表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の鳥籠  作者: 真城 朱音
白の王
4/35

 再会は、想像していたよりもずっと早く、私が鳥かごで眠った翌朝だった。

「おはよう、『ルゥ』」

 柔らかな声で目覚めを促され、私はぼんやりと顔を上げる。寝起きの、寝間着姿で、身内でもない男と対面以下略だった。

「おはよう、ございます。陛下」

 白い少年は、にっこりと金の鳥かごの前にしゃがみ込んでいた。正確には、私の眠るすぐ側。格子を挟んだ傍らに。

「顔を洗いたかったらそこで。髪を結うためのものは引き出しに」

 そんなもの、昨夜はあっただろうか。薄暗かったために覚えていない。

「そんなに、死にたくなかったか?」

 背を向け、顔を洗った途端、そんな問いかけを向けられた。

「こんなのは、ごっこ遊びだ」

 少しだけ、『ルゥ』のことを教えてあげよう、と彼は笑った。


 金の格子を挟んで、私たちは床に座り向き合っていた。

「『ルゥ』とは、十年前に、出会ったんだ」

 じゅうねんまえ、私が口の中で唱えるのを聞こえたように、彼は頷く。

「俺はまだほんの子どもでね。世の中を知らなかった。王族の宿命だと言い聞かせて、まわりは俺に世界を見せようとしなかった」

 そこにやってきたのが、『ルゥ』だ。

「世界を見せてくれた。教えてくれた。諌めてくれた。大切な事は、全部『ルゥ』から教わった。でも、」

 ふいに陛下は口をつぐんだ。続けようとした言葉をかみしめるようにして喉の奥に追いやり、緩く首を振る。

「ルゥは、俺の前から姿を消した」

 それが、十年前だ。出会ったのも、別れたのも、十年前。別に、その間中焦がれ続けたわけじゃない。ただ、今、その『ルゥ』にそっくりのあなたが俺の前に現れた。

「運が悪かっただけだ。今でなければ、こんな風に籠にいられる事はなかった」

「籠にいられるのでなければ、私は死んでいます」

 それもそうか、と陛下は笑った。

 白い髪、青白い肌。笑っているのに、不健康そうな影が消えない。それはまるで、死相にさえも見えるようで。

 弱って、いるのだろうか。

 心も、身体も。

 だから、十年前に出会った人物を思い出すきっかけに。ボロボロの心を癒すために、私は望まれた。

「分かっている。あなたは『ルゥ』ではない。これはごっこ遊びでままごとで、偽りだ」

 格子の隙間から手を伸ばされた。

 肩口で切りそろえられた髪。むき出しの首筋を撫でるようにして、陛下は目を細める。

「あなたがルゥなら、髪はもっと長く、その首には、俺が与えた首飾りが下がっているはずだ」

 私は身じろぎする事もできず、ただ陛下を見つめていた。何が、十年焦がれ続けていたわけではない、だ。

 立派に初恋を逃してこじらせた、しょうがない男の子だ。

 可哀想な、ただの王子様だ。

 そんな、熱の灯りそうな目で、私の中に。


 この人は、私の中に、『ルゥ』を見つめている。


「陛下」

 思わず口をついで出た言葉に、陛下は私の頬に手を添える。

「リオ、と」


 『リオ』も、『ルゥ』も、


 俺たちだけの名だ。


 そう言って、彼は嬉しそうに笑った。




 陛下が『ルゥ』とは別人として私を扱ったのは、その時だけだった。

 政務があると立ち去り、次に陛下が現れた夜には、もう、私は『ルゥ』になっていた。



 陛下は必ず朝と夜に現れて、朝は私を起こしてすぐにいなくなり、夜は他愛のない事を話してはすぐに帰って行く。時間にしてどれくらいだろうか。朝は本当に一瞬で、夜だって暖かい室内で、いれてもらったお茶が冷める前に帰って行ってしまう。本当に短い時間。

 北の森のヒナが孵った。あのとき子犬だった猟犬がそろそろ引退する。すすめてもらったお菓子屋さんの新作が季節もので美味しかった。

 そんな、他愛無い日常会話。

 時折金髪の男が様子を見ていることがある。私が不審な言動をしないか注意しているようだった。


「ルゥ」


「なぁに、リオ」


 話しているうちに分かったのは、陛下の性格が酷く悪いという事だった。悪いと言うか、歪んでいる。捻くれていて、意地が悪い。

 『ルゥ』との思い出を時折話す。同意を求めてくるから、私は「そうだね」と返す。けれど、それが偽りだったりもするのだ。

「嘘だよ。そんな事はなかった」

 私にルゥを求めているくせに、自分で自分に違う事を突きつけているように見えた。

 戸惑う私を、目で楽しんでるように笑うから、尚更始末に負えない。


 他愛無い事を話して、私が慌てる様を一通り楽しんで、そうして、短い髪をまるで責めるみたいに、首筋を撫でて帰って行く。


 陛下は、『ルゥ』が好き。

 全身で感じる。あの人は、『ルゥ』が好き。

 そして、私は『ルゥ』になってしまっている。


 だから、錯覚する。


 落ちて行く感覚に、何度も悲鳴を上げながら目を覚ました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