い鳴き声が首都高環状線に響く。
曲がる度に、車体がガードレールとぶつかりそうになるほど近くまで接近するのだ。
軽トラは、前部が張り出していないため、ボンネットのある普通乗用車よりもガードレールに近づくことが出来る。だが、それは運転席の者にとっては、恐怖でもあった。
普通乗用車の感覚では、ガードレールに激突するスピードとタイミングなのだ。
一度など、カーブからの立ち上がり際、後部バンパーを軽く擦った。思わぬ振動に、心臓が縮み上がる。
道路は、坂を下りトンネルに入る。そこを抜けると、両側に壁の迫る側溝のような道となる。まるで干上がった川底を走っているみたいだ。
「こ、こここ小林君」
またも美濃辺准教授の懇願する顔だ。今度の顔色は青白い。
「ど、どうしたのですか……」
僕も美濃辺准教授の心配をしている暇など無かった。
「気持ち悪い、吐きそう……」
「今度は上ですか。待ってください、今サービスエリアで貰った紙袋出しますから」
「も、もう、だ、駄目だ」
美濃辺准教授は、急いで窓を開くと、大きな顔を外に出した。そして、ガマガエルが轢き潰された様な音と共に、嘔吐物を空中に撒き散らしていった。
そして、その美濃辺准教授の体内から排出された物体が、不運なランエボのフロントガラスに次々に付着していくのが見えた。怒るだろうなあ、やっぱし。
美濃辺准教授は、胸から上を窓の外に乗り出すようにして出し、ぐったりしている。
「うわっ、先生、危ない」
僕は美濃辺准教授の派手なアロハを引っ張って、車内に引きずり込む。
次の瞬間、センターラインを仕切るように立っっている陸橋の橋脚が、松平一号の横を通り過ぎていった。まさに間一髪、准教授のでかい頭がぶつかる寸前であった。
道の真ん中に建造物があるなんて、やはり首都高の構造は古いせいなのだろう。
「はあ、おかげでなんとか気分良くなったぞ……」
口の周りを手の甲でぬぐう。すっぱい香りが車内に漂う。
美濃辺准教授は、気分晴れ晴れ。僕はどんより曇り空だ。
ランエボは、ワイパーを激しく動かしながら追い上げてきた。絶対に怒っている。ランエボ全体から、怒りのオーラが立ち上っているのが見える。
そして、江戸橋ジャンクション。
左に大きく曲がるカーブが見えてきた。
現在、松平一号は走行車線、ランエボは追越車線。位置的には、ランエボの鼻先は松平一号の後部にぴったりとくっついている。二台とも、速度を落とさない。双方、ここで勝負をつける気だ。
カーブに突入。
二台揃ってのドリフト。鋭いカーブを並んで滑っていく車体。
そこで突然、松平一号は急ブレーキを掛ける。
ランエボが車線変更、走行車線へクロスするように前に出た。僕達の前を真っ赤なテールランプの残像が横に長く伸びていく。
ランエボの勝ちか。
いや、二台の前には渋滞の車の列があった。死角となって気付かなかったのだ。
ランエボのブレーキランプが激しく点灯する。
減速後、先に姿勢を立て直した松平一号が、一挙に加速した。
そろりと動いた車の列に、松平一号の小さな車体が飛び込んだ。そして、その車体を生かして、器用に車間を縫って進んでいく。
ランエボは渋滞した車の壁によって遮られてしまったようだ。それぞれが勝手に動く渋滞の群に、高速で突っ込んで行くのは、自殺するに等しい行為だった。
ランエボとの距離が、どんどん開いていく。引きちぎっていった。
どうやら、松平一号はライバル会社同士のバトルに勝ったようだ。
姿勢制御の早さ、車体の大きさ、そして何よりくだんの脳みそのもたらす危険予知の能力が勝負の明暗を分けた。
渋滞を過ぎる。松平一号の速度は法廷速度にまで落ち、制動も静かなものとなった。
僕は胸を撫で下ろし、ほっと一息ついた。横を向くと、美濃辺准教授と顔を見合わせてしまった。准教授も同じくほっとしているようだった。
「ぐふふふふふ……」
「ふ、ふふふ、は、はっはっははは……」
二人の口から、自然と笑い声が漏れ始めた。
