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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
白の王
3/35

 目覚めると、そこは籠の中だった。痛む腹部をさすりながら、ぽつりと呟く。

「悪夢みたいな光景だわ」

 薄暗い客間。高価な調度品が並び、天蓋付きの寝台の傍らに、私はいた。

 巨大な金の鳥かごの中に、いれられて。

「気に入りませんか」

 寝台に腰掛けていた人影に気付いて、私は最大限の距離をとる。こんなにも趣味の悪い籠をもっているのだ。何をされるか分かったものではない。

「陛下があなたを望みました」

 先ほどの男だった。今となってはうさんくさい笑みを絶やさず、最低限の言葉しか告げてこない。

「……質問を、しても」

 どうぞ、と言われ、ほっとすると同時に不信感を抱く。

「私、どうなったんですか」

 率直な問いだった。何が、どうなって、こうなったのか。

 だって私は、ただ大通りを歩いていて、恐らく馬車に轢かれたのだ。それが、どうして、見知らぬ礼拝堂に倒れていたというの。

 その問いに、男は肩をすくめるだけだった。

「さぁ。私に聞かれても。少なくともあなたは、魔力を使い城内に不法侵入した罪で、極刑ですよ」

「は」

 今、なんて?

「待ってください。私、なんでここにいるのかも分からないのに」

「自分の魔力を使っておいてそれは通じませんよ。あなたは犯罪者です」

「ならなんでその犯罪者が、こんな客間に、籠の中に、いるんですか」

 こんな風に質問を受け付けてくれる事だって、そもそも親切だと思っていい気がする。

「あなたに選んでもらわなくてはならないからですよ」

 選ぶ。

 もう、こんな籠に入れられている時点で、選択の余地などない気がする。何を要求されても、私はそれを聞くしか。

「陛下があなたを望みました」

 先ほども聞いた言葉を繰り返す。

 陛下、とは。先ほどのあの白い彼だろうか。そうだろう。そう呼ばれていたと思う。あんな顔色の悪い王様がいたのか。

 そうして、

「陛下のために振る舞うか、侵入者として拷問の末に殺されるか。どちらがいいですか」

 選びようがない二択を、男は提示してきたのだ。




 そうして、私はここにいる。

「今までの経歴は忘れなさい。あなたはこれから『ルゥ』です。陛下の呼びかけにハイと答え、笑顔を向け、要求を断らず、ただ、籠の中からあの方を慰めなさい」

「あなたを、なんと呼べば」

「……必要ありませんよ、あなたには」

 私の名を呼ぶことなど。

 冷たい言葉に思えるのに、どこか喪失を耐える者の目をして、男は首を振った。

「では、あの人を、なんと呼べば」

「陛下、と」

 この質問の返答は素早かった。

「さもなければ、陛下自身が、呼んでほしい名を告げるでしょう」

「……今言われたすべてを、断れば」

「全てと言わず一つでも、速やかに刑が執行されるでしょうね」

 あくまでもにこやかに、金髪の男はそう言って、私のいる金の鳥かご全体をざっと見渡す。

「ひとまず今夜はここで眠ってください。あなたの態度次第では、待遇の改善も考量しましょう。下手な事は考えない方がましですよ」

 下手な事も何も、何か企んできたわけではないのに。

 男が立ち去ったのを見送ると、金の鳥かごの中で、私は格子を背にずるずると座り込んだ。格子の間隔は大きく、一見すると間からすり抜けられそうな気になるけれど、それは魔力の壁に阻まれる。両手を突き出す事はできても、ここから出るのは不可能だ。

「治療、してくれたのかな」

 身体の痛みはだいぶひいていた。男に気絶させられる際殴られた腹部だけが、酷く痛む。

 身体も磨かれているような気がした。心もとない寝間着に、こんな格好で身内でもない男と対面していたのかとげんなりする。

「ここ、どこなんだろう」

 考えられる可能性として、馬車にひかれた私が、何者かに連れ去られ、ここに置き去りされた、という事だ。その何者かは、ここの人々の混乱が目的だろうか。

「それにしても、あんなに若い王様なんて、いたかな」

 馬鹿馬鹿しいたとえ話を放り出し、王様の事を考える。自分と近い年代の、白い王。あんなに若い上に目立つ王なら、知っていてもおかしくないと思うのに。

「……いや、いくら何でも、いくら魔術の虫だからって、さすがに世情に疎いわけではないわ……。常識くらい、身に付いてる。はず」

 自らを省みて、当てにならない事に気づき肩を落とした。ひとまず自分の国ではない事は分かる。私の国の王も若いけれど、私よりいくつも年上だったはずだ。大人の男の人。黒い王様。


 私には、夢があった。

 没落しかけの家の復興。四大貴族としての誇りを取り戻すために、王宮魔術師になって、国王付きになること。

 あぁ、けれど、それも。こんなわけの分からない事になってしまって。

「……なんて、魔力が覚醒しなければ、どうしようもないのに」

 自嘲気味に笑って、私のはそのまま眠りに落ちる。

 金の鳥かごの中は暖かく、手触りのいい薄い毛布一枚で十分だった。


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