表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金の鳥籠  作者: 真城 朱音
黒の王子
11/35


「植物園じみた庭ね……」

 窓から眺めて、思わずそう呟いた。えー? と横にいたアレクが駆け寄ってきて、私の腰にしがみつく。背伸びをするようにかかとを浮かせて、私の見ている光景を同じように見ようと一生懸命だ。

「前の、住人が、知識の家系の、貴族だったようで」

 扉の内側、二、三歩の距離にまで私に近づいてこれるようになったベアトが、アレクから目を離さずに説明してくれる。

「薬学者の庭として、使われていた、とのことでした」

 黒い王が治めるこの国の貴族は、四つに分類できるようになっている。剣、知、魔、癒。それぞれ特徴持つ力があり、それぞれの頂点が、四大貴族。中でも魔分野の貴族は強力な力を持つ者が現れることが珍しく、高位の人間が少ないため、魔系貴族としての発言力、地位は低い。魔だけでなく癒にも言えることだが、剣知の家系と違い、力の大きさに生まれが影響される。反対に、剣と知の家系には、力の大きさが生まれに左右されることはほとんどない。

 異能の攻守が魔癒、技能の攻守が剣知をそれぞれ司る。また、長年の研究が家ごとに受け継がれて行くのが魔知、感覚により個々でやり方が大きく異なるのが剣癒とも言われる。

 魔力の覚醒を迎えていない私は、学んできたことは知識系の貴族となんら変わらなかった。家に伝わる魔術研究の書物を紐といても、実践できなければ意味がなかった。

「ファナは、知の貴族?」

 だから、ふいに問いかけてきたアレクに、思わず頷きかけ―—。

「……そうだよ」

 そのまま、首肯した。だと思った、とアレクは得意げに胸をはる。ベアトは不思議そうな顔で、「貴族だとは、思っていましたけど」と呟いたが、それ以上問いつめてはこなかった。

「魔とか癒系の貴族が力を使う時って、どんな気分なんだろうねー」

「自分の魔力を使う、とか。消耗する、とか、ですか?」

 王家の人間だから、きっと覚醒がまだなのだろう。そうそう、と楽しそうなアレクの声を聞きながら、ふと前に言われた言葉が脳裏によみがえる。


 自分で魔力を使っておいてそれは通じませんよ。


 なぜ、今。

 あの人の言葉を思い出すのだろう。

 金髪の彼。

「ファナ、様?」

 同じく金髪のベアトが、遠くから私に声をかける。おもわず振り返って、彼を見た。

 きらきら輝く金の髪。陛下の隣にいたあの人は、もっとずっと、深みのある色だった。ベアトのように仏頂面ではなかったし、それでいて優しくもなかったけれど。

(髪は、特に色が濃くなることはよくあることだけど)

 だから、もしもベアトが大人になったら……。


 そのとき、ふと、ベアトが微笑んだ。


「ファナ様?」

 私の様子を伺うように、どうかしたのか、と問うように。

「ベアト……あなた」

 強い既視感。なに、その、表情。私が目を見開くと、ベアトは真顔に戻った。私の様子に戸惑ったように、アレクへと視線を写し、助けを求める。

 私の腰にしがみついたままだったアレクは、「ファナー?」と私の名前を呼ぶ。アレクの頭を撫でながら、私はベアトに問いかけた。

「ベアト、あなた……、兄がいる?」

「い、え。あの、」

「じゃあ、よく似た親戚は?」

「よく、わかりま」

 困っているのが伝わる。あのね、とアレクが私を見上げた。

「ベアトはね、いっぱいいるの」

 言い回しの不確かさに、へ? と思わず見下ろす。

「俺には俺しかいなくて、代わりができるまでは、俺が代わりをするしかないんだけど。ベアトにはね、いっぱい代わりがいるんだよ」

「親戚、が。多いのです」

 ベアトがぽつりと捕捉する。

「国外にいる人も、国内にいる人も、血のつながりだけなら、たくさん、います」

 けど、と彼は続ける。

「その家のために、しか、皆動きません。あまりにも多くて、その繋がりを悪用されることを、防ぐため」


 私たちは、家族で殺し合いを演じます。本意にせよ、偽りにせよ。


 投げかける言葉を失って、私は口をつぐむ。アレクは私からふらりと離れ、ベアトに抱きついた。

「ベアトは喋るだけで良いんだよ。喋ってくれないのが一番やだよ」

 喋らなくなったことがあるのだろうか。そんなことまで聞くことはできず、私はベアトに近づいた。思わず逃げたそうに彼の足が下がるけれど、アレクがしがみついているため素早く動けないようだった。

 彼の、この、ひとを怖がる仕草は、単に人見知りだとかそういうことではないのだ。

 手を伸ばす。そうせずにはいられなかったから。

 くしゃりと、その頭を撫でた。びくりと震えるベアトが、人に慣れない小動物かなにかのようで、思わず微笑む。

 ふと、気になったため思わず聞いてしまった。

「ねぇ、ベアト。あなた、今いくつ?」

「……十五ですよ」

 どこか居心地悪そうに、不服そうにしているように見える彼に、あぁ、男の子としてのプライドがあったのか、と何となく思う。

 けれど、と撫でる手を止めずに、あなたは? という問いに答える。

「私の方が、一つ上なの」


 不服そうなベアトを見ていて、少しだけ思う。

 また、笑ってくれないかしら、なんて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