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先手必勝って、ありかな?

 教室に現れた痛々しい男の子。

 それはやっぱり緒方君。

 私がそう認識した時、クラスの男子たちが緒方君のところに駆け寄っていた。


 「どうしたんだ、お前」

 「大丈夫なのか?」


 緒方君の所に駆け寄った男子たち以外も、緒方君の事を驚きの表情で見ている。

 真帆は?

 私が振り向いて真帆の方を見ると、真帆も驚きの顔で緒方君を見つめている。


 「誰かにやられたのか?」

 「ああ。

 青木開明高の知らない奴らにやられた」


 痛々しい口で、緒方君が言ったその時、勢いよく椅子がひかれる音が私の背後でした。私が振り返ると、真帆が口のあたりを手で押えて立っていた。


 何?

 緒方君が入ってきた時ではなく、なんで今?


 私は真帆の態度に首をかしげた。

 それからも、男の子たちは緒方君に色々と話を聞いていた。

 その話を要約すると、昨日の緒方君は電車を降りて、自宅へ向かう途中背後から駆け寄ってきたその他校生たちに取り囲まれ、突然殴られたと言う事だった。

 突然見知らぬ他校生たちに殴られた理由。

 緒方君は分からないと言う事だった。

 かわいそう。

 そう思った私は無駄かも知れないと思ってはいても、あれを使わずにはいられない。あんな痛々しい緒方君を見てなんかいられない。私は勢いよく立ち上がると、鞄を机の上に置いた。

 あまりに急いでそうしたために、私は大きな音を立ててしまい、みなの視線が私に集まったのを感じた。


 「未海」


 夏織の声が聞こえたけど、関係ない。私は鞄のチャックを思いっきり全開して、手で底のあたりをまさぐった。

 大きなサイズの紙。ノート。ぺらぺらの紙。何かのプリント。関係ない。

 固く小さな箱状の物が手に触れた。

 それを掴んで、取り出すと、私はすぐにスイッチを押した。

 くらくらした後、私の意識がはっきりしてきた。辺りはいつも通り、平和そのものな教室。明るい笑い声に、女子たちのにぎやかなおしゃべり。


 やがて、授業が始まった。

 私の頭の中は緒方君の事でいっぱい。授業の事なんか、何も入ってこない。

 何とかして緒方君を守ってあげたい。

 あんな痛々しい緒方君は見たくない。たとえ、私の緒方君じゃなくても。

 私は正面に向き直って、黒板に目をやった。私たちに背を向け、先生が黒板に数式を書き続けている。

 どうすればいい?

 私はシャーペンを持った手をノートに置きながら、それだけを考えていた。

 緒方君に言ったところで、無駄だろう。

 緒方君を車で送っても、どうなるか分からない気がする。

 だったら、先手必勝ってのはありかな?

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