本当にリセットしちゃった!
このまま闇に引きずり込まれるのかと思っていた私の意識が、少しずつはっきりしてきた。
そして、私は左肩を後方に引っ張ろうとする大きな力を感じ、思わずちょっとのけぞってしまった。
「はい?」
私は体勢を立て直しながら、そんな声を上げて左肩を見た。
制服姿で鞄を手にもたず、肩にかけている。そんな感じ?
「あれ?」
私はあたりをきょろきょろと見渡してみる。
私の少し先を友達の真帆と夏織が歩いている。それも、制服姿に鞄を手に。向かっている先はいつもの通学路を駅方向に。
「あれ?」
私はさっきまで、自分の部屋にいたはず。そして、あの一日リセットできるとか言う怪しげな物を手にしていたはず。なのに、今は学校からの下校中のようじゃない。
私は自分の手を見つめてみた。あの怪しげな装置は無い。
「未海、何してんの?」
立ち止まって、呆然としている私に気付いた夏織が言った。
「えっ、あっ、ううん」
私は訳が分からないまま、二人のところに駈足で向かって行った。
「だからさぁ、未海はどう思うのよ?」
突然、そんな事言われても、何の事か分かる訳ないよ。私はそんな気分。
「な、何だったっけ?」
「はい?
未海、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
作り笑いで、頷いて見せたけど、本当は大丈夫な訳ない。きっと、あんな変なものを買おうとした頃から、私の頭は腐りかけていたのかも知れない。そして、今腐ったのよ。きっと。
でも、それって、命が危ないって事?思わず、私の体から一気に力が抜けた。へなへなとその場に座り込みそうな気持を持ち直し、首を横に振ってそんなよくない思いを振り捨てた。
きっと、そのあたりにそんなよくない思いが散らばったはず。
私の視線が歩道に向いた。
「もしかして、聞いてくれてなかったの?
だからさあ。
昨日のアニメ 予言の少女の終わり方よ」
夏織がちょっときっつい口調で言った。
「えっ?
昨日?」
なになになに、どう言う事?
予言の少女は一昨日の話じゃない。
あの話の終わり方って、昨日も話したじゃない。
夏織は何を言っているの?
私の頭は迷走した後、一周して、結論にたどり着いた。
慌てて、私はスマホを取り出して、画面を見た。
画面の真ん中に、時間と日付がでっかく表示されている。その日付は1月23日(水)となっているじゃない。
それって、やっぱ昨日じゃん。
って、ことはよ。
やっぱり一日戻ってるんじゃんか。
やったぁー!
思わず、私は心の中でガッポーズをして、にんまりとほほ笑んだ。
「なになになに、突然にんまりして。
ちょっときしょいわよ。」
「あ、ごめん、ごめん。
何でもないよ。
そうそう、あの終わり方だよね。
あれはね、」
そう言った。そう、昨日も。
私の頭の中は、今の状況を理解した。
あの装置は本当に一日戻せるんだ。しかもリセットと言う状態で。決して、時間旅行じゃない。だから、あの装置は私の手に無いし、服装だって、ボタンを押した時の家着じゃないんだ。
でも、記憶だけは保持されているらしい。
ちよっと、リセットとしては不完全な気もするけど、記憶まで消しちゃったら、過去に戻れる意味ないもんね。
ある意味、すごい発明品。誰よ、こんな凄い物発明したの。そんな話聞いたことないんだけど。しかもそれがどうして、あんなところでオークションにかかってたのよ?
まぁ、不思議な事はいっぱいあるけど、それは置いておいていいじゃんか。だって、それが私の手にあるんだから。
そう思った瞬間、ちょっと不安になった。
今は無い。本当に明日、届くのだろうか。
明日届く!きっと。そうよ、きっと。
オークションで落としたんだから。そう自分を思いこまそうとしても、不安がもたげてくる。折角手に入れたあの装置、明日届かなかったら、大損じゃんか。
どうしたらいいのか?
「うーん」
ちょっと不安げな顔つきで、私はうなってしまった。
そんな私を二人がまた怪訝な表情で見た。
「何でもない、何でもないよ」
私は顔の前で、右の手のひらを振りながら、そう言った。
明日、あれは再び私のところに届くはず。きっと。やってしまった事は仕方ないじゃん。
そう信じて、明日を待つ!
なんと前向きな私。ちゅうか、能天気な私。