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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
白の王
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 幼かった陛下は、ルゥを好きになった。

 少年だった頃の金髪の男も、ルゥが好きだった。


 けれど、そのルゥには、別の想い人がいたのだという。

 そうして、ルゥは、彼らの前から姿を消したのだ。


 ……想い人と、結ばれたのかしら。

 聞いた話を繰り返し思い返す。


 あの話をして以来、陛下の詰める距離が近くなったように思う。不意に抱き寄せて、抱きしめて、髪に唇を落とす。

 可哀想な、人。

 これは、同情だろうか。

 私は陛下を、哀れんで、いるのだろうか。


 そうして、ひと月、ふた月と、夢のように現実感のないまま、日々が過ぎて行く。

「へい、か」

 いつかと同じ中庭の、池の中の東屋で、私は他愛無い陛下の言葉に耳を傾けていた。

 話しながら不意に伸びてくる手に瞬きながら、その行方を見守っていると、突然目尻に口づけられ、思わずそれを振りほどいた。

「何を」

「別に」

 いつもの人の悪そうな笑みだった。本当にいつも通り。けれど、こんな事をされた覚えはない。

 手で触れるのとはわけが違う。髪に落とされるものともわけが違う。

 両手を繋いだと思えば、しっかりと拘束されている。

「へ、い」

「リオ」

「り、お」

「なに? ルゥ」

 こちらのセリフだ。

「戯れですか」

「あなたは俺を拒んではならないはずだ」

 耳元でそっと囁かれ、押しのけようとした腕から力が抜ける。そんなことを、今、言うの。


 ルゥの代わりに、私を求めるとでも、言うの。

 私、は。ルゥ、じゃ。


「陛下」

 故意に水を差すかのような声音を発し、金髪の男が東屋の入り口に立っていた。

「そろそろ、執務が」

「わかった」

 陛下はあっさりと私を手放し、私の頭を撫でたかと思えば、そのまま城内へ戻って行った。振り返りもせず。

 金髪の男が、振り返って陛下の背中を見送っている。私は戸惑うままに、東屋に座っていた。

「……戯れですよ」

「……わかって、いますよ」

 とっくに。勘違いしている事は、分かっている。勘違いしてしまっている事も、ばれている。

「……苦しい、です」

「では、死にますか」

 なんてことない風に聞いてくる。

 椅子に座り顔を覆う私の側に立って、覗き込むようにして。にこやかに。

 晴れ晴れしいほどの、笑顔で。

「私としては、あなたの存在がルゥ様への冒涜ですから」

 私は、自分の少し伸びた髪に、そっと手を伸ばす。

 首をくすぐるその伸びた髪のおかげか、陛下は、首筋を撫でる事はなくなった。その代わりのように、戯れが度を超しつつあるような気もした。

「死にたく、ないです」

「そうでしょうね」

 できる事なら、うちに帰りたい。四大貴族の端くれだと、かつてであれば言えたのかもしれない。でも、うちは没落しかけているのだ。その末裔といえど、不法侵入で死刑だなんて、家が潰れかねない。

 ばれているなら、仕方ない。でも、私から言える事は、何もない。仮にばれているなら、この二ヶ月で家に話がいっているはずだ。家に、私を助ける意思があるなら、動きがあるはずだ。

 なにもないということは、そういう、こと。


 死にたくない。家の助けも望めない。

 でも、もう、『ルゥ』で居続けるのは……。


「こんなの、続けた所で誰のためにもならないですよ……」

「そうでしょうね」

 先ほどと、まったく同じ調子で、金髪の男は笑った。

 ばさりと何かを広げたかと思えば、温かな外套が肩にかけられる。思わず顔を上げ、まじまじと男の顔を見た。

「それでも、あなたに与えられたのは、『ルゥ』であり続けるか、死ぬか、その、二択です」

 時期が、悪かったんですよ。と彼は言う。諦めてください、と、私よりも、ずっと、諦めたように。

「今、陛下が最も狙われやすい危険な所へ、あなたがきたのです」

 白い陛下。髪も、瞳も、顔色も。笑っているのに、死相が消えない、あの人。そうして、過去の亡霊を求め続ける、可哀想な人。

「弱っているのが、分かるでしょう。厳戒態勢の中へ、あなたはやってきた」

 陛下が、私に会いに来れるのは、どうしてか。

 執務も、ままならないほどなのであれば?

「即断罪の檻の中に、飛び込んできたのはあなたです。例外はありません。陛下の物になったからこそあなたが今ここにいます。用が済めば、処分するだけですよ」


 あぁ、私、きっと、陛下に同情しているのだ。

 王様という地位にありながら、そんな境遇の彼を、みじかに感じている。

 叶わない恋に傷ついているあの人を見て、きっと、安心している。


「あなたが現れ、どこの手のものかと、陛下を狙う周囲が牽制し合っていたからこその、この二ヶ月でした」

 その均衡が、そろそろ崩れるのだと言う。

「陛下とあなた、二人で行動しないでくださいね。必ず兵を、連れてください」

 金髪の男の目は真剣だった。にこやかな表情はそのままに。陛下のみの安全だけでなく、まるで、私の身さえも案じているかのように。

 きっと、この人も、錯覚している。

 陛下が私を『ルゥ』と呼ぶから、だから。

 この人も、そんな風に思えてきているのだろう。


 ここは、なんて小さな、物悲しい世界だろう。




 金髪の男に、そう忠告された矢先。

 その日の夜、私は、陛下に呼び出された。


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