一日だけしか戻せない
すぐに私の意識が戻ってきた。
今の私はまだ校舎の中だった。机の上に鞄を置いて、私は立っていた。鞄は開いていて、その横に教科書にノート、筆箱が並んでいる。
その様子がくっきりと見えた。泣いてなんかいない昨日の私がそこにいた。でも、すぐにその光景は揺らぎ始めた。
リセットしても心の痛みは治らないらしい。
心の痛みも治してよ!
そう叫びたい気分で、座り込んだ。
「未海、どうしたの?」
真帆が心配そうに私のところにやって来た。
お前のせいで泣いてるんだろ!なんて、言っても仕方がない。
「う、ううん。
別に」
私は制服の袖で、涙をぬぐった。ハンカチなんか出している余裕は無かった。
「どうした?」
緒方君が通りすがりにそう言って来た。
「お前のせいだろ!」
そう叫びたかったけど、これも言える訳がない。泣いている私を心配してやって来てくれたのならうれしいけど、きっと真帆と話すきっかけ。そう思っているに違いない。今だって、視線は私じゃなく、真帆に向いているじゃない。そう思うと、私はこの場から立ち去りたかった。
乱雑に、一気に机の上の教科書とかを鞄に詰め込むと、真帆に緒方君、それに夏織を押しのけて、教室を飛び出した。
私はそのままトイレに駆け込むと、あれを取り出してボタンを押した。
でも、私の頭はくらくらしたりなんかしなかった。
何でよ。
何で、動かないのぅ。
こんな時に!
私はあんな態度で教室から逃げ出した。ここでリセットできなきゃ、あんな態度をとってしまった事を無しにできないじゃない!
私は涙でかすむ中、そのボタンを何度も何度もトイレの個室の中で押し続けた。
でも、その装置は何の働きもしなかった。結局、私は知った。一日以上戻せない事を。