俺の職場がヤヴァイ
前回、次は砕牙VS豹牙だと言った。
残念ソレは間違いだ!!
砕牙とのイザコザも何とか収まり、その後あったなんやかんやも片がついたある日、俺は地獄にいた。
当然ながら死んだ訳でも無く、そこが仕事場なんだ。
砕牙は地獄を治める焔魔天(閻魔大王って言った方が皆知ってるか)で、俺はその補佐官。色々と面倒な事が大量に起こったから後処理とか色々することがある。嫁には悪いけどかなり忙しい。
嫁の春都は、砕牙の友人だったんだが、さっき言った面倒な事で砕牙は尋常じゃない程に傍若無人な振舞いをした、その時に春都はアイツと縁を切った。
今では砕牙が謝罪し、交友関係も回復はしただろうが、恐らく此処の仕事をするのに春都はいい顔しないだろう。
今回で砕牙もろとも俺もかなり色んな人に嫌われたから、本当に春都には申し訳ない。
ただ、そうは言っても仕事は仕事。俺も最近は砕牙の上司から羅刹天(砕牙とほぼ同格の役職。連中は俺に砕牙を見張らせたいんだろう。)にされたりしたから、責任も増えてサボれない。
そんな事を考えている間に職場に着いた。地獄の中にある砕牙の仕事場、通称「閻魔殿」。
ここに俺の仕事する場所もある。後2人の同僚の仕事場も・・・。
「そうだ、アイツらに比べたら俺の嫌われ具合なんて大したことじゃないよな。」
「アイツらとは、誰の事ですか・・・?」
「うぁっ!?」
不意に後ろから聴こえた声にビビって後ろを振り向く。
そこには同僚の1人、望人がいた。
望人。
僧服に身を包んだ白長髪の男で、目上の奴にも目下の奴にも、ダチにも敵にも敬語で話す丁寧な物腰の奴だ。
鴆という鳥の妖怪(久遠ヶ原風に言うと悪魔か?)で病弱なんたが、戦場に出て傷つけば興奮するというかなりの変人だから地獄の軍の特攻隊長をやってる。因みに俺は暗殺兵長兼トップの補佐だ。
先の騒動の時も大暴れし、己の傷を一切顧みずに無数の人々をなぶり殺しという凶行を行ったせいでかなり評判は悪い。悪評の耐えない砕牙を「閻魔王」って呼んで崇拝してどんな命令でも従ってるから狂信者って呼ばれたりもしてる。
友人と呼べる連中も俺らを除いたら1人くらいしかいないし、下手したら砕牙の次くらい嫌われてる。普段はいい奴だから気の毒だ。
「い、いや・・・、誰の事でもないよ、うん。」
「そうですか、だったら良かったです。」
そう言ってニッコリ笑う望人、マジでいい奴なんだよな、普段は・・・。
黙ってれば顔も良い、性格も控えめ親切で丁度いい。
「何でお前、戦闘の時だけあんなにイカれるんだろうな・・・?」
「そんな事を言われても・・・。」
まぁ、そうだわな・・・。
「まぁいいや。で、何の用だ?」
「個人的にあまりよくは無いんですけどね? あぁ、そうだ言い忘れるところでした。閻魔王がお待ちです、『砕牙邸』で。」
「マジかよ・・・・・。」
砕牙邸は仕事をしない時の砕牙の家で、アイツの趣味や好きな物が大量にぶち込まれてる場所だ。呆れるくらい大量の酒や、全く掃除をしないアイツの性格のせいで、若干臭い。
この地獄殿の奥にあって行くのも面倒だし、あんまり行きたくないんだけどな・・・・。
「まぁ、砕牙が呼んでるってんなら仕方ないわな、行くか。」
「いってらっしゃい。私は此方で仕事をしておきます。」
そう言って深々と礼をする望人を後目に地獄殿の奥へ進む。
・・・・・アイツ、ホントに礼儀正しい良い奴なのになぁ・・・・。
所変わって砕牙邸。やっぱり酒と埃の臭いがする。
「しかし、何でアイツがこんな所に呼びつけるんだ・・・?」
普段は仕事を家に持ち込まない奴なのに・・・・、まさか勤務時間に私事か?
