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目覚めて、数日。
背中の怪我は、治療で一時的に痛みが消えていただけで、やはりしばらく動けなかった。その状態も落ち着いて、私は多少の無理がきく状態だと確認する。
私が寝たきりの間、アレクもベアトも顔をのぞかせるにとどめるばかりで、それも私が寝ている時だ。食事も起きたら用意されているという有様で、現状を把握するための接触が限られていた。
起きていられるようになって、ようやく理解し始める。
どうやら、ここは、陛下のいたお城とは別の場所らしい、ということ。窓から見える景色が、陛下のお城では城の塔や一面の空であったのに対し、ここから見える景色はほとんどが森で埋まっている。尖塔の数も少なく、離宮とは言うものの砦のような風体だった。確かに、内装一つとっても、質素、悪く言えば無骨なものが多い。
どうして、私。こんな所にいるの。
陛下はどうしたの。治癒者を連れて戻ったとき、私のいない寝室を見て、どう思ったのだろう。私を襲った兵に、仲間がいて、陛下に囲われていた私を、誰かがさらったのだろうか。
そんなことを、陛下の所にきたばかりの時も、思った気がする。
そう何度も、さらわれるなど、ありえるだろうか。殺されるでも、襲われるでも無く、城の堂内や、離宮の前に置き去りにして、姿を眩ますだなんて、奇妙な、こと。
考えても考えても答えは出ず、私はひとまず、一番に気になっている事をアレクたちへ問いかけた。
白い王様について、何かしらない?
「白い王様?」
ベアトくらいの歳の? とアレクはベアトを振り返る。未だに扉の脇からこちらに近づいてこようとしないベアトも、ぷるぷると首を横に振った。
「俺もしらなーい」
「消耗していた、と、いうなら。代が、替わったばかりなのかもしれません」
思っても見なかった言葉に、私はあぁ、と納得がいく思いで頷いた。
「王の、代替わり」
ベアトは小さく頷いて、ぼそぼそと続ける。
「この、大陸は、魔法が広く、残っていますから。相応に、魔力を使った生活を、想定した国づくりが、確立されています。国王ごとの、結界の設置法は、やり方や影響はどうあれ、王が消耗するという一点について、どこも違いはありません」
「それなら」
いつか、見つけられるだろうか。
願望のような展望は、声にすることができなかった。
「そのうち、諸外国へ向けた発表があるでしょう。代替わりは結界が弱まるので、知らされない事の方が多いですし」
ベアトの言葉に、うん、と頷いた。
どうしても、探し出さなければならない。
死んだのなら、あきらめもついた。でも、私はまだ、生きている。生きているなら、会いに行かなければ。
生きている以上は、あの人の負担になど、なりたくない。
「トラウマになんか、なりたくないわ」
死んでもいないのに。
あれはどうしたって、最後の手段だったのだから。
「ファナ?」
あてがわれた部屋の隅、窓の外を眺めていると、部屋の入り口から声をかけられた。振り返ると、屈託なく笑うアレクがいた。思わず、笑って返す。
「アレクは、ここで何をしているの?」
「? 何も?」
あの、白い王様に会いに行かなければ、と思ったものの、ひとつの誤算があった。
アレクが暮らすこの森に囲まれた小さな城は、驚くほど外界から遮断された世界だったのだ。
「いつか、アレクは王様になったりはしないの?」
王の魔力で、国の結界は作られる。王の魔力が、年が経つごとに弱くなれば、年齢など関係なく、この小さな少年にも王位につく可能性はあった。
アレクには、それさえも許されないというのだろうか。私がそう思ったとき、返事はあった。
「なるよ!」
誇らしそうに、胸を張って、あっけらかんと、彼は言う。
「今、次に俺しかいないんだって。いつか、何年後か分からないけど。従弟がうまれて、大人になるまでの間の、つなぎなんだ」
いつか、使い捨ての、傀儡の王になるんだよ、と。
「……なに、それ」
数日過ごしてきて、分かっていた。この離宮に、アレクは幽閉同然の生活をしているのだと。
正直に言って、自分の国の王様がこんな事をしているなど知りたくなかった。こんな少年を、こんな所で。まるで飛び立つ羽をもぐようにして、閉じ込めているだなんて。
「いいの?」
思わずベアトを振り返る。金髪の青年は、わずかに身体を震わせて、私から目をそらした。
「よくは、ない、です」
でも、と彼は私の視線に負けじと続けた。
「アレク様が、王子らしく学ぶと、ただそれだけで。どんな危険が迫るか、想像もできません」
今でも、とベアトは言葉を続ける。純真な目を向けてくるアレクに、少しだけ硬い表情を緩めながら、
「狙われていない、と言うわけでは、ないんですよ」
王家を支えるべき四大貴族は、いったい何をしているのだろう。魔の家系は没落しかけで中央では力を振るえない。足を踏み入れる事もできない。では他は? 剣、知、癒の三家はいったい何をしている。
王が、よしとしたらそれで良いのだろうか。
私の中にあるのは四大貴族の誇りだけだ。王家の事情も、貴族の力関係も、何も知らない。その誇りでさえ、表に出す事もおこがましいほどの、ちっぽけなもの。
けれど、こんな少年が、こんな風に扱われていていいはずはない。いつか王の椅子に座るのだという少年が、何も知らないでいていいはずがない。
「アレク」
なんて伝えたら良いだろう。
そう、例えば、白い陛下を導いた『ルゥ』のように。
私にも、アレクを助けることができるだろうか。
連載当時は1日あけたため気にしなかったのですが、通して読んだら違和感があったので、ファナリアが現状に混乱している描写を追記しました。(14/01/29)




