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いつでも美少女と一緒

作者: 潮路

 俺の名前は和木臥 歩尾(わきが ぶお)。


 わっ、こいつ望まれずに生まれた醜男だろうな。と思ったろ…その通りだ。


 そもそもうちの家系には醜男か醜女しかいない。

 ワキガなんて苗字を継いだ両親も両親だ。こんなの人にあらずっていってるものじゃないか。


 最近「美少女と一緒にゲームの世界でキャッキャウフフしたい欲」がすごい。もうはちきれんばかりだ。月1程度の頻度だったものが、このところ毎日だ。

 症状としては、二日酔いのような、ひどい胸焼けと頭痛、腹回りの圧迫感。このままだと吐いちゃう。不自然に吐いちゃう。

 こんな俺でも、まだ大学2年生。これから世に立つ予定である。



「なあ、お前最近、美少女と一緒にゲームの世界でキャッキャウフフしたかったんだよなあ」


 そういうのは、数少ない友達・霧出 遭都(ぎりで あうと)。随分とあんまりな名前(顔はもっとアウト)ではあるが、俺よりかはマシだろう。


「ああ、そうだ。俺は最近、美少女と一緒にゲームの世界でキャッキャウフフしたい。猛烈にしたい」


 猛烈に胸焼けを起こす胸部をさすりつつ、意思表明をする。


「なら、こいつをお前にくれてやるよ」


 手渡されたのは、1本のゲームソフト。タイトルは『いつでも美少女と一緒』である。はて、こんなタイトル、最新のラインナップには載っていなかったはずだが。


「はっきり言うが、これはキく。お前の欲望なんざ消し飛ぶくらいにな」


 そう言う霧出は随分やつれている。このゲームソフトが何か関係があるのだろうか。

 だが、俺を見くびってもらっては困るぜ。今まで美少女が出てきたゲームソフト(その多くは子供には見せられないもの)の数は4桁を超える。

 シナリオの「超速理解」、製作者の「意図読解力」を持ち合わせ、常人の10倍の速度でコンプリートをする。「美少女モノの虎」なのだ。

 醜い経歴を自画自賛する俺に、霧出は最後の言葉をかける。


「フッ…じゃあな、『確かに渡した』ぜ」


・・


 家に帰り、俺は「いつでも美少女と一緒」を起動した。

 過程なんざ関係ない。結果こそが全てだ!!


 ディスクの回転音が耳に心地よい。やり尽くした俺にとっては春先に訪れる薫風の調べ…のようなものだ。すごく気持ち悪いが気にしないでくれ。

 黒い画面に「NOW LOADING」の青文字。ふむ、普通のゲームだな。


「あなたが新しい住人かい? 」

「最大血圧:155ッ!!」


 おっと、失敬。突然声がしたので、最大血圧を披露してしまった。

 今のはおそらく、製作者の小粋なドッキリか。まあ、それもよかろう。


 しかし、やけに遅いな。オープニング画像はまだか…


「起きろ、高血圧」

「BMI値:35ッ!!」


 再びのドッキリに、今度は肥満度を披露。


「何を寝ぼけている。行くぞ、タケザワカオリの討伐だ」


 あ、ああ。そうだったな…

 俺はそばにあったフルフェイスを頭に装備。背中にマシンガンをかけて戦闘準備をする。


「気をつけろ。あいつらにとってはルーキーもベテランも、ただのエサだ」

「はい、隊長」


…ってウォィッ!!


・・・


 どうやら、俺はゲーム世界へトリップを果たしているようだ。

 これで俺の欲望の一つ、「ゲーム世界で」というのは満たされた。


 しかし、目の前にいるのは、壮年のオッサン。しかも非常に醜い顔をしている。まるで鏡に映った俺の顔のようであった。いや、それ以前にお前誰って話だけど。


「私の名前を忘れるとは…高血圧、お前本当に寝起きが悪いな」

「は、はいすいません。この不肖めに是非、名前をお聞かせください」


 適当に謙譲語やら尊敬語やらを並べる。


「私の名前は結草(けつくさ)。結草 夏璃郎(けつくさ げりろう)だ。覚えておけ」


 はい、覚えました。もう忘れません。

 俺はアンマリな名前を持つ輩が世間にはたくさんいることを勉強した。


「それよりタケザワカオリとは一体? 討伐とも仰っていましたが」

「お前は自分の職務すらも知らんのか」


 ゲリに呆れられるとは。さっさと話を進めろ糞野郎。


「タケザワカオリは18歳。身長171cm、体重は秘密。3サイズは88.60.88。好きなものは読書…黒のロングヘアーをしており、性格は若干意固地な生徒会長タイプだ」


