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女官の案内と兵の厳重な護衛によって、案内された部屋の前に立つ。女官は早々に立ち去り、数人の兵が私の動きを監視していた。
振り返る事さえ許されない威圧感のもと、私は、扉に手をかけた。
室内は暗く、小さな灯りのもと、長椅子にもたれて陛下がグラスを傾けている。
「……リオ」
「ルゥ」
小さく呼びかけると、ようこそ、と陛下がグラスを振る。手招きに従って近くによると、強い酒気に眉をしかめた。
「……お酒ですか」
「果実酒だ。今年のは出来がいい」
煽ったかと思えばグラスはからになり、陛下自身でグラスに酒をついでいた。
「……近いんだ」
呻くように、陛下が言った。
問う事を求められている気がして、求められるままに問いかけた。
「何がですか」
ルゥが、いなくなった日が。
心臓が、冷たくひび割れる。
腕をひかれたから、となりに腰を降ろした。抱き寄せられるようにして、肩に陛下の頭がのったから、その頭をそっと撫でた。
「毎年じゃないが、調子が悪いと、夢に出る」
「ルゥ」
甘く、甘く、囁かれる。
「……ルゥ」
優しい声で、求めるようにして、抱きしめられて。髪に貰う口づけに、『ルゥ』はどれだけ愛されているのか思い知る。
「どこに」
迷子のように、陛下は呟く。弱っていて、お酒をのんで、きっと、『ルゥ』がいなくなったあの頃に、戻ってしまっている。
どこに、行ったのよ。
この人を、おいて、どこに。
こんなにも、あなたを求めるこの人を。こんな場所に置き去りにして、どこに。
泣きたい、気分になる。
陛下は、ルゥに会ってどうしたいのだろう。十年前に会った人。きっと、もう、大人の女性になっている。想い人と結ばれたかもしれない。
衝動的に、陛下の手からグラスを奪った。そのまま飲んだ事もないお酒をあおる。
「ル、」
驚く陛下に、すこしだけすっとしながら、焼ける喉にむせ込んだ。ぐるぐると目が回る。
でてこい、と口走ったような気がする。
陛下をこんな風にして、いなくなるなんて。
許さない。
などと。途中で、遮るように、塞がれて。
息を奪いとられたような気がしたけれど。
記憶はそこで暗転し、何が起こったか、私には分からなかった。