安心感からか、とても楽しい、愉快だ。言われようも無い高揚感が、心の底から湧き出してくる。
げらげらげら……
笑い声も次第に大きくなる。
笑いすぎて、涙が止まらない。口を閉じることが出来なくて、涎が垂れる。
おかしい、おかしすぎる。バトルに勝つってのは、こんなにおかしいことだったのか。
あまりのことに腹が痛い。笑って息も吸えない。
「おかしい、げらげら、おかしいぞ」
美濃辺准教授の顔も涙と涎でべっとりと濡れている。
「はい、げらげら、おかしいです。おかしいなあ、何でこんなにおかしいんだろ」
見れば見るほど、美濃辺准教授の顔はおかしい、松平一号という名前もおかしい、何もかもがおかしい。おかしいことだらけだ。
車内には甘い香りが漂っている。砂糖菓子のような、舌のとろける匂いだ。
「せんせい、あまーい香りが、げらげら」
「そ、そうか、げらげら、小林君、げらげら、ボンベだ。椅子の下のボンベ、栓が開いてしまったんだ」
ボンベ? 。耳を凝らすと確かに、シューシューと気体の漏れる音がする。おかしい音だ。ボンベから気体が漏れている。バトルの振動で、バルブが緩んでしまったのだろう。ボンベの中の気体は、亜酸化窒素。どこかで聞いたことがある。他に別名があったはずだ。そうだ、思い出した、その別名は、
「げらげら、笑気ガス!」
歯医者で麻酔として使われているガスだ。まさか、エンジンの助燃剤として使われているとは、愉快だ。
「早く、げらげら、早く窓を開けるんだ」
腹を抱えながら、窓を開き始める。何とか半分ほど開きかけた時、パチパチとまた背後からパッシング。
こんな時に新たなる敵の出現だ。今度の敵は、日産GT-Rだ。日本で、いや、世界でも一番速い市販車といっても過言ではない車だ。十分な改造を施すと、一千馬力を超える怪物車である。
ランエボとのバトルを観戦し、自らも挑みに来たに違いない。
勿論、松平一号は挑戦を受ける気だ。
だが、もう怖くは無い。激しい高揚感と甘い興奮が、まだ僕の体を包んでいる。美濃辺准教授も同様だろう。
加速と揺さぶられる遠心力、水銀灯の白い光。赤いテールランプに、タイヤの軋む音。重低音のエキゾーストノートに亜酸化窒素の甘い香り。笑い声。全てが混じって、僕の体と一つになっていく。
心地良く、何事もどうでも良くなってきた。意識が遠くなってきた。
追越車線から、一気に松平一号を抜きにかかるスカイライン。その特徴的な二重丸のテールランプ。
それが、急激な眠りに落ちていった僕が、最後に見た光景だった。
だから、GT-Rと松平一号とのバトルの結果を僕は知らない。
僕が目を覚ましたとき、松平一号は大学の正門の前に止まっていた。走行距離計を見た所、僕たちが眠ってしまってから更に五十キロ以上は走ったみたいだ。首都高から大学までの距離を差し引いても、あれからC1を三周は回ったのだろう。
それで松平一号は満足したのだろうか、学校に戻ってきたようだ。
松平一号は、エンジンを止め、闇夜の中、バトルに疲れた体を休めている。
辺りは静かだ。真夜中だから交通量も無い。
ちょうど、美濃辺准教授も運転席で目を覚ましたようだ。
僕たちは、疲れて重い体を引きずるように、黙って降車する。
朝とは違って、美濃辺准教授の服装もよろよろになっている。アロハの前のボタンは皆取れて、狸腹が顔を覗かせている。いつの換えたのか、サングラスもいつもの汚れた銀縁眼鏡に変わっていた。
「美濃辺せんせえ……」
次の言葉に逡巡した。お疲れ様と言って良いのか、お気の毒様と言った方が良いのか。
「小林君、今何時だね?」
「午前、三時ですけど……」
「おお、もうそんな時間なのか……。で、電車はまだ動いてないだろう。どうやって帰るのかね?」
「今から近所に下宿している友達の所に行って、泊まらせてもらおうかと思ってますけど」
僕の答えに、美濃辺准教授は松平一号の車体を軽く叩いて。
「どうだい、松平一号で君の家まで送っていってやろう」
