君が悲しむくらいなら
超久々にこちらです。
「分かったか豹牙。 お前はもう仲間でも家族でもダチでもないんだよ。 いや、最初からか。」
地獄。
あらゆる闇を砕く正義の機関とも、亡者や鬼が犇めく恐ろしい魔所とも言えるこの場所で、閻魔大王 獅子王 砕牙はそう彼に告げた。
「砕牙、お前・・・・。」
その「彼」とは、閻魔を務めたこともある優秀な副官、神風 豹牙だ。
良き部下であり、また無二の友でもあった筈の彼は、その友の言葉になにも言えず、固まる。
当然、悲しい。
だが、それより彼の心を占めたのは疑問の心だった。
「何でだよ砕牙。 今の地獄でお前1人で治めるのは無理だろ?」
豹牙の言う通り、今の地獄は相当に不安定である。
ギリシア神話の軍勢と戦い、勝利こそ収めたものの被害は甚大。側近も1人失う始末だったのだ。
そんな中である。 優秀な副官を失えば、頼ってばかりではないと言えども治められなくなるだろう。
だが、親身からの心配も、向けられた閻魔は一笑に帰した。
「ほざけ雑魚が。 お前なんぞに心配してもらえんでも、此処は動かせるわ。」
そう言って笑う砕牙。
本心のようにも見える、だかどこか無理してるようにも見える。
そんな彼の姿に、豹牙はただ戸惑うしかなかった。
「り、理由何だよ理由!!! 何の説明も無しに何言ってんだ!!!!」
そう言って詰め寄るも、やはり冷笑が戻るのみ。
「理由? 飽きたんだよ。」
いや、冷笑のみの方が、まだどれだけ良かっただろう・・・。
その後に続いたのは、信じていた友から送られるにはあまりにも残酷な言葉だった。
「今まで騙し、友と偽り、良いように使って、怪我させたり殺したり。 中々に楽しかったが、それでもやはり飽きは来た。 俺はダチと偽り、家族と騙して殺した連中が数十数百になる。 その中の1つってだけだよ、お前は。」
薄ら笑いを浮かべながら、そう言う砕牙。
目は冗談の色ではなく、まぎれもない本心だった。
「・・・・そう、か・・・。」
そう言って下がる豹牙、その顔は悲痛に歪んでいた。
「お前がそう言うなら、俺はそれでいいよ・・・。」
こうして、閻魔大王最強の副官、「殺鬼」神風 豹牙は地獄を去ったのである・・・・・。
「ただいま・・・・・。」
家に帰って戸を開ける。いつもなら待っててくれた春都を喜ばすために奇抜な入り方するんだけど、今はそんな気力も無い・・・。
理由は、砕牙だ。
俺はあいつを親友だと思い、春都以外では初めて信頼した。
だからこそ、人を捨ててまであいつに力を貸し、傘下に入って副官として仕えた。
あいつが己の思うような地獄を築けるように、俺は裏方として奔走した。あいつに向かないのならばどんな悪評も構わなかった。
恐らく、春都と知り合い、愛せてなかったら俺は砕牙と薔薇の花を咲かせていただろう、それほどに信頼していた。(まぁ、今では春都が1番だが。)
その男から、友ではないと言われ、飽きたと嘲笑われ、あいつの組織を抜けた。
俺はあいつにとって、玩具か何かでしかなかったってわけか・・・・。
「おかえりなさい、豹牙・・・。」
見ると、春都の表情も沈んでる。
普段は笑顔で迎えてくれるから、今日は珍しい。
だけど、珍しいってだけだ、別に嬉しくもなんともない。
やっぱり彼女は、笑ってた方が似合うんだ。
「どうしたの? 何か嫌な事でもあった?」
そう訊くと、春都は悲しそうな顔をして首を振り、
「違うの。今日ね、砕牙に会ったの。」
と言って話し始めた。
「その時に、砕牙がいきなり、『お前と友達づきあいするの止めた。』って言い出したの。訳分かんないから理由を訊いたら、『元々、お前らとダチになったつもりも無かった。お前らを騙して遊んでたんだよ。』って言われて・・・・・。」
その内容は、俺のソレと全く一緒だった。
(そっか、俺と一緒か・・・。)
そう、心の中で呟き、取りあえず春都は「よくある突発的な自虐の類だよきっと。」と言って慰め、その日は普通にメシを食って寝た。
その日の夜。
泣き声を聞いて目が覚め、隣を見ると春都が泣いていた。
「え、どうしたの・・・!!」
そう訊くと、春都は目に一杯涙を溜めながらも、頑張って笑顔を作り、こう言った。
「ご、ごめんね豹牙・・・。起こすつもりは、無かったんだ・・・・。」
彼女は、優しい。
それに、強い。
だから、あまり人前で泣いたりしない。
だけど、彼女は色んなことで傷ついてた。
母に最近まで自分のことを忘れられたり、許嫁に色々嫌がらせみたいなことをされたり、色々。
だから俺は、彼女を守りたいと思った。
己の悲しみを表に出さないようにして、俺を気遣ったりもしてくれる優しい彼女を、守りたいと。
「大丈夫だよ、春都。泣きたいなら、泣いてもいいよ。」
そう言って、抱きしめる。
何かの糸が切れたのか、春都は声を上げて泣き出した。
俺は黙って背中を撫でながら、心の中で決意を固めた。
砕牙、俺はお前をダチだと思ってた。
例えお前がどんな思い方をしてたとしても、俺にとってお前は大事な親友だった。
だけど、お前が春都を傷つけた。
俺は、春都が悲しむくらいなら・・・・・・。
お前を、殺すよ・・・・・!!!
次回は、いつ出すかは未定。
砕牙と豹牙の戦闘、かな?