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起きた大きな事件!

 そして、大きな事件はすぐに起きた。

 試験の最終日。朝の日差しが窓から差し込むダイニング。テーブルの上にはほかほかと湯気の上がっているごはんにお味噌汁。その前にはアジの干物と厚焼き玉子。私の前にはお父さんが新聞を読みながら、お箸でご飯を口に運んでいる。お兄ちゃんはもう出かけてしまっていて、ここにはいない。お母さんはキッチンで私のお弁当を作ってくれている。

 私はそんなお母さんに悪いなと思いながらも、もくもくとご飯を食べていた。勉強好きじゃないと言っても、少しは勉強している。

 今、私の頭の中はその覚えた事が少しだけど、つまっている。しゃべったり、頭をふったりすると、せっかく覚えた頭の中の記憶がぱらばらと零れ落ちそう。そんな気がして、私はあまり頭を傾けずに食べている。

 そんな私の位置からはTVが見える。私の家の習慣で朝はニュースである。頭を傾けないので、自然と視界の正面にTVがある。

 色んなニュースをやってるみたいだけど、今の私はそんな話は無視、無視、無視。

 ヨーロッパの国の独立運動?関係ないない。

 アジアの国の新しい国家主席?関係ないない。

 関係の無い話に興味を示す余裕も、頭の中の空きスペースも無い。

 私は目に映る映像も耳から入る音声も、頭の中枢部には入れずに入り口でシャットアウト。

 そんな私のシャットアウトしているドアをこじ開ける音声が耳に届いた。


 「県立大和水川高校生2名が事故で死亡」


 私の高校じゃんか。思わず、私の視覚だけでなく、頭もテレビに向かった。話では昨日、埋め立て地の県道を暴走していて、信号無視して突っ込んだところ、出会い頭に別の暴走グループと衝突したと言う事だった。

 画面には無残に潰れた原付が転がっていた。ナンバープレートを取り外したハンダの黒の原付。それには特徴があった。まるで痛車のように、その側面にアニメの少女のキャラクターが描かれていた。

 ぷっ!

 吹き出しそうになった。ここで吹き出したら、口の中の食べ物だけでなく、頭の中の覚えていることまで、吹き出してしまう。ぐっとこらえていると、犠牲者の二名の名前が表示された。

 安西翔太。

 山崎翼。


 「げっ!」


 思わずそんな声を出して、立ち上がってしまった。死んだのって、うちのクラスの不良じゃない。

 その瞬間、私の頭の中から、試験勉強の内容は全て零れ落ちた。

 私は零れ落ち試験勉強の内容を再び頭の中に入れるためと、この事件を未来が変わるかどうかのテストに使うために、あれを使った。



 無残な試験最終日前日の結果。いえ、本当は元々いい結果なんて、望めやしなかったんだけど。今日の結果は最悪。昨日一度受けた後、試験勉強の中身は頭から全て消し去り、本当の今日の試験勉強の内容と入れ替えてしまっていたんだもん。


 「はぁぁ」


 思わずため息しかでない。

 教卓の上には回収された最後の試験問題用紙が置かれている。その後ろでは担任が教壇の上に立っていて、何か言っているけど、絶望感に満たされている私の頭は何も受け付けていない。担任が試験用紙の束を教卓の上から手に取り、教室を見渡した。


 「起立、礼。ありがとうございました」


 担任の意図を組んだ当番が号令をかけた。


 「はぁぁ」


 教室内にそんな声があふれた後、席を立つ音と私語が飛び交い、教室の中が一気に騒がしくなった。 私は席を立って、普段は話なんかした事の無い不良 安西の所に行った。


 「ねぇ、安西君」


 いかめしい顔つきで鞄を手に、椅子から立ち上がろうとしていた安西に話しかけた。ほぼ金髪と言っていいほどの長髪を揺らしながら、睨み付けるような目で私も見た。ちょっと怖いのが本音。


 「ああ?」

 「あのさ。

 今日の夜なんだけど、埋め立て地の県道で暴走するのかな?」

 「はぁ?

 なんだ、てめぇ。

 なんで、そんな事お前に言わなきゃなんねぇんだ」

 「はは。そうなんだけどね」


 思わず、一歩後ずさりしてしまった私。そこに山崎までやって来た。いかつい不良二人相手に、か弱い女の子。そんな私たちをクラスメートたちが何事?って感じで見つめている。真帆と夏織なんか、私の近くまで来て、心配そうに見ている。


 「今日さ、埋め立て地の県道で暴走すると事故っちゃうよ。

 そんな占い。

 今日はさ、止めた方がいいかなぁって」

 「ざけてんのかぁ?

 もっぺん言って見ろ。

 そんなもの、誰が信じるかっつうの」

 「黒の原付に乗ってないかな?

 アニメの少女キャラを描いた」

 「な、な、何だお前。

 何言ってんだ」


 動揺してるじゃない。きっと、そんな事人前で言われて恥ずかしいんだ。私はそう思った。意外と小心なとこがあるみたい。


 「占いの人が、そんな原付に乗っている安西君と山崎君が赤信号無視して突っ込んだ交差点で事故るって、予言したんだよね」

 「だ、誰がそんな事言ってんだよ?」

 「ごめん。

 私も実はまた聞きなんだ。

 でも、とにかく気を付けてね。

 じゃ」


 私は軽く手を上げて、その場を離れた。真帆と夏織が何してんのよぅと言うような表情で私に駆け寄ってきて、私の腕をとって引っ張った。安西たちは怪訝な表情でそんな私を見つめていた。

 こんな話、信じるかどうかと言えば、正直疑わしいと思う。でも、気分的にはよくないに決まっている。だったら、きっと埋め立て地に行かないとか、信号無視しないとか言う事になるんじゃないかと思っている。信号無視はするか。それが仕事みたいな奴らだから。でも、場所は変えるんじゃないのかな。


 私はその日、この結果が気になって、気になってしかたなく、勉強も手に着かない。正直言うと、普段も勉強に集中した事はなかったんだけど。それに、昨日も勉強したしねと言う大義名分が余計に集中力を削いでいた。今朝、頭から覚えた事をこぼしてしまった事は無かった事にして。


 その晩、私はぐっすりと眠れなかった。

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