…うんむ。なんだ。なかなかよいではないか。好印象だぞ。続けたまえ。


「討伐命令から1ヶ月。犠牲者は750名を超え、B級と判断された」


 ほお、犠牲者というのは…きっと玉砕した醜男の数なんだろうな。そんなに高嶺の花なのか…よし、主人公である俺が摘み取ってやろう。


「現在B-39地区にて、我が軍と交戦中だ」

「よし、ならばそのB-39地区とやらに進もう」

「いきなり随分勇ましくなったじゃないか。目がようやく覚めたのか」


 覚めたも覚めた。さっさとイチャイチャさせろ。イチャイチャ。


・・・・


 主人公には、チート能力がつく。主人公には可愛いメインヒロインがつく。そしてなにより、主人公が玉砕することなどありえない。


 舐めるな。幾千もの戦場を乗り越えた、この俺に不可能などない。


「到着したら起こしてくれよ」


 余裕綽々で、俺は「軍」とやらのトラックで、B-39地区へと運ばれた。

 

…しばらくして。


「うわああああああああ」

「セルライトッ!! 」


 突然の声に、燃焼しにくい脂肪の名称を言ってしまう。

 このゲームはプレイヤーを驚かせることが目的なのだろうか。


「なんだなんだ…」

「運転手がやられた。さっさと外に出ろ、外に」


 運転手め…運転もせずに抜けがけとは許さんぞ…


 怨嗟の声を上げながら、俺はトラックの外に出る。

 