そんな考え事をしてたからだろう、咄嗟の反応が取れなかった。
風切音にハッとなって飛び退くも、少し遅くてシャツの前を持っていかれる。俺の目の前には地面から勢いよく飛び出た細い刃があった。
「こんなことをしやがるのは・・・・・。」
「せ~いか~い!! お前の足りない脳味噌でもそのくらいは分かったのね~傭兵野郎!」
そう言って地面からヌッと出てくる白衣の男。
「俺はまだお前の名前を出してないんだぞ? キナ臭い影野郎が。」
「ハッ、どうせお前の想像したのは俺だろうがよ、薄汚い傭兵野郎が!」
あぁ言えばこう言うってのはこのことだ。何か言えば言い返して馬鹿にしたような目をしてきやがる。
全く、これを俺や望人と同格の地位に置いた砕牙の思考回路が分からんぜ・・・。
暗山 影次。
昔はそれなりにデカい病院に医者として勤めていたらしい凄腕の名医。俺も手術の光景は見たがブラックジャックみたいな速度と正確さだった。更には凄まじい天才で、ありとあらゆる策を練る事が出来るんで砕牙はコイツを自分の主治医兼地獄の軍医、そして作戦参謀長にもしている。
実際、コイツは凄い。俺もアホじゃないから凄いのは認めてやる。だけどな・・・・・。
コイツは異常なまでに性格が悪い。
医者時代は患者を選り好みするせいで病院をクビになり、ココの参謀になってからは思わず正気を疑いたくなるような非道な作戦をザクザク練る。本人だって「大事な1人護る為に、どーでもいい何千何万を『尊い犠牲』においてやる」って言ってるしな。
さらには途轍もない狡猾さもある。地獄において多分誰にも腹を見せていない。「地獄の財政の為」って言って裏稼業をやってるけど、そのどれもがやっぱり無茶苦茶に非道。最早コイツには血が通ってないんじゃないかと思う(例えば、2つの睨み合って動かない勢力をそれぞれ部下を仕込んで嗾けさせて、その両軍に武器売りまくってぼろ儲けとか。このやり方のせいで何千人も死んだ)。
その金も半分は自分の懐に入れて何か自分でやってるし・・・、これじゃあ本人や砕牙が「良い所」って言ってる子供好きも、唯のロリコンに思えてきちまうよ。
「って、お前とこんな喧嘩してる場合じゃねぇんだよ。俺は砕牙に呼ばれて来たんだ!」
「あぁそうかい。だったら仕方ねぇなぁ! 汚いワンコとジャレてたいが仕事なら仕方ねぇ。」
「テメェ・・・・!!」
上に書いただけでも俺はコイツが嫌いなのに、更にコイツは何故か俺を「薄汚い傭兵野郎」だの、「金の犬」だの呼んで馬鹿にしてくる。理由は知らんがマジでウザい!
「あ? 何だ? お前俺を睨むのか? いいねぇ、そのくらいの気概があったら今度何か非常時になったら真っ先に矢面に立てるな! 嫁さん泣かせないように気をつけとけよ!」
「・・・・・・チッ・・・!!」
1番気に入らないことだが、コイツは砕牙に非常時(砕牙死亡や、砕牙不在時の敵襲撃等。実は結構あったりする)の地獄の全権限を任せている。能力的にはOKだろうが、性格的に絶対ダメだろうに何やってんだ砕牙は・・・!!
駄目だ、コイツと話してたらイライラしちまう。
そう思った俺は、未だにむっちゃ笑ってる影野郎を無視してサッサと奥に進んだ。
数時間後、自宅。
「もう・・・・・・疲れた・・・・。」
グッタリと床に寝そべる。春都が見たらだらしないとか言いそうだけど、布団敷くのも億劫なレベルでしんどいから仕方ない。
砕牙が呼んだ理由は、「モンゴルに旅行に行きたい」だった。
何でも向こうにいる罪人を管理する神、「黒い守り神様」に会いに行くついでに俺らと旅行って言う学生っぽい事をしたいらしい。久遠ヶ原の生徒だってことを最近やたらと活かそうとしてるしな、アイツ・・・。
「ったく、仕事に私事を混ぜるなよ・・・・・。」
そう言いつつも口元に広がるのは笑み。
最近はテンション低めか、高くてもただ暴走してるだけだった砕牙が以前のようになりかけてる、それは素直に嬉しい。
部下だ何だって言っても、俺はそれ以前に砕牙のダチだ。ダチが元気なのはやっぱり嬉しい。
「・・・・しゃーない。旅券の準備とかしようかな。」
うん、旅行も悪くないかもな。
望人も偶には楽しい事すればいいし、影野郎もモンゴルの大自然を見たら少しは心が綺麗になるかもしれない。
何より、俺だってダチと旅行は初めてだ、ワクワクする。
俺は若干浮かれながら起き上がる。
やる事は目白押しだ。旅券やホテルの準備に、多分話せるの俺だけだろうからモンゴル語の復習もやっとかんと駄目だ。
更には春都を置いて旅行することになるし、宥めるいい方法も考えんと・・・。
取りあえず、俺は旅行会社のホームページで旅券を取る為に、ネットカフェに向かうのだった。
別に次回はモンゴルの話ではありません。
次回は春都とのイチャイチャになります、はい。