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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
黒の王
19/35


 白い髪の青年、金髪の男、黒い髪の少年、金髪の青年。四人の登場人物と言葉を交わしたとつげた所で、私は解放された。

 私は、屋敷にひとりでに戻ってきたらしい。誰かに運ばれたというわけでもなく。

 何も聞いていなければ、またか、と思っただろう。また、私は、誰かに誘拐され、置き去りにされ、その誰かは姿をくらましたのだ、と。

 けれど、話を聞いてしまった以上、そんな風に自分を誤魔化すのも限界だった。


「私……、暴走していたの…………」


 兄も魔術学院長も明言はしなかった。けれど、そういうことなのだろう。魔力を封じられたのも、気がついたら見知らぬ場所にいたのも。

 馬車にひかれ、背中を斬られ、毒を口に含んだ。たびたび死にかけたショックで、覚醒したての魔力が暴走した。なるほど、納得いく。それしか考えられない。

 むしろ、そういう型ができてしまっているのではないだろうか。私は、これから先、死ぬかけるたびどこか別の場所に行ってしまうのかもしれない。

「そう何度も死にかけるなんて、ありえないけど」

 願い下げだ。けれど、現実に半年間で三度続けて起きている。


 応接間の扉の前にいた私は、物音に顔を上げる。兄の従者が、応接間から出てきてわたしを見つめていた。

 ふと、気付く。

 兄の従者の、金褐色の髪が、いやに目についた。

「……ファナリア様」

「はい」

「気になりませんか? あなたが現れた場所」

 常に兄のそばで、兄の味方で、支え続けていた彼が、私に直接話かけてくるのは、酷く珍しいことだった。

「……お願い、します」

 だから、これはこの人が不意に見せたきっかけなのだろう。何か、意図があって持ち出した。

 そして恐らくこの人は、私が「それ」に今この瞬間手を伸ばさなければ、二度と触れない。私に明かそうとした物を、二度と表に持ち出さない。きっと。


 一生。


 だから、私は。

「こちらに」

 案内されたのは、屋敷の裏手、日の差さない、暗い裏庭だった。暗所や湿気を好む薬草が植わっており、枯れにくいこともあってか、そこは私の見慣れた庭だった。

 兄の従者の後ろをついて歩いていた所で、くるりと彼が振り返る。私は瞬きしながら、兄よりも少し背の高い彼を見上げる。

「……あなたが姿を消して、あのお方は体調を崩されました」

 見下ろす彼に、私は目をそらす。この会話の語り口の意図を探った。

 脈絡のない、わざわざ言われなくとも分かっている、その言葉。

「……。内緒の話、ですか」

 ご名答、と笑う意地の悪いその表情は。


 白い陛下の元にいた、金髪のあの人を思い出した。


 ずっと考えていたことがある。

 白い陛下を探すには。

 アレクのことを、見つけるには。

 ただ、もう一度会って、言えなかった「さよなら」と、心配しているだろうから「元気だよ」「ごめんね」を言うために、どうすればいいか。

 白い陛下を見つける方法は、まだ、分からない。でも、


 兄の従者は、私の様子を注意深く観察している。そんな所も、あの人に似ていた。兄の従者は私の方を見つめながら、緩く握った右拳を胸の高さまで掲げ、私の方へ差し出してくる。

 そうして、まるで奇術師のように鮮やかな手つきで手の中の物を明かした。

「これは、あなたの物ですか」

 青い、輝き。

 咄嗟に胸元に手をやる。ほんの少し前までそこにあった物を指先で探し、ないことに愕然としながら従者を見返す。

「どこに」

「落ちていました」

「兄は」

「知りません。報告は、していません」

 どうして。

「ファナリア様は、これが何かご存知ですか」

 私の物か、と聞いたあとで、何か知っているか、と、緩やかな笑みで問いかける。

 この人は、何もかも知っているのではないだろうか。

「……ねぇ」

 教えて。


 ずっと考えていたことが、ある。

 白い陛下を探す方法はまだ分からないけれど。

 アレクを探すためには、どうすれば、いいか。


「この国にも、他国にも、たくさん散らばっていると言う、一族を知らない」

 知っているはずだ。

 長年兄に使えてきた、この男なら。

「血のつながりを利用されないために、その家にのみ従って、一族内でさえも殺し合いを演じると言う」

 目の前にいる兄の従者は少しだけ目を見開き、動じていませんよ、と取り繕うように笑った。取り繕う仕草さえも、何かの演出のように。

 動揺している暇はなかった。

「ベアトと言う、男の子を、知らない」

「…………」

 ふと、空白があった気がした。

 一瞬だけ、兄の従者は苦しそうな目で私を見て、瞑目する。おもむろに、向かい合う私との距離を一歩詰めた。

 両の手が、私の顔を囲うように伸ばされる。

 青い輝きが胸に揺れるのを見て、瞬いた。なぜ、この人は今こんなことをするのだろう。私の物だと認めたのかどうなのか。兄にも黙っていたこれを、どうして。

 頭のてっぺんに、気配を感じる。目の前に迫る男性の胸に、一瞬判断が遅れた。

 ごく間近で、睦言のような囁きが、かけられた。


「ベアトは、私です」




 見開いた目は、彼を見ていられず宙を彷徨った。

「私は、この屋敷のベアトです」


 国内外に散らばる一族。仕えた家にのみ従う、時によっては一族同士で争うこともある、一族。

 それがベアト。


「個人の名などでは、ないのですよ」


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