表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の鳥籠  作者: 真城 朱音
赤の娘
24/35

 落ちる沈黙に、ただ、私は息を潜めてこうべをたれるしかなかった。音はない。けれど、そこに、絶対的存在がたたずんでいるのを知っている。

「……楽にしてくれて良い。かけてくれ」

 柔らかな声をかけられて、私の肩がぴくりと震える。そろそろと頭を上げたが、顔を正面に向けることはできなかった。俯いたまま、着席を促されているのに動けない。不敬だ。不審だ。

 臣下として仕えるつもりだった。今も、その思いに変わりはない。

 けれどどうしよう。こんな風に、簡単に、足を運ばれるとは思っていなかったのだ。

 震える声で、問う。

「……陛下、今日は、……何故ここに」

 国王陛下が、私の仕事部屋を尋ねていらっしゃった。




「王宮魔術師は、王直属の管轄になる」

 ぽつりともたらされた返答は簡潔で、聞いただけでは知りたいことに辿り着けない。思考をまわし、つまりどういうことかを考える。単純に視察かなにかということだろうか。新任の? わざわざ、陛下御自ら?

 目を白黒させていると、ため息が聞こえた。かと思えば、淡々と言葉が紡がれて行く。

「王宮魔術師は、魔の精鋭。基本的に城では守りの要、戦場では攻撃の要となる。数が少ないから、平時はほとんどが城に常駐していて、ごく少数がそれぞれ各要所へ派遣される。城の守護は結界が担っているから、好き勝手扱う術式によって結界に負担をかけぬよう、結界を支えている王の魔力に同調する必要がある」

 一息に言われ、瞬く。言われた言葉を繰り返し繰り返し、瞬いて、ようやく私は顔を上げた。

 弱り切った、陛下の顔がそこにあった。

「……つまり?」

「…………つまり、王宮魔術師になった時点で、城の全ての魔術師は国王付きだ。交代制で王のそばに付き、身体をその魔力に慣らす。ここで、一度魔力の質を教える必要がある。同調の仕方は分かるな」

 わけも分からないまま頷く。学院で教わったことで、当然の知識だった。

 間抜けな顔を見られていると思う。ため息を、またかれた。陛下が立ち上がる。黒い髪の間から、褐色の瞳がこちらから逸らされること無くのぞいている。

 おもむろに手を伸ばされ、怯んだのは一瞬だった。あれよあれよと、手を取られて。

「目を閉じろ」

 言葉に従ったのはほとんど反射だった。わけのわからない言葉ばかり言われる中で、唯一理解できたから。


 高い音が響く。からからと乾いた音がする。その音は、次第に一点へと集束し、

 弾けた。


 私から、陛下の方へ。


「……今のは」

 思わず目を開いて振り仰ぐ。眉をひそめる陛下に、私は今自分が何をしてしまったのか、分からなかった。混乱して、我を失っていたとしても、同調などと言う単純な動作が失敗する謂れはない。にも、かかわらず。

 膝が、笑い出す。

 とにかく私は、陛下の魔力をはじいてしまったのだ。同調が、行えなかった。

「すみ、ませ」

 腰が抜ける。膝が崩れ床に座り込みそうになる所を、陛下に支えられる。思わずその腕に縋って、けれど視界に入っているはずの陛下を見失いながら、なぜ失敗したのか考える。分からない。だって、こんな風になるなんて聞いたことがない。

「……目」

「は」

「元々、そんな色だったか」

 言葉を飲み込んで、眉をひそめる。まばたきをして、陛下の顔を間近で見上げた。黒い髪、褐色の瞳。私より、ずっとずっと年上の、大人の男の人。

 遠い過去の、思い出になった人。錯覚がよみがえる。高鳴る胸に、気付かない振りをした。

「おい」

「はい!」

 よそ事を考えていたのがばれたのか、陛下が重ねて問う。何を問われたのかと慌てて思い起こし、目? と口の中で呟いた。

 支えてくださっている陛下の腕から逃れて、ぱたぱたと執務用でない机の前に足を運び、そこにあった鏡の布を取り払った。両手をついて、覗き込む。

(……赤い)

 こんな赤は、知らない。

 私は、髪も瞳も、どこにでもある普通の色だったはずだ。目立つこともない。特別美しくもない、普通の。

 国王陛下を振り返る。これはなんでしょう、とわけも分からず、知らない、と首を振る。眉をひそめて何も言わない陛下に、私はただ立ち尽くした。

「……魔力は、使われすぎると身体に影響を及ぼす」

 知っていた。けれど余計なことは言わず、ただ頷く。

「けれど、その目のような例は、聞いたことがない……」

 私もだ。こんな話は、知らない。陛下から短く、他に異常はないか、体内での魔力の流れは正常か、小さなことをいくつも問われる。私はその度に意識を集中させ感じ取りながら、どこにも異変はありません、と返した。

 陛下の問いに答えながら、考える。


 同調は、主に強い魔力の持ち主に、弱い魔力の持ち主らが合わせる行為を指す。

 この場合、陛下の魔力に、私たちが王宮魔術師が合わせるのだ。そのとき、何が起きるか。同調とは、どういうことか。

 魔力に置ける同調とは、大きな流れに、小さな流れが沿うことを指す。


 では、例えば。逆だったら、どうなるのだろう。

 小さな流れに、大きな流れがそってしまったなら。


 私が陛下の魔力を、飲んでしまったのだとしたら。


 思わず口元をおさえた。そんなことあるはずがない。この国に置いて、最も魔力が大きく強いのは、王族であるはずだ。だと言うのに。

 仮説の一つが成ってしまった。


 王族の力を取り入れた。その異変があらわになったのが、この赤い目だったなら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