01 満腹の孤島
とてつもなく漂うこだわりのソース。いい感じに鼻をくすぐる濃厚な肉。
ここは、この場所は素晴らしい。なんということだろう。この世界は、この島は、美味しいものがたくさんある!
「(ぐぅぅぅ~~~)」
たくさんの匂いを嗅いでいる後に急に俺の腹からなんとも情けない音が鳴り響いた。
「おおっと、あまりのいい香りに朝、昼、夜に必ず一度は腹の鳴る俺がまったく無縁の時間帯にお腹を鳴らしてしまったぞ!」
このような匂いを嗅いでいるからだろうか、俺の腹時計が狂っているのか、もう一度腹が音を出したくてうずうずしているのが腹を触ってみてわかる。
「おお、そんなにお腹がすいているのか? でも今はまだ午後4時すぎだぞ? 晩飯にしては最低二時間早いところだ」
お腹を摩って我が子に言い聞かせるように語る俺。
そんな俺に向かって、腹は嫌がるように――
ぐぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~……………………
大きな音を鳴らし始めた。
そこで俺は、腹から手を離して怪訝な顔をする。
「…………」
おい、なんでこんなに早く腹が鳴るんだよ……
「……はい、これで四回。後一回でも鳴らせばお前処罰ね」
突然、俺の脇から現れた少年にそう言われる。
「え、ちょっと! 今のは腹の音ではなくて……その、その……俺のゲップなんだよぉ!」
少年の視線にビクつきながら、思いついた言い訳をする俺。それに対して少年は表情を曇らせ一言発する。
「そうかゲップか。それが本当なら取り消すけど……嘘だったら――」
「はいごめんなさい嘘つきましたボクが悪いんでしゅううううううううううううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~!」
少年が最後まで言い切る前に俺はスライディング土下座を少年の前で決め込む。
ちなみに噛んでしまったのは故意ではない。ただ少年にビビっただけだ。
「……ふぅ~ん、じゃあ四回だね。今日の23時59分までにあと一度でもお腹を鳴らしたら――」
「…………鳴らしたら?」
「……わかってるくせに」
少年は小悪魔的な笑みを浮かべてそう言い、身を翻して後ろを向いて俺から姿を消した。
「…………」
すまない、悪いが前言撤回させてもらおう。
確かにこの島には美しいものがたくさんある。でも……でもなあ?
「この島の制度は何一つ美しくなあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃ!」
膝をつきながら高らかに叫ぶ。
そんな大声をかき消すように、フライパンを鳴らして俺の声をかき消す奴がいるから更に腹が立ってきた。いや、腹が減ってきた。
「や、やべぇ……流石になにか食べねえとまた腹が鳴っちまう」
俺は立ち上がり、急いで近くの焼きそば店で300円の焼きそばを購入して食を済ました。
《 残金 1万5000円 》
「はぁ…………なんだって俺はこんな学校に来てしまったんだ」
ため息をつきながら毎度のようにそう思う。
そう、ここは美しい島なんてところではない。確かにたくさんの食べ物があり、食に苦労することがまずない。
しかし、ここでは……そんな食の多さから生まれた制度
――運命の腹時計――
一日で五回腹を鳴らすと即処罰というとんでもない制度が存在していたのだ。