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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
小話
33/35

白の王の陛下 上



 礼拝堂で、兵に囲まれ、倒れ伏すその姿に、息をのむ。加減を忘れたその手で顔を確認し、

 帰って来て、くれたのかと胸が詰まった。こんなにも、消耗し、疲弊している今こそ。


 戻って、くれたのか、と。




「なんと呼べば良い? と、問われましたよ」

「彼女と話したのか」

 内容よりも言葉を交わしたという事実に反応してしまい、一瞬気まずくなる。

 目覚めてから指摘された、同一人物ではない、という可能性。よく考えれば、そうだ。十年前に出会った娘が、その当時と同じ姿をしているはずがない。

 どこをどう見ても、かつて焦がれたあの少女。けれど、目の前の従者は、まるで笑うのに失敗したかのように、唇をゆがめる。

 上手く見つけてきたものですね、と、忌々しそうに。

 十年、ただひたすら、傀儡にならぬよう振る舞い、二人で国の頂点を目指した。

 文句も言わず、泣き言も言わず、ただ着いてきてくれた。時には、導いてくれたこの従者に、かつての面影など無かった。

 あの少女と出会った頃は、人見知りで、人嫌いで、一歩前に出ることさえ気後れするほどのひどい引っ込み思案だった彼。今では鳴りをひそめ、このような冷たい表情を常に表にだしている。

 かつての人嫌い、警戒心の裏返しなのかもしれなかったが、それにしては人心を乱す言葉選びが絶妙だった。

 知らない所で、どんなものを目にしてきたのかさえ、この従者は隠し通す。ただ見ているだけじゃ分からない。ふと、想像して、その深淵の深さにすくむほどの、それ。

 従者の顔色に、しかしなんと言葉をかけて良いか分からず、ただ目をそらし続けてきた。

 とはいえ、顔色で言えば今の自分も負けていない。王位継承の折、結界の展開によって体内の魔力を根こそぎ持って行かれた。その結果が、この白髪だった。

 魔力が戻るにつれ色も元通りになるだろうとはいえ、頂点に戴く王がこの白髪にこの顔色では、民草が不憫だなどと思ってしまう。

 やっとの思いで辿り着いた頂点。もう良いではないかと心の中で誰かが囁く。もう、十分頑張ったではないか、と。

 始まったばかりだというのに何を言う、と別の自分が笑う。これから、頂点にとどまり、国を支えるのだ。

 かつて憧れた女性が口にした、『王様の、為に』彼女が、そんな風に思えるような、王様になるために。

 くじけそうな自分と、過去を支えにして進もうとする自分。そうして、気付く。


 だから、彼女が現れてくれたのではないか、と。


 同一人物か、別人か。そんなことはどうでも良い。同じ姿、同じ声で現れたことに、何か意味があるのではないだろうか。真実などどうでも良い。ただ、あの少女を「ルゥ」と呼ぶことの、何がいけないのか。


 あの鳥籠にこめた少女を、「ルゥ」にして、何がいけないのだ。


 朝も早くに彼女の元に出向いて、ルゥと別人なのだと確認する。自分自身に念を押すために、わざわざ言葉にして、このやり取りの全ては偽りだと、申し伝える。

 そうしていながら、『ルゥ』も『リオ』も、特別な呼び名だと言ったのに、彼女は一つも記憶していないことを知った。胸の内に昏い炎が灯る。

 十年前の出来事を、彼女自身から否定されたようで。記憶の中の『アレク』が泣きじゃくった。




 言葉を交わし、歓喜する。彼女がルゥじゃない。十年前の少女とは別人なのだと核心に近づくばかりだというのに、そんな中にも良いことはあった。彼女は『白い陛下』に焦がれていない。真っすぐに、戸惑いを隠さず、それでも、こちらをただ見つめてくれる。別の誰かに想いを馳せて、泣きそうな顔をすることもない。


 かつて、悲しそうな顔をするのがたまらなく辛かった。その視線の先を、塗り替えてしまいたかった。


 目の前少女と、かってのルゥと、どちらかを選べと言われれば、正直、選べないと思った。鳥籠の格子越しに、触れる。毎夜、頬を、首を、肩を。叶うなら、それら全てに唇を寄せて、手に入れることができれば良いのに。

 ある時から、いつも会話をする場所、鳥籠の格子のすぐそばで、眠るようになった彼女の姿に気付いた時、わけも無く胸が弾んだのを知っている。眠る彼女に、声をかけて起こすのではなく、手を伸ばすことで目覚めを促せる事実。また、それを許されているような錯覚を抱いた。


 少女の胸元に手を伸ばし、かつて自分が与えた首飾りがないことに、わけも無く苛立つ。

 彼女の首筋をそっと撫で、長さの足りない髪をひっぱった。

 違う人物だと念を押すくせに、相違点を見つけては苛立ち、また、喜ぶ。


 自分の勝手を自覚しながらも、改めること無く。やがて、彼女と言葉を交わす日々に、のめり込んで行く。

 魔力を消耗し、政務をこなすことさえ困難な現状、信頼の置ける部下に国政を任せ、こうして彼女と会ってばかりの自分は、やがて愚かな王となるのだろう。国を滅ぼす、王となるのだろうか。




 額と額を合わせた時に、なんとなく、考える。

 もう、この少女をルゥにして、ルゥとして大事にして、ずっと手元に置いても良いのでは、などと。

 籠から出してやって、かつての居場所をはまったくおもむきが異なるけれど、彼女の好きな薬草が多くある庭へ連れて行ってやろうと勝手に決めた。



 きちんと衣裳を身に着けて、籠の外、客間に佇むその姿に、わけも無く胸が躍る。手を伸ばして、白魚の手を取った。


 籠の中に閉じ込めたために、すっかり足腰の萎えている少女を抱きしめる。ただ触れたかったのか、それとも本当に労りの気持ちをもったのか、正直定かではなかったが。

 そうして、彼女の涙を目にして、呆然とする。なぜ泣いているのかが分からない。何故、ルゥでないのに。『白い陛下』とやらに焦がれているわけでもないのに、彼女はそうやって泣いているのか。

 そんな風に泣いてしまえば、まるで。

 まるで、ルゥのようじゃないか。


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