 そこには、血まみれの大地と、大量の醜男の死体があった。


・・・・・


 なるほどな。これが霧出の言っていた、「美少女と一緒にゲームの世界でキャッキャウフフ」の意味だったのか。

 額に穴のあいたトラック運転手(醜男)を見上げ、俺は悟った。


 辺りには、大量の醜男の死体と、大量のブレザー美少女。

 くそ、揃いも揃ってボインでいやがる。こんな状況でなければヘヴンだったんだけどな。俺は主人公として、務めを果たさなければならないようだ。


「雑魚は引っ込んでろ!! 」


 構え方も知らないが、引き金を引いたら弾が出たので、マシンガンを撃ちまくる。

 これで雑魚美少女兵は全滅するはずだったのだが、何故か一人も倒せていない。


「あり…? 」


 美少女兵は優れた統率力で、醜男軍を蹂躙していく。こりゃ、ターゲット・カオリに到達する前に全滅させられてしまうのではないか。


 つまりこのゲームは、高嶺の花を攻略する為に、取り巻き女子共の猛攻をくぐり抜けなければならない…というリアル志向を追求したわけか。

 確かに、女子の団結力は無駄に強固だからな…と妙に納得してしまう俺。


「醜男は消毒よ!! 」


 美少女兵の火炎放射。あちらこちらで悲鳴が湧き上がる。


 ちなみに、下着は見えない。こんなに躍動しているのに、鉄壁スカートに阻まれて見ることはおろか、近寄ることすらできないのである。

 この製作者、分かってやがるぜ…ッ


・・・・・・


 こうなれば、独断専行。

 他の醜男共はさておいて、俺一人で攻略に向かわせてもらおう。

 建物や樹木の影を利用して、見事に視界の外に動く。

 高校時代にストーキングをした経験が、ここで活きた。


 幸いにも、醜男軍は数だけは多い。せいぜい時間を稼いでいてくれ。


「おい、抜けがけする気か貴様!! 」

「朝バナナッ!! 」


 突然の声に、昔試したダイエット法を暴露してしまった。

 美少女兵もこちらに気づいてしまったようだ。


 その声の正体は、ゲリ野郎であった。

 太ももに銃撃を受けていて立つこともできない上、眉間に銃を突きつけられている。チェックメイトというやつなのだが、腹いせに俺まで道連れにする気である。


「お前らごときに構ってたまるかよ」


 俺は走ってB-39地区まで向かう。数十人の制服美少女達がそれを追う。傍から見れば、それはもう羨ましい光景だろう。そんなに羨ましけりゃ代わってやるけどな。


 んなことより、攻略対象はどこだ。配布された地図を見て、正確な位置を探す。カオリちゃんに会わないことには、ゲームが始まらない。俺のドリームが始まらない。


 そんな俺に、上から声をかける者がいた。


「やっと来てくれたのね」


・・・・・・・


「あんたがタケザワカオリか」

「ええ、そうよ」


 上を見つめ、製作者の好みを判別する。

…が、仕様のためか、見えることはなかった。非常に悔しい。


「今、私の下着見ようとしたでしょ」

「当然だ。あまり虎を舐めない方がいい」


 大体、スカートを履いていて、真上から話しかけるということは…「そういうことをしてください」と宣言しているようなものだ。白々しい。


 仕様と言えば、追いかけてきたはずの、雑魚美少女兵達がやってこない。

 どうやらボスバトルが始まると、タイマンに持ち込む仕様なのだろう。

…製作者め。これがお前の唯一の悪手だ。


「とにかく、ここまで来てくれたからには、もてなしてあげないとね」

「それは俺のセリフだ。お前を討伐しなければならないみたいだからな」


 こんな時のために、常に何種類もの脚本を組んでいるのだ。そのおかげでお袋に泣かれたこともあるくらいにな。


 彼女は20Mの鉄塔から、見事に着地。右手に白金の剣を、左手に白銀の盾を装備している。

 接近戦か。これは…俺の勝利のようだな。


「すぐに終わるわよ」

「それも俺のセリフだ」


 彼女は超高速で前進。一瞬で剣の間合いに俺を入れる。

 ふむ、なかなか鍛えられているな。その太もも、後でじっくりと堪能させてもらうとしよう。


 俺は余裕の笑みを浮かべた。マシンガンを放り投げ、両手を広げる。

 そして…


 俺は彼女の絶叫を聞いた。


…勝負ありだ。タケザワカオリ…ちゃん。


・・・・・・・・


「な、なんて気持ち悪い顔なの…」


 タケザワカオリは嘔吐した口をぬぐい、涙目でそう言ってのけた。


 そうだろう、そうだろう。俺が「この顔」をするときは、女の子を愛でる時だけだ。

 俺自身も鏡で初めて「この顔」を見た時、「よし、この気持ち悪い生物を世の中から排除しよう」としたくらいだ。



「俺に勝てる奴はいない。このゲームの世界だろうがな」

「そ…それは…自慢になっているの…」


 彼女は脱力したまま動けない。

 さて。バイオレンスな時間はここまで。これからはアダルトな世界が待っているぞ。カオリちゃん。

 手をワキワキさせながら、生徒会長のもとへ歩く。


「いや…来ないで…」


 ダメだ。俺は命を狙われたのだ。その代償をその身をもって味わっていただかなくては。


「そそられるねえ、その太もも」


 彼女は腰を抜かしながらも逃げようとするが、若干、俺の移動速度の方が早かったようだ。

 鉄壁スカートがまた、いい味を出している。グッジョブだ製作者。

 88のバストが随分としぼんで見えるが、まあいいか。


「じゃあね、すぐに楽になれるよ」


 俺は、自分が想像する最も気持ち悪い顔をした。


・・・・・・・・・ 


 感想。いかなる鉄壁スカートも、めくれば問題ない。

 色は教えない。知りたきゃ、自分でプレイして確かめろ。


「すげーな…お前」


 霧出は思わず感嘆した。

 あのデス・ゲームを、いともたやすく完全攻略してしまうとは。

 和木臥 歩尾(わきが ぶお)、恐ろしい子。


「次、面白そうなゲームがあったら教えてくれ。攻略してやるから」

「ち、ちなみに…一番タイプだった子は誰だったんだ…」

「うーん、生徒会長も良かったけど、宇宙兵器の幼馴染かな…」


 宇宙兵器とか出てくるんだ…。

 ブレザー美少女隊の時点で、死に物狂いでドロップアウトをした自分が情けなくなる。


「ま。『いつでも美少女と一緒』ってタイトルには騙されたかな。終盤はあながち間違ってなかったけどさ」


 終盤どうなるんだよ…。


「最終的には名誉勲章までもらっちゃって、ホントいい経験させてもらったよ。ありがとな、霧出」


・・・・・・・・・・


 バグにより現実世界にまで影響を及ぼし、莫大な死傷者を出したこのゲーム。和木臥は、完全攻略を達成し、無事、全世界の男性の平和を救ったのである。

 その過程を聞こうとしても、「夢と胸は、自分の手で掴んでこい」と言って話してくれない。こういうジャンルにだけストイックになるのが、こいつの悪い癖である。


 当初持っていた「美少女と一緒にゲームの世界でキャッキャウフフしたい欲」は完全に晴らされたようで、ゲーム内の美少女達に行った、悪事の程が想像できる。


 諦めかけてたけど、このゲーム、もう1回プレイしてみようかな…


 家に帰って、霧出は「いつでも美少女と一緒」を起動した。


 しかし、ニューゲームもコンティニューも出てこない。

 その代わり大文字で『二度と来るな』とだけ書かれていた。



しかし、CG集だけは全てオープンされていたらしい。

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