僕はそのありがたい申し出を、こわばった表情で丁重にお断りした。
次の日は文字通りの五月晴れ。午後の柔らかい日差しに、まどろんでしまう。午睡したいのはやまやまだが、そうはいかない。欠伸を噛みころしながら、僕は松平一号を監視していた。
美濃辺研究室の横。ちょっとした空き地で、松平一号は切り返しの実験をさせられていた。無論、昨日の暴走の罰も込めてある。
松平一号は、ハンドルを切る角度を小さくしながら何度も方向転換している。それによって、実際どれだけ少ない面積で向きが変われるかデータを取っている。
僕は、松平一号がサボらないように見張る係だ。
当の罰を与えた本人は、研究室の中で高いびき。ここまで聞こえてきそうなうるささだ。
なんだか、僕一人が貧乏くじを引いているような気がする。
パイプ椅子の上で、僕は大きく伸びをして、眠気を振り払おうとした。
と、そこへ一台の車が爆音と共に走りこんできた。そして、松平一号の前で急停車。松平一号も停止する。
その車は、赤のランサー・エボリューション。忘れようもない、昨晩美濃辺准教授が粗相をおかしたランエボだ。
ランエボから降りてきた人物を見てまた驚いた。
「栗本教授?」
すらりとした足を覗かせ、威風堂々と空き地に降り立った。
「まさかと思ったけど、やっぱりあんたたちだったのね。よくも昨晩汚いものを、ワタシのエボⅣにぶちまけてくれたわね」
あのランサーエボリューションは四代目だったのか。それにしても、その運転手が栗本教授だったとは。確かにあの勝気な運転は、栗本教授っぽかったと言える。
栗本教授は、松平一号を観察しながらぐるりと一周した。
「ふうん、スバルのサンバーね。国産じゃ珍しいRR車。ポルシェと同じく車体後部にエンジンを積む駆動方式。スーパーチャージャー、ナイトロシステム完備ね。たぶんエンジンの過給圧も大幅に増幅されているはずね。さすが、昼間先生のチューニングね。だけど、これだったらワタシのエボⅣの方が戦闘力が上」
栗本教授は僕の前まで歩いてきた。そして、僕の鼻先に指を突きつける。
「運転してたのは、あなたでしょ。天才のワタシに勝つなんて、あなた只者ではないわね。みのべえの腰巾着」
「誰が、腰巾着ですか。第一、昨日運転席にいたのは、僕ではありません。美濃辺准教授です」
「えっ、嘘っ、みのべえが運転していたの?」
栗本教授が、素っ頓狂な声を上げる。確かに僕は嘘を付いてはいない。運転してはいなかったが、運転席には座っていたのだから。
「みのべぇが。へえ、あのみのべえがねえ……」
意外そうな顔をしてから、栗本教授は、美しい唇に含みのある笑みを浮かべた。
「いいわ、今日のところは、この天才のワタシが引き下がってあげる。でもこの次、また首都高であったときは昨日のようにはいかないと、みのべえに伝えときなさい。天才は忘れた頃にやってくるってね」
華麗にランエボのドアを開けると、颯爽と乗り込んだ。
「はあ、伝えときます……」
僕の声は、急発進したランエボのエキゾーストノートにかき消されてしまった。
あとに残るは、排気ガスと巻き上げられた砂埃、そして微かな香水の香り。
眠気が吹っ飛んでしまった。
太陽は相変わらず明るく、草は緑に萌える。隣の牧場からは牛の鳴き声。
「さあ、松平一号、実験の続きだ」
僕の命令に、松平一号がエンジンを一度甲高く吹かすと、ゆるゆると動き出した。
「おーい小林くん、ちょっと来てくれないか!」
プレハブの中から、美濃辺准教授の僕を呼ぶ声が聞こえた。どうやら起きたようだ。
「はーい、今行きます」
僕は、研究室に向かって駆け出した。
しかし今度は、何を始めるのやら。美濃辺准教授。
後日分かったことであるが、美濃辺准教授は、首都高のどこかでオービス(無人速度取り締まり機)に写真を撮られていたらしい。その結果、スピード違反により九十日の免許停止になってしまったことを告げておこう。
教訓 暴走行為は迷惑行為ですので、やめましょう。
終劇