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金の鳥籠  作者: 真城 朱音
黒の王
18/35




 夜、休もうとしていた所へ兄がやってきた。

「……どんな、夢だった」

 半年の間、私の身に何があったかが聞きたいのだろう。こちらが聞きたいくらいなのに、分かるわけがない。何を言えば良い。死相の色濃い白い王様のこと。幽閉された黒い王子様のこと。

 黙り込む私に、兄はさらに続ける。

「何人と、関わった? 名を告げた?」

「……人、数?」

 単純な質問に、鈍く固まりかけていた私の思考がまわりだす。出会った人々、顔、名を読んでくれた、優しい人たち。

 それなら。

「二十人、も、いないわ」

 最初に見つかった兵。陛下。金髪のあの人。数人の侍女。そして、小さな王子様。その従者。食堂の人たち、侍女、庭師。

 ルゥ、と呼ばれ続けた。

 ファナ、と呼ばれ続けた。


 私をファナリアだと知っているのは、もしかしたら、たった二人だけかもしれない。


「名前は、二人、にしか」

 それも、家名まで告げていない。そう言えば、兄はそうか、と笑顔を見せた。心の底からほっとしたように。目覚めてから、こんな風に兄が笑いかけてくれたのは、始めてだった。

 兄は、何度も言う。

「そう、か。よかった」

 なにが。

 疑問が顔に出ていたのだろうか。兄は少し笑顔を消して、私から目をそらす。

「明日、魔術学院長が、くる」

「え……」

 何を、しに。

「復学の手続きを、しに」

「嘘」

 そんなの嘘だ。権威ある、王立の魔術学院。その長が、わざわざ休学中の生徒のためにくるわけがない。

 うちは没落しかけなのだ。

 四大貴族がなんだというの。その肩書きが、魔術学院長さえ呼び寄せるような物なら、この家はこんなにも傾いていない。

 魔系の貴族は実力が全てだ。研究した結果が、作り上げた術式の質が、数が。それを受け継ぐ人間がいなくなった家は、かつてどんな栄光の元にいたとしても、淘汰されて行く。

 祖父は魔力に恵まれず、父は才に恵まれなかった。そして兄は、身体に恵まれなかった。

 祖母はどんなに望んでも一子しか残せず、母は私が宿った時も奇跡と言われ、無理をして身体を壊した。

 父は母を気遣い、祖父母とともに田舎の小さな領地で細々と暮らしている。王都の屋敷には、魔道を諦めて城に文官として出仕している兄と、王宮魔術師を目指す私だけだ。

 父も、兄も、魔力はあっても先祖や曾祖父の残した研究を何一つ受け継ぐことはできなかった。私の家は魔系貴族の中心から遠ざかり、今では四大貴族と名乗ることさえ許されなくなるかもしれない。

 私の魔力が覚醒しなければ、もう、あとがない。


 だと言うのに、魔術学院長の訪問。ただ事ではない、と思うのが当たり前だった。

 私の疑いの視線に、兄はさらに視線を遠ざけた。

「……落ち着いて、聞け」

 ゆっくりとこちらを向いたかと思えば、息をのむほど真剣なまなざしを向けられる。なに、と問い返す間もなく、兄は言った。

「ファナ。お前の魔力が、覚醒した」

「は」

 何を、言い出すのだ。それこそ。

「嘘よ、だって」

 体内に魔力は感じない。分かるはずだ。魔系の貴族に生まれて、自分の魔力が分からない人間など、いないはずだ。

 兄は頷く。

「今は、魔法薬によって、一時的に封じている」

「ふう、じ、って」

 そんなことが必要な人間なんて、ごく稀だ。めったにいない。いるはずがない。今までどんな人間が魔力を封じられてきたのか、考えるまでもなかった。

「私、犯罪者に……?」

「違う」

 出なければなんだというのだ。ではどんな悪質な魔力を覚醒したのか。

「何をしたの、私」

「何も。お前は何もしていない。ただ」

 ただ?

「……魔系貴族の長として、お前の魔力を……学院長が、調べる」

 それだけだ。ゆっくり休め、と兄は言い、出て行った。


 そんなことを告げられた私が、眠れるわけがなかった。




 次の日の午後、魔術学院長はやってきた。

 応接間に向かい合って座る。兄はすぐ隣だ。

 思ったよりもずっと若い男の人だった。短くも艶のある黒髪を見て、それ以外何の根拠も無く高い地位の人間なのだろうと想像させる。

 琥珀の瞳と目があった。学院長は私をじっと見つめたかと思えば、全身確認するようにさらっと見回し、ふむ、と一つ呟いて口元に手をやる。

「珍しくも何ともない髪の色と瞳の色、……関係なさそうですね」

 手元の帳面になにごとか書き込みながら、兄に向かってそう呟く。兄も確かに、などと言って頷いていた。分からないのは、私だけだ。

「ていうか、兄様に、敬語……?」

「君は十日前、屋敷に帰って来た。帰って来たその時のことは覚えてる?」

 私のつぶやきは聞かれなかったようで、学院長は構わず私に問いかけてきた。私は慌てて首を振る。何だろう。何がはじまったのだ。これは何の尋問だろう。


 私はただ、私の魔力を封じられた理由が知りたかった。


「最初に見つけたのは私の従者だ」

「ふむ。では、その瞬間も?」

 私は置いてけぼりで、学院長は背後を振り返る。いつも兄の後ろに控えている従者がそこにいた。彼は、小さく頷くだけで何も言わない。

「構わん、学院長にも話せ」

 兄に促されて、ようやく従者は口を開いた。

「見てはいませんが、音は聞こえました」

 音?

「というと、どんな」

「聞いたことのない音でした。あぁ、魔術を使う瞬間に聞こえる小さな音。アレを、何倍も大きくしたような」

「……そこであなたが」

「あぁ、ファナリアの……」

 瞬く私に、学院長と兄はまたなにごとか二人で話しだす。私がここにいる意味も分からなくなってくる。

 兄が言葉を切ってこっちを見ていた。何、と瞬く。口を挟んだ所で、無視されると思っていたから、ここにきて会話に入れるとは思っていなかった。

「……ファナリア」

「はい」

 改まって名を呼ばれて、私は身を引き締める。

「お前の魔力、結界系だった」

 結界……? うちは、魔法薬に特化した家系だったはずだ。

「その中で最も希少で、使いこなす人間は少ない。使いこなせなければ、お前は魔系でもなんでもなく、ただの人だ」

 知らないわけない。思い当たるふしはある。でも、まさか。


「転移魔導士」


 知らない。思わず拒絶が漏れた。そんなも力が覚醒するなんて思ってなかった。

 それだけじゃない。と学院長が呟く。なにがですか、と私は囁いた。聞こえたかどうかは分からない。

「転移だけじゃありませんよ、恐らく」


 学院長が、不穏な言葉を呟いた。

 転移だけじゃない、と。だから、ここにきたんですよ、と。


 ファナリアのお家事情。

 両親祖父母が引っ込んでる領地というのも、元領地。父親は既に領主でもなんでもないけど代々治めてきた血筋ってだけで領民からすごい優遇されてる。わっしょいわっしょいみんな元領主様大好き。現領主は、領地自体が要所でもなんでもない場所であるため引き取り手も特に無く、案件後回しにされまくって結局王領のまま数年経ってる。

 という本当にこの魔系筆頭大丈夫なのかなと不安になってきました。

 筆頭だけど、他の魔系貴族にもちゃんと豪華な貴族暮らししてるお家はあります……。


 以上書きかけたものの必要ないかと省いたお家事情でした。

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