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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
白の王
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 冷たい手が、額にのせられていた。

 目が覚めて、現状に困惑する。

「何……」

 私が身じろぎすると同時に、傍らのぬくもりも身動きをした。

「へい、か」

 ど、と心臓がなる。まわされる腕の力が強くなり、悲鳴を上げそうになりながらその場でもがいた。

 何が。なぜ。私は、陛下に抱きすくめられ二人寝台に横たわっているのか。

 ぬくもりは暖かい。抱きしめられているこの状況は恥ずかしいけれど安心するし、いやだと言えば嘘になる。

 けれど、こんなのは、勘違いだ。

 状況に、流されて。特に理由も無く、錯覚しているだけだ。

「……『ルゥ』」

 ほら。

 呼ばれた瞬間真っ白になった頭に、泣きそうになりながらその腕から抜け出すべくもがいた。

 眠りと目覚めの狭間にいる陛下は、そんな中でも言葉を紡ぐ。

「……毒を」

 不穏な言葉に、動きを止めた。

「俺が、口にするはずの菓子を、ルゥ、が」

「へい、か」

「いきて、いるなら」


 会いにきてくれれば、いいのに。


 深く、深く、陛下は眠る。

 私に、とんでもない事実を漏らして。


 十年前に出会った『ルゥ』。

 陛下にここまで思われていて、想い人がいたと言う『ルゥ』。


 なんてことだろう。

 彼女は、陛下の前で、

 毒を、口にしてしまったのだ。


 恋などでは、なかった。実らなかった初恋をこじらせた、どころではなかったのだ。

 陛下のこれは、精神的外傷トラウマだ。

 憧れた女性。年上の、きっと優しかった。世界を見る目の違う、異なる価値観をもった女性。その人を死なせてしまった、強い後悔だ。

 外はまだ暗く、暁は遠い。

 失ってしまった女性に、よく似た私を見て、陛下は何を思ったのだろう。

「少しは、失う事を拒んだから籠に入れたのだと、思っても良いですか」

 厳罰に処さねばならない、例外は許されないこの厳戒態勢の状況下。

 唯一救う方法が、籠の中だったのなら。


 さんざん『ルゥ』として扱われておいて、まだそんな事を、思える私も、どうかしている。


 手を伸ばして、陛下の額をそっと撫でる。

 かつて、この人は『ルゥ』が毒を口にして苦しむ様を、間近で見たのだろうか。それを、同じ季節に夢に見るのだと。

 その出来事は、幼かったこの人に、いったいどんな傷を残したのだろう。


 人の気配に、はっと顔を上げる。物音もさせず、入ってきた兵と目があった。兵は私に低い声で問いかける。

「あんたいったい、どこの手のものだ」

 その問いは、敵対者へのものではなく、まるで、同業者に問うかのように気安げで。思わず表情を強ばらせた時、小さな舌打ちが聞こえた。

「だめっ」

 何も考えられなかった。悲鳴まじりに叫んだあとは、陛下に多い被さる形で兵に背を向け、焼け付く背中の痛みに更なる絶叫が漏れる。

「ルゥ!」

 目覚めたばかりだというのに、陛下は傍らの剣を手に応戦した。なんだ、武器、あったんですね……。

 知っていた所で使えもしないくせに、そんな事を思ってしまう。

「ルゥ! 待っていろ、すぐに治癒者を。誰か! いないのか!」

 陛下の声が遠ざかる。それとも、私の意識だろうか。兵は、倒してしまったのだろうか。陛下の敵を、知るために必要だったかもしれないのに。

 背中が熱い。遠のく体温に恐怖を抱くけれど、それでも、どこかに暗い喜びを抱く私もいた。

 これで、私も。


 陛下の、記憶に残れるだろうか。





 そうして、私は。

 私は。


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